2020年11月16日

白井一馬「小規模宅地等の特例」(中央経済社2020)

 小規模宅地等の特例、第2期3部作で一区切りつけたはずでした。

【小規模宅地等の特例】
・第1期
パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○
イタチ、巻き込み。 〜家なき子特例の平成30年改正
ヤバイ同居 〜続・家なき子特例の平成30年改正

関場修 山口暁弘「小規模宅地等の評価減の実務 第4版」(中央経済社2018)

・第2期
タックスアンサーの中の譲歩と抵抗 〜小規模宅地等の特例を素材に
「要件書き込み」は趣旨解釈を駆逐する。〜小規模宅地等の特例を素材に
オーバーホール租税法・序論 〜小規模宅地等の特例を素材に

 が、白井一馬先生の本が出たということで、読んでみることに。



 白井一馬「小規模宅地等の特例」(中央経済社2020)

【条文】
租税特別措置法69条の4
租税特別措置法施行令40条の2

【タックスアンサー】
No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)


 以前の記事で、税務本には表ものと裏ものがある、ということを書きました。

【税務本の表と裏】 
西村美智子 中島礼子「組織再編税制で誤りやすいケース35」(中央経済社2020)

 本書は裏のほう。

 表本だけでは見落としがち・誤解しがちな箇所を、Q&A形式で解説してくれています。
 他方で、知識・情報が網羅されているわけではないので、本書だけで本特例を理解できるわけではない。
 あくまでも、表本で得た知識の補強・目地埋めとして利用するものです。

 また、「立法趣旨」を重視した記述をされているので、暗記に頼らない制度理解を進めることができます。
 ただし、その「立法趣旨」が本当に正しいか、疑問に思わないでもない箇所が。

 その疑問について、特例の立法趣旨の検討から始まって、一気に書き上げました。
 が、書評記事というにはあまりにも脱線しまくっていたり、もしかして私が読み違いをしているだけかもしれません。
 ので、次週以降に別記事として掲載いたします。

 意味深なキーワードを背景に流す次回予告のイメージで、登場する重要用語を列挙しておきます。
 ただし番組内容は変更する可能性があります(いわゆる次回予告詐欺)。
 
 ・露払い
 ・へそ曲げちゃって
 ・遺産分割デッドロック
 ・節税屋さん
 ・レジデンス
 ・金持ちCさん貧乏Cさん
 ・高低差ありすぎて耳キーン
 ・試供品
 ・うちの会社は出戻りに手厚いよ!
 ・ドッキリを仕掛けられる側のプロ
 ・人間の先入観を利用した意地悪ななぞなぞクイズ
 ・古代文明のロボット
 ・The 地震売買

 次回、お楽しみに!

僕たちは!出戻り保護要件です!! 〜家なき子特例の趣旨探訪1
ぼくたちは出戻り保護ができない。 〜家なき子特例の趣旨探訪2
あの日見た特例の趣旨を僕達はまだ知らない。 〜家なき子特例の趣旨探訪3(完)
posted by ウロ at 09:17| Comment(0) | 相続税法

2020年11月09日

太田勝造「AI時代の法学入門 学際的アプローチ」(弘文堂2020)

 ※以下は、タイトルに釣られて買ったことと私の理解力のなさを自白する文章で構成されています(予め予防線)。



太田勝造「AI時代の法学入門 学際的アプローチ」(弘文堂2020)

 タイトルに「AI」が入り込んでいるものの、テーマを「AIと法」に絞っているわけではありません。

 用法としては、「縄文時代」とか「ダルビッシュ世代」などと同じ意味合い。
 あくまでもその時代を代表するもののひとつをあげているだけ。
 土器だけがあの時代の文化的特徴ではないし、あの世代がみなダルビッシュ投手のような選手ではないし。
 
 散開感という意味では、一昔前の『現代法学入門』などといったお堅めの本と同じ風。
 『現代』の部分を今様の流行りワードに入れ替えてみた、といった感じの。

 が、法学入門で「税込2,860円」という価格設定はお高め。
 もちろん、これだけ高度な内容からすればこれでも安いくらいだ、という自己評価はあるかとは思います。
 ですが、そもそも高度な内容であること自体、法学にほんのり興味をもった人が読めるものではない。

 昨今のリモート学習環境ならば、指定教科書として買わざるを得ないであろうことを見越してなのか、そうなのか(先輩お下がり市場及び図書館コピー文化の壊滅的状況を想起せよ)。

法学研究書考 〜部門別損益分析論


 本書は、従来の法学を「条文と判例の丸暗記」とサゲて、他分野の成果を取り込むべきだというところから始まります。
 これ、かつての《法と経済学》が流行りだしたころのノリを彷彿とさせる(以下、従来の法学を「従来型」といいます)。

 そのノリというのは、従来型を不合理だとサゲた上で、経済学内の道具立てで説明できない法制度は間違い!という勢いだったかと。
 私自身は最初からリアルタイムで体験したわけではないですが、出始めの頃を述懐した文章などを読むと、そういう印象を受けました。

 で、そのうち両分野を内在的に理解できる頭のいい人が現れてくると、そのような一方的な主張が緩和されてきて、従来型を活かしつつうまく取り入れられるようになると。
 結果、今となっては会社法などいくつかの分野で経済学の道具立てが取り入れられつつも、未だ、従来型の根幹の部分がごっそり入れ変わったわけではない。

 また、サブタイトルにある『学際的』という旗振り用語で私が思い出すのは、かつての「システム論」「システム理論」を法学に取り入れようという試み。
 個人的には、とてもおもしろそうだと思ったんですが、今どうなっているんですかね。



T.エックホフ、 N.K.ズンドビー 「法システム―法理論へのアプローチ」(ミネルヴァ書房1997)

 という感じで、他分野の成果を取り入れよう、という試みは過去何度も繰り返されているものの、従来型の枠組みが大幅に影響を受けることはなかった、というのが私の見立て。

 「法政策学」なんて、いまだに平井宜雄先生の教科書にとってかわるような教科書が出てきませんし。



平井宜雄「法政策学 法制度設計の理論と技法」(有斐閣1995)

