2022年08月01日

特定同族会社事業用宅地は特定同族会社を保護しない

 全く全然その気はなかったのですが、小規模宅地等の特例につき、居住用・貸付用・事業用と検討してしまったので、「同族用」についても一応触れておきます。
 細かいテクニカルな論点には触れず、他の利用区分との対比を中心に検討します。

 タイトルにある「保護しない」というのは、言いすぎかもしれません。が、個々の要件をみるかぎり、結果として保護される場合もあるというにとどまり、直接保護の対象にはなっていないように思います。


 ということで、要件の抽出から。条文は関連箇所だけ抜粋して、最後にまとめておいておきます。

【相続直前要件】
1 被相続人or生計一親族 事業供用(同族会社へ貸付)
2 特定同族会社 事業供用(貸付事業除く)

【相続開始後要件】
3 特定同族会社 申告期限まで事業継続
4 取得親族 申告期限において役員であること
5 取得親族 申告期限まで保有

・特定同族会社:
 被相続人+親族+特別関係者で50%超支配
・特定同族会社の「事業」:
 不動産貸付業、駐車場、自転車駐車場、準事業は含まない(通達69の4-23注1)

 事業用・貸付用のバリエーションかと思いきや、要件の座組みがだいぶ違います。
 例の「原則・除外・除外の除外」といったリバーシ(オセロ)感が、ここには存在しない。

 タックスアンサーの「表」だと、要件2・4・5だけが要件のように読めてしまいます。が、「1 特例の概要」に要件1、「3特例の対象となる宅地等(2)」の本文に要件3が紛れ込んでいます。

No.4124相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

 表の見出しに「要件」と書かれているんだから、ここに要件が網羅されていると思うじゃないですか。が、そうじゃないと。
 表の外には書いてあるから、間違ったことが書かれているわけではない。ですが、「誤読を誘っている」と言われても文句はいえないでしょう。


 次に、個々の要件について。


 要件1は、「同族用」を小規模宅地等の特例の枠組みの中にねじ込んだせいで、要求せざるをえなくなったものです。

 土地(被相続人所有)なり建物(被相続人or生計一親族所有)が有償/無償かで、事業性の有無が変わってきますが、その詳細はここでは触れません(通達69の4-23参照)。
 ここで指摘しておきたいことは、もし同族用の特例が、文字通り「同族会社の」事業継続を保護するものであるならば、「被相続人の」事業性を要求する必然性はないはずだということです(以下、「生計一親族」は記述を省略します)。
 ところが、小規模宅地等の特例は、すべての特例対象地に共通する要件として、「被相続人の」事業・居住供用地であることを要求しています。ので、同特例にねじ込むと、必然的に被相続人にとっての事業性を備えなければならなくなります。

 ではあるのですが、それが要求されるのは相続開始直前までで、相続開始後は「被相続人」の事業の承継・継続は求められていません。要件3で要求されている事業継続は「同族会社」にとってのそれであって、「被相続人」のではありません。

 相続直前の要件として要求しているくせに、相続が開始された途端、いらない子扱いするという。急に冷めるな、と突っ込みたくなる。


 要件2・3では、相続直前から申告期限まで、同族会社の事業継続が要求されています。

 上記の通り、要件1に対応する相続開始後の要件が存在しないわけです。

         相続開始前 相続開始後
 被相続人の事業 要件1   なし
 同族会社の事業 要件2   要件3

 このことを整合的に説明する視点として、「供用」と「受益」を区別してみたらどうでしょうか。
 たとえば、「事業用」では、被相続人が土地を自己の事業に供用し、かつそこから便益を得るというように、供用する人と受益する人は一致します。
 他方で「同族用」では、供用するのは同族会社ですが、要件1により被相続人がそこから受益することが要求されています。というように、制度上、供用する人と受益する人がずれます。
 
  供用 同族会社が事業供用する
  受益 被相続人が利益を得る

 そして、小規模宅地等の特例において承継・継続が要求されるのは、「供用」の側面であって「受益」の側面ではないのだと。
 法1項と同3項3号とで、同じ「事業供用」という言葉が使われてしまっているため紛らわしいのですが、それぞれ要求される意味合いが違うと考えれば、理解しやすくなります。

             相続開始前 相続開始後
 被相続人の事業(受益) 要件1   なし    ←承継不要
 同族会社の事業(供用) 要件2   要件3   ←承継必要

 上記で指摘したとおり、タックスアンサーの「同族用」の表には要件1が盛り込まれていません。
 「事業用」の場合には「被相続人の事業供用地」とだけ書けば供用・受益両面を記述したことになります。他方で「同族用」の場合は、「同族会社の事業供用地」とだけ書いても供用面しか記述できていないことになります。
 「事業用」と同じノリで表を作成してしまったため、要件1が表から省かれてしまったのでしょう。


 要件4では、申告期限時点で取得親族が「役員」であればよいことになっています。株主ではなく役員。申告期限までに役員に就任して、申告期限が過ぎたら退任でもいいんだと。

