「事前確定届出給与、支給日前に不支給決議すればお咎めなし」なる謎理論について
このような珍説から抜け出すための処方箋として、《民法会計》なる奇説を提唱してみます(奇説をもって珍説を制す)。
【会計の種類】
企業会計
会社法会計
税務会計
民法会計 ←New!
次のような事例で検討します。役員報酬を素材にしてしまうと変なバイアスがかかりそうなので、普通の事例でいきます(通常事例思考)。
【事例】
3/1 にコンサル契約を締結
3/15にコンサルしてもらう
3/31にコンサル料支払う
これを《仕訳思考》によって表現すると、次の通りとなります。
《仕訳思考》
3/ 1契約締結時 仕訳なし
3/15役務提供時 支払報酬/未払金
3/31支払時 未払金/現金
このせいで、「契約締結時に債権債務が発生する」という民法側からしたら当然のお話しが、なぜか税務界隈では認識できない状態となってしまっているわけです。
ここで「もっと民法を勉強しろ」と言ってしまえば簡単ですが、「民法の規律を仕訳で表現する」という奇妙な発想により、見えなかったものが見えるようになるのでは、と思いつきました。
《民法会計》
3/ 1契約締結時 コンサルしてもらう債権/報酬支払債務
3/15役務提供時 コンサルしてもらった成果/コンサルしてもらう債権
3/31支払時 報酬支払債務/現金
通常の会計と異なるのは、「契約締結時に債権債務が発生する」という大原則を忠実に表現している点です。期限付きとはいえ契約締結時に債務は発生していると。
そして、コンサルしてもらう債権が履行されたことにより、成果が生じて債権が消滅します。で、支払期日に支払いをすることにより、債務が消滅します。
◯
上記は無事に契約関係が終了した場合ですが、「解約」した場合も表現してみましょう。
まずは、役務提供前に解約した場合です。
《役務提供前》
3/10解約 報酬支払債務/コンサルしてもらう債権
債権と債務双方が消滅するため、消滅による損益は生じないですみます。
問題は役務提供後に解約した場合です(この場面も解約というのは変ですが、用語を揃えておきます)。
《役務提供後》
3/20解約 コンサルしてもらった成果 ←消しようがない
報酬支払債務/債務消滅益
債権は成果に置き換わってしまっているため、もはや消しようがありません。そのため、報酬支払債務を消滅させたことによる消滅益だけが生じることになります。
だからといって、当然に課税すべきというのではなく。この債務消滅益に課税すべきかどうかは、税法内部で解決する問題となります。
◯
このように、《民法会計》という思考方法を導入することで、
・債務は契約締結時に発生している
・債務消滅益に課税すべきかどうかを検討すべきなのは役務提供後の事例
ということが可視化されたかと思います。
これが「役員報酬」だと、債務発生は支給決議時だとして、役員の役務提供が報酬支払債務とどう対応しているのか、ということを検討しなければならないわけです(私個人としては、1年単位での対応関係にあるから、職務執行期間が開始してしまった以上、部分的に消すのは原則不可と考えています)。
どのように考えるとしても、少なくとも「支給日前に不支給決議すればお咎めなし」などと、短絡的にいうことはできません。
◯
以上、《奇説をもって珍説を制す》を実践しただけであり。どこかよその場で《民法会計》とか言い出したら奇人扱いされるだけなので、心の中だけに仕舞っておかれることをおすすめいたします。
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