 もちろん、個別論文のレベルでは展開されているのかもしれません。が、「教科書」レベルでどれくらい出てくるか、というのが一つの目安ではあろうかと思います。
 まさに、会社法だと教科書レベルでも「法と経済学」のアプローチが結構な割合で展開されているわけで。


 本書でも、あれこれ他分野のご紹介がされているのですが、現状の法実務の運用にどのように関わってくるのかがあまり見えてこない。

 すでにできあがっている建物を目の前にしながら「これよりも他にこんなに素晴らしい『建材』があるんですよ!」と、次々と建材の性能だけのセールストークを聞かされている感じ。 
 どんなに既存の建材よりも優れていたとしても、それを従来の建物に組み込むには一部修繕だけですむのか、それとも全面的な建替えが必要なのかといった、従来の建物との関係を説明してもらえないと、実際にそれを採用するかの判断ができないですよね。

 もちろん、それが専門業者の集まる建材見本市での話ならばそれで全く問題はないでしょう。
 が、一般消費者向けのフェアでそんな売り方してたらどうなるのさ、という話です。

 突飛な例え話をもって、私が何を問題視しているかといえば、タイトルに『法学入門』と冠していること。
 従来型の入口に擬態して、全く違う方向に連れて行こうとしている。

 この手の本は、あくまでも『アナザー』であって、法学入門者がいきなり読むものではない、というのが私の見立て。
 FFのXをやらずにいきなりX-2からやらせるかよ、という話。



ファイナルファンタジーX/X-2 HD Remaster

 今ならセットで買えるので安心。


 従来型を「海外の法制度・法学者の議論の紹介どまり」とディスりながら、本書でも同じようなノリで他分野のご紹介が展開されている(と私は感じました)。
 法学の内か外かの違いはあれど、《ご紹介感》が強いのは共通。

 また、従来型を「条文と判例の丸暗記」だと批判するものの、それ以上に詳しく説明しないまま「学際的」のほうのご紹介へ進んでしまいます。
 『守破離』でいうところの、いきなり『離』からはじめるやつ。
 あるいは、具象画から始めずにいきなり抽象画を描き出すみたいな。

 が、従来型に問題があるのならば、一旦はそれを内在的に理解するというプロセスが必要でしょう。
 でないと、従来型の何が問題で、そして「学際的」の何が優れているのかも理解できない。

 従来型がどんなにイケてないにしても、みんながそれに倣って長いこと実務運用をしてきたわけです。
 そのような積み重ねによる実績があること、それ自体に法的安定性という価値があるわけで。

 「王様は裸だー!」と暴露したとして、そもそも裸でいることが問題である、という共通理解が存在していなければ、その暴露は成り立ちません。
 さすがに裸だと喩えとして適切でないとすれば、「王様はお焦げ好きだー!」でもいいです。
 お焦げをどれだけ食べると体に悪いのか、そして王様はどれだけお焦げを食べているのか、といった前提事実が分からなければ、それがどれだけ問題なのか明らかになりません。

 もし仮に問題があるということで王様を失脚させたとして、そのあとの統治をどうするのか、ということも問題になります。
 お焦げ好きでもさしあたり統治がうまくいっているのならば、わざわざ現状をひっくり返す必要もないだろうと。
 
 「自然権」なるものの実在を証明できなくても、そのほうがみんなが納得できるというならば、そういう説明も残しておく、という戦略的判断もあるわけだし(王様の喩えが突飛なので、法学っぽい話に戻しました)。

【インセンティブ論×自然権論】
田村善之「知財の理論」(有斐閣2019)

 過去これまでの「学際的アプローチ」によるチャレンジが、法学の根幹を突き崩すところまでいっていないのは、既存の価値を捨ててまで取って代わるだけのメリットがみえていないからではないのか。


 従来型の法学入門をディスっているものの、この浅く広くの紹介の仕方、憲法・民法・刑法〜といった感じで代表的な法分野を概観していく概説書とあまり変わらないじゃん。

 今どきは、ポイントを絞って初学者に興味を持たれるような構成にしている法学入門もあるわけです。
 のに、わざわざ従来型の法学入門の構成に倣うという謎の所作。

 やはり共著は避けたほうが無難、という知見がまたしても積み重なっていく。


 以上、ここまでの論難は、あくまでもタイトルに「法学入門」を入れ込んだことに対するものです。
 中身はそのままで、アナザー、オルタナティブであることがわかるタイトルになっていてくれれば、我々《入門書警察》が出動することはありませんでした。

 専門書が売れない昨今だからこそ、売らんがな系のタイトルや宣伝文句には厳しい目を向けざるをえない。

【宣伝文句問題】
税法思考が身につく、理想の教科書を求めて 〜終わりなき旅
高木

 他方で、団藤重光先生のようにタイトルロンダリングしておいてくれれば、入門書警察的にはセーフ。

団藤重光『法学の基礎』(有斐閣2007)


 皆様が本書のタイトルをみて期待したことをそのまま実現したいならば、小塚壮一郎先生の新書を読むことをオススメしておきます。



小塚荘一郎「AIの時代と法 (岩波新書) 」(岩波書店2019)
posted by ウロ at 09:40| Comment(0) | 法学入門書探訪

2020年11月02日

西村美智子 中島礼子「組織再編税制で誤りやすいケース35」(中央経済社2020)

 いわゆる「税務本」、本ブログではほとんど紹介することがありませんでした。



西村美智子 中島礼子「組織再編税制で誤りやすいケース35」(中央経済社2020)

 「税務本」というのは、法令・通達・公式(タックスアンサーなど)に書かれていることメインで構成されていて、「法解釈」の要素が希薄(あるいは皆無)なものをいっています。

 念のため、「希薄(あるいは皆無)」というのは決してディスっているのではなく。
 専門家特有の法解釈テクニックを用いなくても相当程度運用できる、というのは「租税法律主義」のあるべき姿であって、悪いことではない。