 また、要件5では、申告期限まで保有すればよく、それ以降の保有は求められていません。
 事業用・貸付用と同様、いずれも「申告期限」どまりでそれ以降の継続は求められていません。


 同族用では、事業用・貸付用にあったような、ややこしい「除外要件×除外要件の除外要件」は設定されていません。

 同族会社の事業を保護するかような雰囲気を醸し出しておきながら、被相続人にとっての事業性を要求するという、アンビバレントな要件設定をしたせいで、若干ややこしい話があります。が、事業用・貸付用ほど厄介なものではありません。

 要するに、被相続人がその土地から利益を受けられる供用形態であったことを要求していると理解すれば足ります。


 3年縛りがないため、「事業用」の逃げ場としては利用できそうです。
 『3年以内個人事業がダメなら法人化すればいいじゃない。』

 簡単に法人設立できなかった昔のノリを、未だに引きずっているんでしょうか(が、有限会社もあったわけで)。
 なお、「貸付事業」は同族会社の事業から除外されているので、「貸付用」の逃げ場としては使えないでしょう。


 事業用・貸付用と同様、要件が「申告期限」どまりとなっており、それ以降の事業継続が眼中にありません。被相続人の事業供用(要件1)に至っては、相続開始直前までしか要求されていませんし。

 そうすると、同族用についても被相続人の生前における活動の自由度を確保することに主眼があるのであって、相続人や同族会社の何らかの利益を保護しようとしているわけではないように思えます。


 以上、小規模宅地等の特例の「立法趣旨」が何であるのかを探りあてようとして、各要件をこねくりまわしてきました。

 その結果、要件の見通しはだいぶよくなったものの、本来の目的である「立法趣旨」の正体については、要件を正確に理解すればするほど分からなくなる、という結果になりました。ひとつひとつの要件の中身は分かったものの、それぞれが一体何のために要求されているのか、分からないもの多数。

 ここまで検討してきたかぎりでですが、おそらく小規模宅地等の特例は、いわば被相続人に向けられた《立つ鳥後を濁さず税制》であって、取得者側の要件は、被相続人に対する保護を享受することが許容されるかという限度で要求されるにすぎない、と理解するのがよいかもしれません。
 これだけで、建て増し建て増しの要件すべてを説明しきれるとは思えませんが、少なくとも『家なき子の立法趣旨は出戻り保護だ!』といったように、およそ現実の要件とはかけ離れた理解をするよりはまだましだと思います。
 
 が、要件理解についてはふんわりふわふわのまま『出戻り保護だ!』と言っていられたほうが、あるいは幸せだったのかもしれない。

法 第六十九条の四(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
令 第四十条の二(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
規 第二十三条の二(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)

法1 個人が相続により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続に係る被相続人【又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族】(「被相続人等」)の事業(事業に準ずるものとして政令(1)で定めるものを含む。同項において同じ。)の用に供されていた宅地等で財務省令(1)で定める建物又は構築物の敷地の用に供されているもののうち政令(4)で定めるもの(特定事業用宅地等、特定同族会社事業用宅地等「特例対象宅地等」)がある場合

令1 法第一項に規定する事業に準ずるものとして政令で定めるものは、事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの(「準事業」)とする。
令4 法第一項に規定する被相続人等の事業の用に供されていた宅地等のうち政令で定めるものは、相続の開始の直前において、当該被相続人等の同項に規定する事業の用に供されていた宅地等のうち所得税法第二条第一項第十六号に規定する棚卸資産(これに準ずるものとして財務省令(3)で定めるものを含む。)に該当しない宅地等とし、これらの宅地等のうちに当該被相続人等の法第一項に規定する事業の用以外の用に供されていた部分があるときは、当該被相続人等の同項に規定する事業の用に供されていた部分に限るものとする。

規1 法第一項に規定する財務省令で定める建物又は構築物は、次に掲げる建物又は構築物以外の建物又は構築物とする。
 一 温室その他の建物で、その敷地が耕作(農地法第四十三条第一項の規定により耕作に該当するものとみなされる農作物の栽培を含む。次号において同じ。)の用に供されるもの
 二 暗渠きよその他の構築物で、その敷地が耕作の用又は耕作若しくは養畜のための採草若しくは家畜の放牧の用に供されるもの
規3 令第四項に規定する財務省令で定める棚卸資産に準ずるものは、所得税法第三十五条第一項に規定する雑所得の基因となる土地又は土地の上に存する権利とする。

法3 この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 特定事業用宅地等
 被相続人等の事業(不動産貸付業その他政令(7)で定めるものを除く。以下この号及び第三号において同じ。)の用に供されていた宅地等で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族(当該親族から相続により当該宅地等を取得した当該親族の相続人を含む。イにおいて同じ。)が相続により取得したもの(相続開始前三年以内に新たに事業の用に供された宅地等(政令で定める規模以上の事業を行つていた被相続人等の当該事業の用に供されたものを除く。)を除き、政令で定める部分に限る。)をいう。
イ 当該親族が、相続開始時から相続税法第二十七条、第二十九条又は第三十一条第二項の規定による申告書の提出期限(「申告期限」)までの間に当該宅地等の上で営まれていた被相続人の事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該事業を営んでいること。
ロ 当該被相続人の親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であつて、相続開始時から申告期限(当該親族が申告期限前に死亡した場合には、その死亡の日。第四号イを除き、以下この項において同じ。)まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の事業の用に供していること。