 本ブログで実務寄りの本の記事というと、これくらいですかね。

関場修 山口暁弘「小規模宅地等の評価減の実務 第4版」(中央経済社2018)

 当然のことながら、業務の必要から大量の税務本を読んではいます。
 ブログで紹介している「法学本」は、余った時間で趣味として読んでいるにすぎません。
 しかしまあ、趣味で法学本を読むというのも、なかなかのアレですね。

 今は唸り呻きながら下記の体系書を少しづつ読みすすめていますが、こちらは税務とそれほど乖離していないからセーフ。変に実務に寄せたものよりも、徹底的に学理を突き詰めた法学書のほうが実務に効いてくる、というのが私の体感。



中田裕康「債権総論 第4版」(岩波書店2020)

 法学本と比べて、税務本はどのあたりをおイジりあそばせばよろしいのかがいまいち掴めていませんでした(ただし、中田先生の上記体系書は隙がなさすぎておイジり不能)。

【隙ありアクティブ・ラーニング系】
三木義一「よくわかる税法入門 第14版」(有斐閣2020)
「新 実務家のための税務相談(民法編) 」(有斐閣2017)
後藤巻則「契約法講義」(弘文堂2017)

 ただ、なんとなく税務本の嗜み方がわかってきた気がするので、これから少しずつ開放してみようと思います。


 完全に私見ですが、税務本には「表」バージョンと「裏」バージョンがあるように思います。
 当該制度を「表側」から記述するものと「裏側」から記述するもの、といった意味合い。

 ただし、このネーミングはいまいち腑に落ちていないです。
 本当は、「表本/裏本」あるいは「表モノ/裏モノ」にしようと思ったのですが、裏側がいかがわしい方面に誤解されそうなので却下。
 「表側から本/裏側から本」では長いし。

 以下では「表/裏」と極端に略すか、あるいは「表本」のほうだけ使います。


 表裏、おおまかな傾向として、それぞれ以下のような特徴があります。

【表バージョン】
・ほぼ法令、通達、公式情報そのままで構成されている。
・書名が月並み、かぶりがち。
・一通りの情報が並んでいる。
・ヤマなし、オチなし(意味はある)。
・国税庁職員が余暇を利用して書きがち。
・はしがきに「本書の見解はあくまで私見で所属組織の見解ではない」などと書かれていたりするが、実際に私見が披露されることはほぼない。
・制度が新設、改正されてからかなり早めに出版される。

【裏バージョン】
・表バージョンでは見落としがち、理解しにくいところに絞って記述。
・書名が特徴的。
・記述は網羅的でない。
・単体で読んでも理解できない。
・ある程度、実務運用が積み重なってから出版される。

 もちろん、一冊の本が必ずどちらかに割り振れる、とはかぎりません。
 一冊の中で、表要素が強めとか裏要素が強めといったこともあります。


 表は信頼できるものが一冊あれば足ります。基本的に誰が書いても内容は同じなので。
 ので、漏れなく書かれていることが重要です。

 そして何冊読んでも新しい知見が得られることはない。
 私のように「同じ本を繰り返し読んでも記憶に定着させにくい」という特殊な癖をもった者もいますので、そういう傾奇者ならば、同じようなことが書かれた別の本、というのも役に立つことはありますが。

 他方で、裏は著者の実務での知見が盛り込まれているので、いろんな角度からの本を読んでみるのが有益。
 これが、裏っぽい宣伝文句なのに全然実務に響いてこないとなると、「コイツ実務経験なしに空想で書いてやがるな」ということが推測できます。

【宣伝文句問題】
税法思考が身につく、理想の教科書を求めて 〜終わりなき旅

 そして、最終的には、条文だけをみて自力で裏読みできるようになるのが理想。

《表裏・三段活用》
 1 裏を読んで表本を理解する。
 2 表本を読んで自力で裏読みができるようにする。
 3 条文から直接裏読みができるようにする。

【参照:三段階学習法】
安田拓人ほか「ひとりで学ぶ刑法」(有斐閣2015)
南野森「ブリッジブック法学入門(第2版)」(信山社2013)
伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)


 ちなみに、「質疑応答集」「事例集」「問答式」「Q&A」などをタイトルに冠した書籍、通達とタックスアンサーそのままの事例を載せているだけのものが多い。
 もちろん例外はありますが、少数派(個人の体感です)。
 どの本読んでも似たような事例が載っているのは、そういうこと。

 が、せっかく事例を使うならば、あてはめに悩むようなものをあげてくれないとあまり役に立たない。
 当該事例の結論がそうなるとして、ではどうすれば課税されなくなるのかとか、どこまでやったら課税されるかとか、応用をきかせることができないわけで。

 当然のことながら、事例の回答が「ケースバイケースですね。」などというのは論外として。

アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民6)


 例によって前置きが長くなりましたが、本書について。

 「組織再編税制」、込み入りすぎですよね。
 本ブログでも、ピンポイントでネタにすることもありますが。

横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)

 「課税要件明確主義」とか「納税者の予測可能性」とか言ってる方々、同税制の条文を目の前にしてもまだそんなこと言うか、と問い詰めたくなるような。
 これら条文を納税者に分かりやすく改変するなんて、できるものならやっていただきたい。

 条文の読み方だけでプロ向けの専門書が一冊できあがるくらいの領域よ。



中島礼子「そうだったのか! 組織再編条文の読み方」(中央経済社2018)


 本書は、表本を読んだだけでは見落としがちな論点に絞って解説したもの。

 決して表本に書いていないわけではありません。
 この本読んでから、再度表本を読みかえしてみると、確かに書いてはあるんですよね。
(書いていないとしたら「漏れ本」ということになるので、表本としては失格。)

 が、「ヤマなし本」を普通に読んでいるだけでは、そこが落とし穴になっていることを見逃しがち。

 表本が「平面図」だとするとそれを「立体視」してくれるようなもの。
 もちろん、立体視用のデバイスなので、元となる平面図を理解していないとこの本だけ読んでも組織再編税制を理解することはできません。

 他方で、表本のほうに漏れがあったりするとうまく立体視できないので、そちらはそちらで信頼できる本が必要。
 立体視することで気づいたことを、表本に「ここ注意!」とか書きためていくと、実務で使える本に仕上がっていくはずです。


 本書の構成は、まず間違った判断を示した上でその間違いを指摘する、という流れになっています。
 これがまさに「裏側から」の解説。

 表本だと要件がそのまま並んでいるだけで、どうなったら要件を満たさなくなるか、とか、どの要件の検討を見落としやすいか、などといったことは書かれていない。
 に対してこの本では、具体的な要件のあてはめ方・検討の仕方を学ぶことができます。


 また、本書では数字を入れた具体例で説明してくれるので、理解しやすい。

 類書だと、仕訳は書いてあるけど数字のところが「×××」となっている本があったり(伏字ではない)。
 ここにちゃんと数字が入っているので、とてもイメージがしやすい。


 ただし、本書はあくまでも(最初に述べた)「税務本」の範疇におさまっています。

 表本で見落としがちなところを強調しているにとどまり、法令等に明記のない「法解釈」が必要な領域までは手を出していません。
 比喩的にいえば、表本を「縦方向」にそのまま立体視しただけで、「横方向」にまで拡張はしていないということ。

 それが意図的かどうかは分かりませんが、その切り分け自体は一つの見識だとは思います。
 まずは、法解釈を展開しないでもすむ領域をしっかりマスターするんだと。
 「紛争系」はまた別の本で補えばいいわけで。

 私としては、日常系税務においても(紛争系とは性質の異なる)法解釈論を展開すべき領域があるとは思っていますが、あくまでも妄想段階。


 判決・裁決に一切触れないでも「実務書」として成立するの、「税務本」特有の現象なんでしょうか。
 弁護士向けの「法務本」で裁判例に触れずに作り上げるのは、ちょっと無理ですよね。
 あるとしても特定の分野に限られ、税務みたいに全体として日常系/紛争系に分かれるものはさすがにないんじゃないかと。

 こんな曲芸ができるのは「租税法律主義」のおかげ、ではなく、通達をはじめとする運営側(国税庁)の詳細なルール設定のおかげだと思います。
 これまでも再三述べているように、法令だけを見て非専門家がその内容を理解できるとはとても思えません。
 (結論が正しいかどうかはさておき)運営側がどのように法令を運用するかを事前に公開してくれるおかげで、行動の指針が明確になるわけです。


 法務の世界で、税務における通達ポジション的なものを見出すとしたら、業界団体の自主規制ルールでしょうかね。
 いわゆるソフトローの世界。



 中山信弘編「ソフトローの基礎理論」(有斐閣2018)

 翻って税務における通達の機能というものを考えるに、これもある種の「ソフトロー」といってもよいのかもしれない。
 国家によるルール設定ではあるものの、実体法レベルでは「法的拘束力」がないという意味では自主規制ルールと同じなわけで。

 のはずなのに、裁判所が通達丸呑みみたいな判決を出したりすると、がっかりさせられる。


 「リーガルマインド」的なものを学び始めると「通達行政」をやたらとディスる意識高い系になりがち。
 が、「予測可能性」という観点からすれば、法令だけでは不十分なのは明らかで、それがどのように運用されるのかを事前に公開してくれるのは有り難い。

 もちろん、その運用が法の解釈として適切なものかを検証するには、「リーガルマインド」的なものは必要でしょう。
 が、何もかもをゼロベースから検証するのは極めて非効率。


 とかいうことを書きながら、ふと思ったのが「刑法(解釈)学」のこと。

 刑法の教科書には、必ず最初のほうに「罪刑法定主義」「刑罰法規の明確性」ということが高らかに謳われています。
 国民の行動の自由を保障するため、刑罰を科すには事前に法律で明確に定めておくことが、憲法上要請されているんだと。

 それ自体はそのとおりなんですが、それより後ろのページには、およそ国民一般が理解しがたい難解な刑法解釈論が展開されているのがお決まりのパターン。
 その難解な解釈論を、我々一般人が行動の基準としうると本気で考えているのかよと。

 一応擁護めいたことをいうならば、難解な議論が展開されているのは限られたレアケースについてだけであって、大部分の刑事事件はそんな難解な議論を経由しなくても粛々と処理されているんだと。
 税務になぞらえるならば、通達ベースでそのまま処理できるレベルの案件。

 擁護のつもりで言ってみたものの、むしろ刑法学の活躍場面を矮小化する結果になっていますか。
 本来ならば、常識で判断できるような場面でなく、ギリギリのレアケースでこそ、一義的に判断が導ける理論が必要なはずなんですけども。


 話を税務に戻して。

 そうすると、通達は一義的に結論が導けるようにしておくべき、ということになるのでしょう。
 現に、大部分の通達はそうなっている(はず)。

 で、うっかりそうなっていない通達があると、「通達は文理解釈すべし!」などというクレイジー判決に法解釈を施されちゃう(イジられ判決の一生)。

解釈の解釈を解釈する(free rider) 〜東京高裁平成30年7月19日判決


 ちなみに、「紛争系」の本についても、理念としての「表と裏」を想定することができます。
 表は当該判決の解説に留まるもの、裏はその判決を判例としてどのように使うかを検討したもの。

 表を「判決本」、裏を「判例本」と表現してもよいかもしれません。
 タイトルに「判例集」とあっても、単なる判決の寄せ集めにすぎないものもあるので要注意。
 その判決群から、自力で判例を抽出しないといけない。

 そもそも、当該判決は、それ自体で直ちに判例となるわけではありません。
 後続判決にて判例として引用されてはじめて、それが判例であることが確定するわけで。

  先行判決@
  後続判決A(判決@を引用)←この部分が判例

 そしてそれは、当該事案で使われたかぎりでしか姿を確認することができないものです。
 @がまるごと判例なのでなく、Aの中で利用された部分だけ。

 『判例は、引用判決の中でしか生きられない。』

 もちろん、出た時点で「規範力強そう」な判決(絶倫系判決)というのはあります。
 が、これも法制上はあくまでも、将来めっちゃ判例になりそうなやつ、というにとどまります。