令7 法第三項第一号に規定する政令で定める事業は、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業とする。

三 特定同族会社事業用宅地等
 相続開始の直前に被相続人【及び当該被相続人の親族その他当該被相続人と政令(16)で定める特別の関係がある者】が有する株式の総数が当該株式に係る法人の発行済株式の総数の十分の五を超える法人の事業の用に供されていた宅地等で、当該宅地等を相続により取得した当該被相続人の親族(財務省令(5)で定める者に限る。)が相続開始時から申告期限まで引き続き有し、かつ、申告期限まで引き続き当該法人の事業の用に供されているもの(政令(18)で定める部分に限る。)をいう。

令16 法第三項第三号に規定する政令で定める特別の関係がある者は、次に掲げる者とする。
一 被相続人と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
二 被相続人の使用人
三 被相続人の親族及び前二号に掲げる者以外の者で被相続人から受けた金銭その他の資産によつて生計を維持しているもの
四 前三号に掲げる者と生計を一にするこれらの者の親族
五 次に掲げる法人
イ 被相続人(当該被相続人の親族及び当該被相続人に係る前各号に掲げる者を含む。以下この号において同じ。)が法人の発行済株式総数等の十分の五を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合における当該法人
ロ 被相続人及びこれとイの関係がある法人が他の法人の発行済株式総数等の十分の五を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合における当該他の法人
ハ 被相続人及びこれとイ又はロの関係がある法人が他の法人の発行済株式総数等の十分の五を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合における当該他の法人
令17 法第三項第三号の規定の適用に当たつては、同号の株式又は発行済株式には、議決権に制限のある株式として財務省令(6)で定めるものは含まないものとする。
令18 法第三項第三号に規定する政令で定める部分は、同号に規定する法人(同項第一号イに規定する申告期限において清算中の法人を除く。)の事業の用に供されていた宅地等のうち同項第三号に定める要件に該当する部分(同号に定める要件に該当する同号に規定する被相続人の親族が相続により取得した持分の割合に応ずる部分に限る。)とする。

規5 法第三項第三号に規定する財務省令で定める者は、同号に規定する申告期限において同号に規定する法人の法人税法第二条第十五号に規定する役員(清算人を除く。)である者とする。
規6 令第十七項に規定する議決権に制限のある株式として財務省令で定めるものは、相続の開始の時において、会社法第百八条第一項第三号に掲げる事項の全部について制限のある株式、同法第百五条第一項第三号に掲げる議決権の全部について制限のある株主が有する株式、同法第三百八条第一項又は第二項の規定により議決権を有しないものとされる者が有する株式その他議決権のない株式とする。

posted by ウロ at 17:16| Comment(0) | 相続税法

2022年07月25日

特定事業用宅地はトキ・モノ・モノ(その3)

 では、特定事業用宅地の特例の立法趣旨は何でしょうか。

http://blog.hybridthinks.com/article/189235824.html
http://blog.hybridthinks.com/article/189240256.html

【原則要件】 ○
1 事業の用に供されていた宅地
2ア 被相続人の事業
  事業承継要件 相続税の申告期限までに承継し継続
  保有継続要件 申告期限まで保有
2イ 生計一親族の事業
  事業継続要件 相続開始前から申告期限まで継続
  保有継続要件 申告期限まで保有

【除外要件】 × (除1)
 「相続の開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地」は除く

【除外要件の除外要件】 ○ (除2)
 「一定の規模以上の事業を行っていた被相続人等の事業の用に供された宅地」は除かない(除くを除く)

「一定の規模以上の事業」
 事業の用に供されていた一定の資産のうち
 被相続人等が有していたものの相続開始時の価額の合計額  ≧15%
 新たに事業の用に供された宅地等の相続開始時の価額

「一定の資産」(その事業の用に供されていた部分に限る)
・その宅地等の上に存する建物(その附属設備を含みます。)、構築物
・所得税法2条1項19号に規定する減価償却資産でその宅地等の上で行われるその事業に係る業務の用に供されていたもの


 原則要件によれば、事業・保有は「申告期限」までしか要求されていません。この点は貸付事業用宅地と同じで、『申告期限までは頑張って続けてみてよ。もし続けられそうならその後も続けてほしいかな。』といったお願いどまりのものでしょう。

 では、『たとえ駆け込みであっても保護すべきものがそこにはある』でおなじみ、除2要件はどのように理解できるでしょうか。

ア 事業継続促進税制
 たくさん設備投資しているなら後戻りするつもりはなかったんだろうから、事業継続しやすくしてあげよう。
イ 事業廃止促進税制
 たくさん設備投資しているなら片付けが大変だろうから、事業廃止しやすくしてあげよう。