判例の機能的考察(タイトル倒れ)
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その12)

 で、判決本/判例本についても、税務本と同様の段階的学習を想定することが可能です。

《判決⇒判例・三段活用》
 1 判例本を読んで判決解説本から判例を抽出できるようにする。
 2 判決解説本から自力で判例を抽出できるようにする。
 3 判決から直接判例を抽出できるようにする。


 以上、本の紹介の体裁をとっておきながら、全体として脱線につぐ脱線。

 書評としてのお作法は完全に無視していますが、今後も税務本の紹介をするとしたらたぶんこういう感じの記事になる気がします。
 というか、本ブログの本の紹介記事はイジり倒すか/褒めちぎる/脱線するのいずれかで、まともに書評らしい書評を書いたことがないかも。
posted by ウロ at 10:07| Comment(0) | 法人税法

2020年10月26日

オーバーホール租税法・序論 〜小規模宅地等の特例を素材に

 これまで小規模宅地等の特例の記事書いてきて、あれこれ論難しながら、どうせ通達の独立ルール(c)に問題があるんだろ、となんとなく考えていました。

【いろんな同居】
a どの範囲で特例の適用を受けられるかを判定するときの同居
 ⇒一棟の建物で判定 (令40条の2第4項)
b 同居親族が適用を受けるために、同居しているかを判定するときの同居
 ⇒一棟の建物で判定 (法69条の4第3項2号イ)
c 家なき子が適用を受けるために、他の相続人が同居していないかを判定するときの同居
 ⇒独立部分で判定 (通達69の4-21)
d 家なき子が適用を受けるために、被相続人が居住していたかを判定するときの居住
 ⇒???

 が、記事を書いているうちに、そもそも法令本体のほうが、改正に次ぐ改正による建て増しで金属疲労を起こしているのかもしれない、と思うようになってきました。

 以下、そのあたりのモヤりの確認作業。

【小規模宅地等の特例】
パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○
イタチ、巻き込み。 〜家なき子特例の平成30年改正
ヤバイ同居 〜続・家なき子特例の平成30年改正
関場修 山口暁弘「小規模宅地等の評価減の実務 第4版」(中央経済社2018)
タックスアンサーの中の譲歩と抵抗 〜小規模宅地等の特例を素材に
「要件書き込み」は趣旨解釈を駆逐する。〜小規模宅地等の特例を素材に
白井一馬「小規模宅地等の特例」(中央経済社2020)
僕たちは!出戻り保護要件です!! 〜家なき子特例の趣旨探訪1
ぼくたちは出戻り保護ができない。 〜家なき子特例の趣旨探訪2
あの日見た特例の趣旨を僕達はまだ知らない。 〜家なき子特例の趣旨探訪3(完)

【タックスアンサー】
No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

【条文】
租税特別措置法69条の4
租税特別措置法施行令40条の2


 まずは、条文構造の分析から。

 タックスアンサー3(3)の表では、区分として@とAが最初から分岐しているように表現されています。
 が、これは条文構造を正確に記述したものではない。

 実際の条文構造は(以下、この表の中の記号を利用します)、

 ・まず、適用範囲として@とAを確定させる。
 ・次に、取得者要件の判定をする。

という流れになっています。
 ので、誰が取得者になるかに関係なく、まずは@及びAの範囲を確定します。

 で、取得者が「配偶者」の場合には、それら範囲につき無条件で適用を受けられると。
 図式的にいうと、表では、

  @1+A1

と取得者が配偶者の場合がふたつあるように書かれていますが、条文上は、

  (@+A)1

と取得者としての配偶者はあくまでもひとつだけです。

 取得者が「生計一親族」の場合は、取得者要件の中に「生計一親族居住用の宅地」であることが組み込まれているので、@が除外されてAのみに適用が受けられることになります。

 取得者が、「同一建物親族」「家なき親族」の場合も同じように、取得者要件の中に「被相続人居住用の宅地」であることが組み込まれているので、Aが除外されて@のみに適用が受けられることになります。


 ここで気がつくことは、同一建物親族も家なき親族も、取得者要件を満たす限り、適用範囲はいずれも@で同じだということです。

 素朴に考えて、同一建物親族と家なき親族とでは保護範囲が違っていて然るべきだと思うのですが、適用範囲には違いはないんだと。
 適用範囲を調整しなくとも、それぞれの取得者要件によって、適切な結論を導けるということでしょうか。

 どうにも違和感のあるところなので、パターン分けして違和感の具合を検証してみます。


 《前提条件》
 ・被相続人A、相続人子B、子C
 ・土地建物はいずれもA所有
 ・2つの土地建物はいずれも同一地積・同一床面積
 ・Bは@2(同一建物親族)、Cは@3(家なき親族)の適用を受けられるかを検討
  (Bは事例によってはA2生計一も)
 ・可変させる以外の要件は満たしているものとする
 ・特記がないかぎり区分所有はないものとする

 まずは通常事例から。

【通常事例思考】
内田勝一「借地借家法案内」(勁草書房2017)
米倉明「プレップ民法(第5版)」(弘文堂2018)
「定期同額給与」のパンドラ(やめときゃよかった)

《事例1》ガチ同居

 ・AとBは一軒家に同居

 適用範囲 ○A宅@

 ア Bが取得 ○(全体)
 イ Cが取得 ×(Bがいるので)

 まあ、これは分かる。
 牧歌的な当初の制度趣旨どストレート・どストライクな事例ですよね。


《事例2−1》ガチ別居(生計別)

 ・宅地1 A居住
 ・宅地2 B居住(生計別)

 適用範囲 ○A宅@ ×B宅

 ア BがA宅を取得 ×(Aと別棟、Aの持ち家に居住)
 イ CがA宅を取得 ○(家なき親族要件満たす)

 《事例1》と逆方向の通常事例としてあげてみました。
 まあそういう結論になるよね、と一瞬思ったんですが、本当にこの結論でいいのかどうか。

 たとえば、BがAを介護するために宅地1に隣接する宅地2に引っ越してきた、とするじゃないですか。で、Cは全く協力しなかったと。
 この場合でも上記結論とするのは、嫌ですよね。

 ちなみに、Bがきっちり家賃を支払っていたとすると、B宅は「貸付事業用」になります。
 が、Bが取得してしまうと「事業継続」しなくなるから要件満たせず。他方で、Cならいけると。
 家賃を支払うことでAの相続財産の増加に寄与しているというのに、この仕打ち。

 そこで、Bは「生計一」になるしかない。


《事例2−2》ガチ別居(生計一)

 ・宅地1 A居住
 ・宅地2 B居住(生計一)

 適用範囲 ○A宅@ ○B宅A

ア BがB宅を取得 ○(生計一親族が生計一居住用宅地を取得)
  CがA宅を取得 ○(家なき親族要件満たす)

イ BがA宅を取得 ×(Aと別棟、Aの持ち家に居住)
  CがB宅を取得 ×(Aの居住用ではない)

 この場合のアなら、BもB宅に適用を受けられると。

 が、CのA宅への適用が排除されるわけではないので、適用選択をめぐって取り合いになることを防げない。
 特例選択においては、Bに優先権があるわけでもなく、遺産分割の審判のような制度があるわけでもないので(遺産分割の結果として適用可能者がBだけになればよいのでしょうが)

 ちなみに、この《事例2》のB宅を区分所有の状態でA宅にくっつけたのが二世帯住宅(区分所有あり)の事例になります。
 この場合は、ますますBを保護すべきとなりそうですが、そういう配慮は現行法には存在しない。

 ここまでですでに怪しげな雰囲気がでちゃってますが、本題はここから。


《事例3》なんちゃって同居(二世帯住宅・区分所有なし・独立)

 ・1階 A居住
 ・2階 B居住

 適用範囲 ○AB宅全体@

ア Bが全体取得 ○(BはAとなんちゃって同居しているので)
イ Cが全体取得 ○(BはAとガチ同居していないので)
ウ BCが1/2づつ取得 ○(アイの合成)

 アはいい、ウもまあいいか、となるとして、イはどうなのさ。
 現にBが住んでいるというのに。

 本来ならば、@3(3)でCの適用を排除できそうなものですが、a(一棟ルール)とc(独立ルール)が組み合わさると、こうならざるを得ない。

 もしかしてなんですけど、タックスアンサーの(注2)の「除きます」ルールは、この場合に発揮されるものですか(「除きます」は2つあるけど下記下線部のほう)。

2 「被相続人の居住の用に供されていた宅地等」が、被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物(「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」※を除きます。)の敷地の用に供されていたものである場合には、その敷地の用に供されていた宅地等のうち被相続人の親族の居住の用に供されていた部分(上記〔特定居住用宅地等の要件〕区分Aに該当する部分を除きます。)を含みます。

 Bが「生計一」の場合にかぎり、CがB居住部分にも適用を受けることを防ぐと。
 結論はいいのかもしれませんが、それを条文のどこから導けばいいのか。

 一応、Bが生計一の場合の「除きます」ルールの帰結を書いておくと、おそらくこうなるはずです。

 適用範囲 ○A宅@(B宅は@から除く) ○B宅A

 ア Bが全体取得 ○(A宅は同一建物親族として、B宅は生計一親族として)
 イ Cが全体取得 △(A宅部分1/2のみ家なき親族として)
 ウ BCが1/2づつ取得 B ○(持分1/2全体 アの半分)
            C △(持分1/2×1/2 イの半分) 


《事例4》同一マンション(分譲ではない)

 ・101 A居住
 ・401 B居住
 (その余の部屋は考慮外)

 適用範囲 ○101と401@

 ア Bが取得 ○(BはAとなんちゃって同居しているので)
 イ Cが取得 ○(BはAとガチ同居していないので)
 ウ BCが1/2づつ取得 ○(アイの合成)

 この場合も《事例3》と同じ結論。
 一棟内で場所を離しただけで、現行法からみれば同じ扱い。

 Cが401も含めて適用を受けられることに対する違和感は、《事例3》よりも強まりますよね。


《事例5》別マンション

 ・エスポワールA棟101 A居住
 ・エスポワールB棟401 B居住
 (その余の部屋は考慮外)

T Bが生計別
 適用範囲 ○A宅@ ×B宅

 ア BがA棟101を取得 ×(Aと別棟、Aの持ち家に居住)
 イ CがA棟101を取得 ○(家なき親族要件満たす)

U Bが生計一
 適用範囲 ○A宅@ ○B宅A

 ア BがB棟401を取得 ○(生計一親族が生計一居住用宅地を取得)
   CがA棟101を取得 ○(家なき親族要件満たす)

 イ BがA棟101を取得 ×(Aと別棟、Aの持ち家に居住)
   CがB棟401を取得 ×(Aの居住用ではない)

 《事例3》《事例4》からの流れでここに配置しましたが、結論は《事例2》のガチ別居と同じ。

 《事例2》の結論にも疑問はありましたが、《事例4》の場合と比較するとなおさら、Bの保護されないっぷりが目立ちます。
 《事例4》では、Bは「生計別」でも同一建物内ということで適用を受けられることになっているのに。

 仮にですけど、BはAの介護のためA棟に引っ越そうとした、けどもA棟は他の借主で埋まっていた、ので一旦同じ敷地内のB棟に引っ越した、といった場合でも別棟であるかぎりは駄目だと。
 Bが駄目なのは諦めるとして、Cが受けられるのかよ、とは思いますよね。