 全く逆方向のどちらにも理解することができます。

 これを原則要件とあわせて記述するならば、次のような説明が可能でしょうか。

・本当は節税目的だけの駆け込み購入を排除したい。が、主観的な「つもり」要件では法的安定性を欠く。
 そこで、3年という期限で区切る。ただ、しっかり設備投資をしているなら本気で事業するつもりだったといえるだろうから、3年以内でも許容する。

・相続人に対しては「お試し期間」として申告期限まで続けてもらおう。続けてくれるならそれにこしたことはないし、止めるにしても後始末に手間がかかるだろうから、どちらであっても特例は受けさせてあげよう。

 貸付事業用宅地と枠組みは同じで、「つもり」の邪推要件だけが異なっていることになります。
 特定事業用宅地の場合は、「しっかり設備投資」をもって事業への本気度を測っていることになります。他方で、貸付事業用宅地の場合は、たとえば駆け込みでマンション数棟(合計10室以上)を買ったとて、それをもって貸付事業への本気度として評価することはできないということなのでしょう。
 ので、3年超本気で貸付事業をやっている場合だけ、死に際購入も許容すると。

 ということで、特定事業用宅地の特例の立法趣旨についても、相続人の事業継続に向けられたものではなく、本気で事業をやっていた被相続人を保護しようとするものだということが分かりました。未来志向ではなく過去の後始末制度。

 ただ、貸付事業用宅地の場合と毛並みが違うのは、『突然亡くなっても相続人に迷惑がかからないようにしておいてあげるから、出し惜しみせず思いっきり事業チャレンジしてくれたまえ!』というように、新規事業の創出を後押ししているところです。
 で、「申告期限」までの継続とすることで、相続人には一応お試しだけはしてもらいつつ、被相続人が好き勝手に始めた事業を押し付けることはしないんだと。

 もちろん「しっかり設備投資」だけをもって事業への本気度を図ることが適切か、ということは当然問題となりえます。除2要件では極めて限定された事業形態しか許容されていないわけで、《事業創出促進税制》とまではいうのはおこがましい。

 なお、ここまでは「被相続人の事業」を念頭において論じてきました。が、「生計一親族の事業」も適用対象となっているわけで、こちらを「お試し期間」で説明するのは違和感があります。もともと自分がやっていた事業ですし。
 被相続人が亡くなったからといって、生計一親族が申告期限までで事業を辞めてもいい理由って、何かありかね。と、疑問は残るものの、ここは保留としておきます。


 以上、3年縛り繋がりで「特定事業用宅地」についても一応の検討をしました。

 小規模宅地の特例という括りであれば、上記でちらっと触れたとおり、もうひとつ「特定同族会社事業用宅地」というのがあります。
 が、さらにモチベーションが上がらないので、たぶんやりません。
posted by ウロ at 10:00| Comment(0) | 相続税法

2022年07月18日

特定事業用宅地はトキ・モノ・モノ(その2)

 前回に引き続いて、特定事業用宅地の【除外要件の除外要件】の中身について検討します。

特定事業用宅地はトキ・モノ・モノ(その1)

【原則要件】 ○
1 事業の用に供されていた宅地
2ア 被相続人の事業
  事業承継要件 相続税の申告期限までに承継し継続
  保有継続要件 申告期限まで保有
2イ 生計一親族の事業
  事業継続要件 相続開始前から申告期限まで継続
  保有継続要件 申告期限まで保有

【除外要件】 ×
 「相続の開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地」は除く

【除外要件の除外要件】 ○
 「一定の規模以上の事業を行っていた被相続人等の事業の用に供された宅地」は除かない(除くを除く)

「一定の規模以上の事業」
 事業の用に供されていた一定の資産のうち
 被相続人等が有していたものの相続開始時の価額の合計額  ≧15%
 新たに事業の用に供された宅地等の相続開始時の価額

「一定の資産」(その事業の用に供されていた部分に限る)
・その宅地等の上に存する建物(その附属設備を含みます。)、構築物
・所得税法2条1項19号に規定する減価償却資産でその宅地等の上で行われるその事業に係る業務の用に供されていたもの

No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

【お約束事項】
・条数は省略して項数以下で引用します。
  法 第六十九条の四(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
  令 第四十条の二(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
  規 第二十三条の二(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
・条文引用は例によってド派手に省略するので、正確には原文をご確認ください。
・要件のうち、「3年縛り」絡みだけを検討します。


 「一定の資産」について、参照先の所得税法の内容は次のとおりとなっています。

所法(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
十九 減価償却資産 不動産所得若しくは雑所得の基因となり、又は不動産所得、事業所得、山林所得若しくは雑所得を生ずべき業務の用に供される建物、構築物、機械及び装置、船舶、車両及び運搬具、工具、器具及び備品、鉱業権その他の資産で償却をすべきものとして政令で定めるものをいう。

所令(減価償却資産の範囲)
第六条 法第二条第一項第十九号(定義)に規定する政令で定める資産は、棚卸資産、有価証券及び繰延資産以外の資産のうち次に掲げるもの(時の経過によりその価値の減少しないものを除く。)とする。
一 建物及びその附属設備(暖冷房設備、照明設備、通風設備、昇降機その他建物に附属する設備をいう。)
二 構築物(ドック、橋、岸壁、桟橋、軌道、貯水池、坑道、煙突その他土地に定着する土木設備又は工作物をいう。)
三 機械及び装置
四 船舶
五 航空機
六 車両及び運搬具
七 工具、器具及び備品(観賞用、興行用その他これらに準ずる用に供する生物を含む。)
八 次に掲げる無形固定資産 (リ以外省略)
 リ ソフトウエア
九 次に掲げる生物(第七号に掲げるものに該当するものを除く。)
 (省略)


 意外なことに、条文上は「無形固定資産」が除外されていません。ので、その土地の上で行う事業で使うのであれば、「ソフトウェア」も対象に含まれることになります。
 とはいえ、あくまでも、

 土地−事業−ソフトウェア

と、土地の上で行う事業と結びついている必要があります。

 また、「一定の資産」が1(建物、附属設備、構築物)と2(それ以外)で書き分けられているのは、1は土地上に所在することが求められるが、2は必ずしも土地上に存在することを求められていないということでしょう(営業用の自動車とか)。

 問題は、資産の「所有」を求められていることです。
 個人事業を始めるにあたって、レンタル・リース・サブスクリプションなどの非所有形態をフル活用して設備投資額を最小限に抑えようとすると、要件を満たせなくなってしまいます。

 『特定事業用宅地がダメなら、法人化して特定同族会社事業用宅地を使えばいいじゃない』ということかもしれません。が、たとえばですけど、個人事業段階ではなるべく非所有形態でスタートさせておいて、うまくいきそうなら法人化して所有形態に切り替えていく、というスタイルもありうるはずです。
 【除外要件の除外要件】を額面通りに受け取るならば、このようなチャレンジスタイルを抑制することになるわけですが、それでいいのかどうか。

 また、「事業実態」としてはモノにだけ着目していて、ヒトの要素がまったく考慮されていません。沢山人を雇って付加価値を高めるような事業であっても、モノを所有しなければダメなんだと。
 法人税・所得税が、ヒト(所得拡大)/モノ(投資促進)の両面から優遇税制を設けているというのに、特定事業用宅地ではヒトの要素が抜け落ちてしまっています。


 特定居住用宅地、貸付事業用宅地でも同じ雰囲気を感じましたが、申告期限以降の「居住継続・事業継続」というものに関心が向けられていないように思えます。

 どちらかといえば、「事業畳むのにモノが沢山あると処分が大変だから、相続税は下げといてあげよう」という、事業を終わらせやすくする方向での配慮に思えます(事業廃止促進税制)。このように捉えることで、始めたての非所有メインの事業が優遇を受けられないことが、よく理解できます。

 が、だとしたら「申告期限」までの事業継続を要求するのは謎です。
 事業継続/事業廃止のいずれを促進するにしても、申告期限までの事業継続という中途半端な要求になっているのは説明しがたい。どちらの税制からもすんなり出てこない要件。

【事業継続要件(理念型)】
 事業継続促進税制:申告期限後も事業継続を求める
 事業廃止促進税制:申告期限までに事業廃止を求める
 ????????:申告期限までの事業継続を求める

 なお、(こういう言い方をするのはなんですが)相続にともなって事業を畳む際には、モノだけでなくヒトも整理の対象となります。特定事業用宅地の適用を受けるために、相続後申告期限までは事業を継続させたとして、その後、被用者との雇用契約をすんなり終了させられるのかは、ひとつの問題となります(整理解雇)。
 というのに、ヒトに対する配慮をしないというのは、「資産税だから気にしない」といって済ませられるものでしょうか。相続税法と労働法制とがうまく連結されていない、ひとつの場面。

 逆に、特定事業用宅地の適用狙いで申告期限までのつもりで事業継続していたら、従業員に察せられて、その前に退職されてしまって事業継続要件を満たせなくなる、なんて事態もあるかもしれません。
 以前、「所得拡大促進税制」が労働者にとっての武器になる、ということを論じましたが、それと同じことがここでも起こりえます。

武器としての所得拡大促進税制 〜労働者にとっての。

 ちなみに、「個人版事業承継税制」が、特定事業用宅地とは別建ての、相容れない制度として創設されています。こちらは額面通り、事業承継を促進するための税制となってます。

 このような制度が新設されたことからしても、特定事業用宅地を「事業継続」促進のための制度とみるのは正しくなさそうです。

個人版事業承継税制(国税庁)


 「貸付事業用宅地」の場合、3年以内に追加することが許容されるのは「特定貸付事業」に該当するものに限られるかどうか、ということが問題になりました。
 これに対して、「特定事業用宅地」の場合は、追加する事業そのものについて正面から一定規模以上の事業を要求されているので、そのことが論点になることはありません。