 なんですか、魔改造してA棟とB棟を繋げばいいんですか(非推奨)。


 以上、パーツを分解し、共通要素を括りだして分析をする、ということを実践してみました。

 ここであげた事例のかぎりでいうと、Bの保護されないっぷりが目立ちました。
 その要因は、Bが、Aと別棟かつAの持ち家に住んでしまっていると、およそ@のルートが潰れてしまうからです。あとはA生計一ルートでいくしかない。
 対照的に、Cは、BがAとガチ同居していないかぎりは、家なき親族として保護が受けられます。

 もちろん、ここにあげたものは、あくまでも一事例群にすぎません。
 が、決してありえないエキセントリックなご家庭を取り上げたわけでもない。
 のに、適切に保護範囲をコントロールできていないと思われる事例が現に存在していると。

 Bの保護は、遺言や遺産分割協議、特例選択の同意などでカバーできるのかもしれません。
 が、そもそも税制がどういうつもりでこういう帰結を導いているのか、そこは明確にすべきでしょう。


 ここから先、じゃあどうやって組み直せばいいのよ、については、力及ばす。

 他の特例のように、単純に納税者と課税庁の二者間で、特例広げる/狭めるの綱引きをしているだけに留まっておらず、納税者側でも相続人間での綱引きがあって「3以上すくみ」状態にあるのが、問題をさらに厄介にしている。

 タックスアンサーの「除きます」ルールが、このあたりを見据えてこっそり仕込んだものだとしたら、それはそれでひとつの租税正義感かもしれない(難癖つけてすみません)。
 生計一親族居住用部分は同人のみ(または配偶者)が適用を受けられると。

 このアイディアを、同一建物親族と家なき親族との関係にも及ぼせないものかどうか。
 民法の法定相続人決定ルールが、序列を設けているのと同じようなノリで。

民法第八百八十七条(子及びその代襲者等の相続権)
1 被相続人の子は、相続人となる。
2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。

民法第八百八十九条(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)
1 次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
 一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
 二 被相続人の兄弟姉妹
2 第八百八十七条第二項の規定は、前項第二号の場合について準用する。

民法第八百九十条(配偶者の相続権)
 被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。


 あるいは、同一建物親族居住部分は、同人のみ(または配偶者)が適用を受けられるとするとか。

 いずれにしても、タックスアンサーでこっそり仕込んでいいものではおよそなく、法令上に明記すべきことでしょう。
 役員報酬の「Q&A」もそうですけど、あまりにも条文から離れたところでの曲芸が過ぎる。

「定期同額給与」のパンドラ(やめときゃよかった)


 以上、小規模宅地等の特例の記事、第一期三部作に続き、書評をひとつ挟んで第二期三部作で一応締めておきます。

 今のところ私の中に残っている疑問として、家なき親族の「家なし」を判定する際の「所有」につき、単独所有にとどまらず、共有や各種組合(任意組合、匿名組合、投資組合、LLPなど)、信託による保有も含むのかどうか、というのがあります。

 持分あり「法人」の場合は半分支配だからこれらの場合も持分半分判定でいいだろ、などと単純に類推できないのが税法の厄介なところ。
 で、文言からも趣旨からも、どうにも決めがたい。規制を三親等内親族やら理事等やっている持分なし法人にまで拡散した時点で、この要件の趣旨が何なのか希薄化してしまっていますし。

 最終的には施行令あたりで詳細つめといてくれや、となるのでしょうが、さしあたりは通達で決め打ちしておいてほしい。

 なお、信託と小規模宅地等の特例の絡みについては次のような措置法通達がありますが、これはあくまでも適用対象の問題。

69の4-2(信託に関する権利)
 特例対象宅地等には、個人が相続又は遺贈により取得した信託に関する権利(相続税法第9条の2第6項ただし書に規定する信託に関する権利及び同法第9条の4第1項又は第2項の信託の受託者が、これらの規定により遺贈により取得したものとみなされる信託に関する権利を除く。)で、当該信託の目的となっている信託財産に属する宅地等が、当該相続の開始の直前において当該相続又は遺贈に係る被相続人又は被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族(以下69の4-24の8までにおいて「被相続人等」という。)の措置法第69条の4第1項に規定する事業の用又は居住の用に供されていた宅地等であるものが含まれることに留意する。
posted by ウロ at 10:32| Comment(0) | 相続税法

2020年10月19日

「要件書き込み」は趣旨解釈を駆逐する。〜小規模宅地等の特例を素材に

 租税法学において、要件を細かく書き込めば書き込むほど「法の明確性」「納税者の予測可能性」に資する、といったTales(テイルズ)が語られることがあります。

 確かにそういう場面もあるのでしょうが、必ずしも書き込み一辺倒でいいわけではない、という例証を以下に。

【条文】
租税特別措置法69条の4
租税特別措置法施行令40条の2

【タックスアンサー】
No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

【小規模宅地の特例】
パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○
イタチ、巻き込み。 〜家なき子特例の平成30年改正
ヤバイ同居 〜続・家なき子特例の平成30年改正
関場修 山口暁弘「小規模宅地等の評価減の実務 第4版」(中央経済社2018)
タックスアンサーの中の譲歩と抵抗 〜小規模宅地等の特例を素材に
オーバーホール租税法・序論 〜小規模宅地等の特例を素材に
白井一馬「小規模宅地等の特例」(中央経済社2020)
僕たちは!出戻り保護要件です!! 〜家なき子特例の趣旨探訪1
ぼくたちは出戻り保護ができない。 〜家なき子特例の趣旨探訪2
あの日見た特例の趣旨を僕達はまだ知らない。 〜家なき子特例の趣旨探訪3(完)


 イメージ作りのため、一つの事例をあげてみましょう。

《事例》
  ・被相続人:A、相続人:子B(兄)、子C(弟)
  ・土地 A所有
  ・建物 A所有
  ・同建物にAC同居

 Bはすでに就職していて自己所有の分譲ワンルームマンションに住んでいる。
 CはAと同居していたが、大学に進学するため大学近くのBの家に同居させてもらうことにした。
 Cは大学を卒業したら、A宅近くに就職先を見つけて、Aと同居するつもり。
 ところが、CがA宅を出た直後にAが亡くなってしまった。

 さて、A宅に小規模宅地の特例を適用することはできるでしょうか。

【家なき子の取得者要件】
(原則要件)
 1   被相続人に配偶者・同居法定相続人がいない
 2−1 相続前の3年間に
    ・自分と自分の配偶者
    ・三親等内の親族
    ・特別の関係がある法人
    の持ち家に住んでいない
 2−2 相続開始時に住んでいる家を過去所有したことがない
 3   相続から申告期限まで継続保有

(除外要件)
 2−1 「相続開始直前に被相続人の居住の用に供されていた家屋」は除く

 まず、Bは自分の持ち家に住んでいるので適用不可です。

 では、Cはどうか。
 Cも「三親等内の親族」であるBの持ち家に住んでいるから適用不可だと。
 「除外要件」は2−1しかないので、この事例では機能しない。

 仮に、CがAから仕送りを受けてAと「生計一」だったらどうか。
 本事例では、CがA宅に住んでない以上、生計一でも適用しようがない。


 「居住の保護」という抽象的な制度趣旨を措定するならば、どう考えてもCの居住を保護してあげたほうがいいと思いますよね。
 B宅は東京、A宅は片田舎のどこか、なんて事情を加えたら、ますますそういう結論に傾く。

 が、Bの持ち家に住んでいるかぎり駄目だと。

 本事例でどうにか適用するためには、Cは、Bではなく他人の家に住むしかない。
 せっかく大学近くにB宅があるというのに。
 少しでもAの仕送り負担を減らそうと考えた、Cの好意が台無しよ。


 法の規定が不明確な場合は制度趣旨から解釈論を展開する、というのが法解釈の定石です。

 が、ここではそれが通用しない。
 その原因は、特定の場面を想定して、やたらと細かい要件を条文に書き込んだせい。

 特定の場面というのは、名義は違うが実質は自己所有と同等な場合のこと。
 であれば素直に「実質判断」をすればいいはずなんですが、なぜか実際の判定は親族関係や支配関係での形式判断によります。
 そのため、この事例のように通学期間中だけ一時的に親族の持ち家に住まわせてもらっていた、という場合まで制限がかかってしまう(巻き込み事故)。

 立法担当者的には「お前らが明確性とか予測可能性とかうるせえから、実質判断をしないですむよう、細かく条件書き込むことで形式判断のみにしてやったんですけども。」とおっしゃるのかもしれません。
 確かに、これが本人・配偶者・未成年の子・これらの者が支配する法人あたりまでなら(本人等で総称できる感じの)、形式のみで判断してもいい気がします。
 が、そこから先の者まで形式判断だけでいいのかどうか、極めて疑わしい。

 ア 本人等 形式アウト
 イ 三親等 形式アウト (←実質を要求すべきでは)
 ウ 四親等 形式セーフ

 ちなみに、この逆パターンが適格要件における支配関係継続の「見込み」。
 「○年継続したら制限解除」のような形式要件ではなく、継続の「見込み」といった実質のみで判定。
 不安定極まりない。

中里実ほか『租税法概説 第3版』(有斐閣2018)


 このように、やたらと要件を書き込んだせいで、制度趣旨が当該制度をあまねく覆い尽くすことができなくなっています。
 制度趣旨にそって原則要件を制限したり除外要件を拡張したり、といったことも、規定が明確すぎてやりようがない。
 解釈の余地があるのは、いろんな同居のうちのcとdぐらい(ただし本件では無関係)。

【いろんな同居】
a どの範囲で特例の適用を受けられるかを判定するときの同居
 ⇒一棟の建物で判定 (令40条の2第4項)
b 同居親族が適用を受けるために、同居しているかを判定するときの同居
 ⇒一棟の建物で判定 (法69条の4第3項2号イ)
c 家なき子が適用を受けるために、他の相続人が同居していないかを判定するときの同居
 ⇒独立部分で判定 (通達69の4-21)
d 家なき子が適用を受けるために、被相続人が居住していたかを判定するときの居住
 ⇒???

 Cの居住は「実質的には」B宅ではなくA宅にあるんだ、みたいな《心のふるさと理論》を持ち出すアクロバティック解釈をやるわけにもいかないでしょう。

 ただし、国税庁の質疑応答事例では、単身赴任事例で相続人の居住を拡張しているものがあります。

【国税庁 質疑応答事例】
単身赴任中の相続人が取得した被相続人の居住用宅地等についての小規模宅地等の特例

 まるで射程の不明な場当たり的な回答ですが、おそらく可愛い妻と子を実家に残している、というのがポイントなんでしょう。「いずれ戻ってくる」だけでは、家なき子との違いがありませんので。
 ので、本件の独身大学生Cにまで拡張するのは難しいのではないかと。


 ある程度解釈の余地がある規定ならば、解釈レベルで妥当な結論を導くことも可能なわけですが、ここではそれがやりにくいと。
 というか、もとの制度趣旨とそぐわない要件が設けられてしまった以上、むしろ制度趣旨のほうを修正しなければならないのでしょう。単純な「居住の保護」ではない何か。

  × 制度趣旨 ⇒ 要件創設
  ○ 要件一式 ⇒ 制度趣旨

 が、私には、現行の要件一式を整合的に説明できる制度趣旨が思いつかない。


 要件をやたらと書き込みたいのであれば、制度趣旨の出番を完全に無くすよう、当該要件のみで完結できるようにしておかなければならない。
 そうしておかないと、解釈によって勝手に課税拡張要件を付け加えられかねない。

【「基本的な考え方」から勝手に要件を創造する禁忌】
横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)

 しかしまあ、要件書き込み書き込みで制度を徒にガチガチに固める所作、「裁判官は判決自動販売機」勢力の復権かよ。
 でも、租税法律主義・租税法規の明確性・予測可能性などを最大限突き詰めていったら、行き着く先はそうなるってことですよね。
posted by ウロ at 10:39| Comment(0) | 相続税法