 また、「相続人が死んだらどうなる」問題も、貸付事業用宅地のようにトキ・ヒト・モノが複雑に絡み合ったりしていないので、そう難しく考える必要はありません。

特定事業・貸付事業(適用関係).png


 結果的に同じような配列にはなっていますが、貸付事業用宅地のほうはあれこれさんざん捏ねくり回した上で、どうにかまとめたものです。きれいにまとまった風ですが、「特定貸付事業者」の定義の中にいろんな含意がビルドインされています。
 他方で、特定事業用宅地のほうは、条文から素直に導き出せるものです。当該土地のことと当該事業のことを中心に検討すればあてはめができます。
posted by ウロ at 11:22| Comment(0) | 相続税法

2022年07月11日

特定事業用宅地はトキ・モノ・モノ(その1)

 「特定事業用宅地」については、どういうわけかまったく全然検討する気になれませんでした。
 やはり、ちょっと癖のある制度のほうがイジリがいがあるということでしょうか。

 ですが、特定居住用宅地、貸付事業用宅地について検討してしまったので、《揃えモン》としては「3年縛り三姉妹」の残り一人、特定事業用宅地の「3年縛り」についても検討せざるをえません(それぞれどれが泪、瞳、愛に対応するかは各自ご検討ください)。

【揃え癖】
人類は、差異を産み育むことでマニアとなる。 〜法律書マニアクス全開

 ということで、以下気が進まないまま展開していきます。

【お約束事項】
・条数は省略して項数以下で引用します。
  法 第六十九条の四(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
  令 第四十条の二(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
  規 第二十三条の二(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
・条文引用は例によってド派手に省略するので、正確には原文をご確認ください。
・要件のうち、「3年縛り」絡みだけを検討します。


 まずは条文。

法1
 個人が相続により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続に係る被相続人【又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族】(「被相続人等」)の事業(事業に準ずるものとして政令(1)で定めるものを含む。同項において同じ。)の用に供されていた宅地等で財務省令(1)で定める建物又は構築物の敷地の用に供されているもののうち政令(4)で定めるもの(特定事業用宅地等「特例対象宅地等」)がある場合

令1
 法第一項に規定する事業に準ずるものとして政令で定めるものは、事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの(「準事業」)とする。
令4
 法第一項に規定する被相続人等の事業の用に供されていた宅地等のうち政令で定めるものは、相続の開始の直前において、当該被相続人等の同項に規定する事業の用に供されていた宅地等のうち所得税法第二条第一項第十六号に規定する棚卸資産(これに準ずるものとして財務省令(3)で定めるものを含む。)に該当しない宅地等とし、これらの宅地等のうちに当該被相続人等の法第一項に規定する事業の用以外の用に供されていた部分があるときは、当該被相続人等の同項に規定する事業の用に供されていた部分に限るものとする。
規1
 法第一項に規定する財務省令で定める建物又は構築物は、次に掲げる建物又は構築物以外の建物又は構築物とする。
 一 温室その他の建物で、その敷地が耕作(農地法第四十三条第一項の規定により耕作に該当するものとみなされる農作物の栽培を含む。次号において同じ。)の用に供されるもの
 二 暗渠きよその他の構築物で、その敷地が耕作の用又は耕作若しくは養畜のための採草若しくは家畜の放牧の用に供されるもの
規3
 令第四項に規定する財務省令で定める棚卸資産に準ずるものは、所得税法第三十五条第一項に規定する雑所得の基因となる土地又は土地の上に存する権利とする。

法3 この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 特定事業用宅地等
 被相続人等の事業(不動産貸付業その他政令(7)で定めるものを除く。以下この号及び第三号において同じ。)の用に供されていた宅地等で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族(当該親族から相続により当該宅地等を取得した当該親族の相続人を含む。イにおいて同じ。)が相続により取得したもの(相続開始前三年以内に新たに事業の用に供された宅地等(政令(8)で定める規模以上の事業を行つていた被相続人等の当該事業の用に供されたものを除く。)を除き、政令(10)で定める部分に限る。)をいう。
イ 当該親族が、相続開始時から相続税法第二十七条、第二十九条又は第三十一条第二項の規定による申告書の提出期限(以下この項において「申告期限」という。)までの間に当該宅地等の上で営まれていた被相続人の事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該事業を営んでいること。
ロ 当該被相続人の親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であつて、相続開始時から申告期限(当該親族が申告期限前に死亡した場合には、その死亡の日。第四号イを除き、以下この項において同じ。)まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の事業の用に供していること。

令7
 法第三項第一号に規定する政令で定める事業は、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業とする。
令8
 法第三項第一号に規定する政令で定める規模以上の事業は、同号に規定する新たに事業の用に供された宅地等の相続の開始の時における価額に対する当該事業の用に供されていた次に掲げる資産(当該資産のうちに当該事業の用以外の用に供されていた部分がある場合には、当該事業の用に供されていた部分に限る。)のうち同条第一項に規定する被相続人等が有していたものの当該相続の開始の時における価額の合計額の割合が百分の十五以上である場合における当該事業とする。
一 当該宅地等の上に存する建物(その附属設備を含む。)又は構築物
二 所得税法第二条第一項第十九号に規定する減価償却資産で当該宅地等の上で行われる当該事業に係る業務の用に供されていたもの(前号に掲げるものを除く。)
令9
 被相続人が相続開始前三年以内に開始した相続により法第三項第一号に規定する事業の用に供されていた宅地等を取得し、かつ、その取得の日以後当該宅地等を引き続き同号に規定する事業の用に供していた場合における当該宅地等は、同号の新たに事業の用に供された宅地等に該当しないものとする。
令10
 法第三項第一号に規定する政令で定める部分は、同号に規定する被相続人等の事業の用に供されていた宅地等のうち同号に定める要件に該当する部分(同号イ又はロに掲げる要件に該当する同号に規定する被相続人の親族が相続により取得した持分の割合に応ずる部分に限る。)とする。


 そして、いつものやつ。

No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)


 ここから要件を整理すると次の通り。

【原則要件】 ○
1 事業の用に供されていた宅地

 「事業」
  不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業は除く
  ←貸付事業用宅地との棲み分けがされています。

2ア 被相続人の事業
 事業承継要件 相続税の申告期限までに承継し継続
 保有継続要件 申告期限まで保有

2イ 生計一親族の事業
 事業継続要件 相続開始前から申告期限まで継続
 保有継続要件 申告期限まで保有

【除外要件】 ×
 「相続の開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地」は除く

【除外要件の除外要件】 ○
 「一定の規模以上の事業を行っていた被相続人等の事業の用に供された宅地」は除かない(除くを除く)

「一定の規模以上の事業」
 事業の用に供されていた一定の資産のうち
 被相続人等が有していたものの相続開始時の価額の合計額  ≧15%
 新たに事業の用に供された宅地等の相続開始時の価額

「一定の資産」(その事業の用に供されていた部分に限る)
・その宅地等の上に存する建物(その附属設備を含みます。)、構築物
・所得税法2条1項19号に規定する減価償却資産でその宅地等の上で行われるその事業に係る業務の用に供されていたもの


 これだけをみると、「除外要件」に「除外要件の除外要件」をぶつけるという座組は、貸付事業用宅地と同じです。が、同じなのは座組だけで、中身は貸付事業用宅地とは似ても似つかない。

【貸付事業用宅地の場合】
 ・お亡くなりになる前3年以内に駆け込みで貸付事業始めても駄目だよ(貸除1)。
 ・でも、それより前からガチ貸付業やってたら、直前で物件追加してもいいよ(貸除2)。

【特定事業用宅地の場合】
 ・お亡くなりになる前3年以内に駆け込みで事業始めても駄目だよ(事除1)。
 ・でも、その土地の上で多額の減価償却資産使う事業ならいいよ(事除2)。

 すでに検討したとおり、《貸除2》は、3年前からガチ貸付事業をやっている「特定貸付事業者」というヒトの属性を満たせば、その後はどんな規模であっても追加し放題でした。

 他方で、《事除2》の規律をみると、過去どんな事業を行っていたかは一切問わず、当該事業が土地の上で(一定規模以上の)モノを使うかどうかで判断することになっています。

 《貸除2》は、すでに持っている人に対してはやたら寛容なのに対して、これから新しく貸付事業を始めようとする人に対しては無慈悲。持てるものはより持てるよう、持たざるものはいつまでも持てるようにはならないよう仕向けている(格差の拡大再生産)、と評価されても文句はいえないでしょう。

 これに対して《事除2》は、これまで持っていなかった人でも、一定規模以上であれば「死に際チャレンジ」も認めることになっています。
 一般事業のチャレンジは広く推進する一方で、貸付事業はこれ以上多くの人に広がることを抑制する、という隠れた意図が透けてみえるよう(既得権益保護税制)。


 一旦ここで区切って、次回【除外要件の除外要件】の中身について検討します。
posted by ウロ at 10:28| Comment(0) | 相続税法

2022年07月04日

貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その5) 〜趣旨論

 貸付事業用宅地の特例について、要件整理はどうにかできました。が、そもそもこの制度の趣旨は何なんでしょうか。

貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その1) 〜規範論
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その2) 〜類型論
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その3) 〜過程論1
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その4) 〜過程論2

 家なき子特例については少なくとも『出戻り保護』ではないことまでは分かりました。ではありますが、では何を保護しようとしているのかについては、さっぱり分かりませんでした。

僕たちは!出戻り保護要件です!! 〜家なき子特例の趣旨探訪1
ぼくたちは出戻り保護ができない。 〜家なき子特例の趣旨探訪2
あの日見た特例の趣旨を僕達はまだ知らない。 〜家なき子特例の趣旨探訪3(完)

 今回も、懲りずに立法趣旨を探ってみます。


 貸付事業用宅地の特例の座組は次の通りでした。

【原則要件】 ○
1 貸付事業の用に供されていた土地
2イ 被相続人の貸付事業の場合
    事業承継要件 相続開始時から申告期限までの間に承継し継続
    保有継続要件 申告期限まで保有
2ロ 生計一親族の貸付事業の場合
    事業継続要件 相続開始前から申告期限まで継続
    保有継続要件 申告期限まで保有

【除外要件】 × (除1と呼びます)
 相続の開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地は除く

【除外要件の除外要件】 ○ (除2と呼びます)
 相続開始の日まで3年を超えて引き続き「特定貸付事業」を行っていた被相続人等のその特定貸付事業の用に供された宅地は除かない(除くを除く)


 原則要件では、事業・保有の継続が「申告期限」までという、中途半端なところまでの要求となっています。
 申告期限後も事業・保有が継続することやその見込みすら要求されていないということは、本特例は貸付事業の「継続」を積極的に保護するつもりはないのでしょう。
 継続方向にどうかこじつけるとしたら、せいぜい『申告期限までは頑張って続けてみてよ。もし続けられそうならその後も続けてほしい、かな。』程度でしょう。

 では、何を保護しようとしているのか。除2要件が『たとえ駆け込みであっても保護すべきものがそこにはある』という心づもりで設けたものでしょうから、当該要件がどのように機能するかという観点からみてみることにしましょう。


 貸付用の土地を購入しようと考えている人の立場から、除2を考えてみると、

ア すでにガチ貸付事業をやっている人の場合
 自分がいつ亡くなっても新規購入分も適用受けられるから、減額効率のよい単価高め・収益力高めの物件があれば購入していこう。

イ これまで貸付事業をやったことがない人の場合
 3年以内にうっかり亡くなっちゃうと特例適用できなくなるから、購入を控えよう。

と機能することになります(厳密にいうと、購入ではなく事業供用ですが、購入したら即事業供用するということで)。

 有り体にいえば、「持てる者はより持てるようになり、持たざる者はいつまでも持てるようにならない」という格差の拡大再生産を、本制度は推進していることになります(格差拡大促進税制)。

 「持てる者」はすでに限度面積を超えていることが多いのかもしれません。が、上記の通り、死ぬまで減額効率のよい物件漁りが許容されていることになります。超高層マンション(分譲)を想定するならば、限度面積にまだまだ余裕がある可能性もあります。

 また、「持たざる者」でも3年生きることを頑張れば、適用を受けられることにはなります。が、自分が3年超生き延びられるかどうかなど事前に分からないわけで、本特例を《行為規範》として考えた場合には、購入を控えざるをえないでしょう。

【税法における行為規範】
税法・民法における行為規範と裁判規範(その1)


 ということで、除2要件を額面どおり素直に受け取るならば、

ア すでにガチ貸付事業をやっている人は好きに増やしていいよ。
イ これから新規で貸付事業を始めようとする人が増えるのは望まない。

という、《既得権益保護税制》だと捉えることができます。

 もちろん、こんなことを公刊物で大っぴらに宣う奴いるはずありません。
 《運営》側の説明では「タワマン節税防止」だということになっています。

平成30年度税制改正の解説(財務省) P.641

 実際そういう側面があるのは事実なので、嘘をついているわけではありません。
 が、本特例が機能する人/しない人は次の通り分かれます。

 ア すでに持っている人のタワマン節税 →防止しない
 イ まだ持っていない人のタワマン節税 →防止する

 下手に嘘をつかれるよりも、たちが悪い。
 このような露骨な差別がされているにもかかわらず、世の実務本は《運営》の説明を鵜呑みにしちゃっているわけで、粗忽と言わざるを得ない。


 このように、貸付事業用宅地の特例は《格差拡大促進税制》あるいは《既得権益保護税制》として機能することが分かりました。
 立案担当者的には「そんなつもりは毛頭ない」というかもしれません。ですが、実際に出来上がった要件を正確に理解するならば、そのように機能することは自明のことです。

アレオレ租税法 〜立案者意思は立法者意思か?

 とはいえ、機能と立法趣旨とは必ずしもイコールではありません。本特例でも、原則要件が「申告期限」までという中途半端な保有・事業継続を求めているわけで、このこととの折り合いをつける必要があります。

 次のような説明が可能でしょうか。

・本当は節税目的だけの駆け込み購入を排除したい。が、主観的な「つもり」要件では法的安定性を欠く。
 そこで、3年という期限で区切る。ただ、すでにガチ貸付事業をやっているならば、売ったり買ったりも事業の一環だろうから、3年以内でも許容する。

・相続人に対しては「お試し期間」として申告期限まで続けてもらおう。続けてくれるならそれにこしたことはないし、止めるにしても後始末に手間がかかるだろうから、どちらであっても特例は受けさせてあげよう。

 とすると、立法趣旨としては、被相続人(+生計一親族)に向けて、しっかり貸付事業をやっているかぎりいきなり亡くなっても相続人に迷惑をかけないようにしておいてあげる、というものだといえそうです。少なくとも、相続人がこれから先、貸付事業を続けていくことに向けられたものではない。

 なお、立案担当者がどういうつもりであったにせよ、除1・2要件は、実際には「格差の拡大再生産」機能を果たすことになるわけで、この要件設定が適切だったかは当然問題となります。
posted by ウロ at 11:40| Comment(0) | 相続税法