2020年10月12日

タックスアンサーの中の譲歩と抵抗 〜小規模宅地等の特例を素材に

 下記の記事を書く過程で、タックスアンサーを確認しました。

関場修 山口暁弘「小規模宅地等の評価減の実務 第4版」(中央経済社2018)

【タックスアンサー】
No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

 したら、いつのまにか表現が修正されていました。
 3(3)の「特定居住用宅地等」の表のところ。

【条文】
租税特別措置法69条の4
租税特別措置法施行令40条の2


 以前の記事では次のような揶揄を書きました。

パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○

(引用ここから)
 タックスアンサー含め、国税庁側の出す情報の傾向として、
  ・うっかり優遇受けられると勘違いしがちな記述には厳密
  ・うっかり優遇受けられないと勘違いしがちな記述には寛容
というのがある気がします。まあ、そういうお立場ですし。
(引用ここまで)

 この傾向からすると、嫌々ながらも頑張って納税者寄りに修正できたんだ偉いねえ、と一瞬思ったんですが。
 どうも必死の抵抗が見られる。

 以下、そのアゲンストイジり。


 同特例にいろんな「同居」が内蔵されていることは、以前の記事で書いたとおりです。

【いろんな同居】
a どの範囲で特例の適用を受けられるかを判定するときの同居
 ⇒一棟の建物で判定 (令40条の2第4項)
b 同居親族が適用を受けるために、同居しているかを判定するときの同居
 ⇒一棟の建物で判定 (法69条の4第3項2号イ)
c 家なき子が適用を受けるために、他の相続人が同居していないかを判定するときの同居
 ⇒独立部分で判定 (通達69の4-21)
d 家なき子が適用を受けるために、被相続人が居住していたかを判定するときの居住
 ⇒???

 このうちの、aが(注2)、bが(注3)に明記されています。
 ところが、cとdは記載なし。

 cは、abと違って「独立ルール」なわけですが、適用範囲を拡張するという方向性ではabと同じものです。
 もし仮に、cを記載しないことで、abが「一棟ルール」ならcも同じでしょうね、という誤読を狙っての不記載だとしたら、小ずるい。
 いつもの調子なら、通達ルールをうきうきで法令と同格であるかのように全面に押し出すくせに。

 a:一棟   広がる 令
 b:一棟   広がる 法
 c:一棟?? 狭まる 通
 b:一棟?? 広がる 無

 他方、dの記載がないのは明文がないからしょうがないじゃないの、という擁護があるかもしれません。
 が、公式において「明文がないから記載しない」なんて運用、たぶんされていない。

【参照:Q&Aでご都合解釈】
「定期同額給与」のパンドラ(やめときゃよかった)

 当然、誰もが疑問に思うところ。
 法解釈として正しいかどうかは別として、「公式」サイドがどのような運用をするつもりなのか、ちゃんと明記しておいてほしい。


 (注2)の中で気になる記述。

 注2
 「被相続人の居住の用に供されていた宅地等」が、被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物(「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」※を除きます。)の敷地の用に供されていたものである場合には、その敷地の用に供されていた宅地等のうち被相続人の親族の居住の用に供されていた部分(上記〔特定居住用宅地等の要件〕区分Aに該当する部分を除きます。)を含みます。


 この記述のなかの「(上記〔特定居住用宅地等の要件〕区分Aに該当する部分を除きます。)」のところ。

 具体例をあげてみます。

《事例》
  ・被相続人:A、相続人:子B、子C
  ・土地 A所有
  ・建物 A所有(2世帯住宅・区分所有なし)
  ・1階にA居住、2階にB居住(生計一or別)

 この場合、1階のみならず2階も@の適用範囲に含まれる、というのが一般的な理解かと思います。
 「生計一」は要求されていないので、一でも別でもどちらでもよいと。

 が、上記記述の「除きます」ルールを文字通りに理解すると、

 2階部分は@の適用範囲に含まれるか?
  ・Bが生計一 含まれない
  ・Bが生計別 含まれる

ということになってしまいます。
 ので、Bが生計一の場合、2階部分はBがA(生計一)ルートで適用を受けるしかなく、BあるいはCが@3(家なき子)ルートで適用を受けることは不可能ということになります。

 この結論が妥当なのかどうか。
 要件が込み入りすぎて、もはや「制度趣旨」からなにがしかの解釈論を導くことは難しい。
 税理士的には、本来ならば適用範囲が広いほうがありがたいはずなのですが、自信を持って解釈論を展開することができないのは、不安定極まりない。

 しかも、相続の場面では相続人間に「利益相反」の関係があるのが通常です。
 とすると、適用受けられる人が増えることで、誰が適用を受けるかの奪い合いになることも。
 なので、単純に広がればお得、ということでもない。揉める要素が増えかねない。


 ちなみに、まったくの余談ですが、要件を細かく書き込めば書き込むほど、隙間の穴埋めが難しくなるという罠があります。
 「相続回復請求権」なんて、条文がふんわりしすぎて手がかりが手薄なんですが、そのおかげで制度趣旨からの解釈というのが自由にできたりします。

民法 第八百八十四条(相続回復請求権)
 相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から二十年を経過したときも、同様とする。


 この愚は、2017年の民法(債権関係)改正で、やたらと条文に書き込みをしたせいで余計に解決すべき問題が増えた、という現象と似ている気が。
 で、解決しようにも、余計なことを書き込みすぎて解釈が展開しずらくなっているという。


 そもそも、この「除きます」ルール、私の見落としがなければですが、条文を漁っても見当たらないんですよね。

 これも、abを明記することで納税者側に譲歩したことの反動でしょうか。
 条文に書かれていない制約条件を、何らかの法解釈で付け加えてみたと。

【譲歩/抵抗一覧】
  譲歩 a書く
  譲歩 b書く
  抵抗 c書かない
  抵抗 d書かない
  抵抗 @から生計一除く

 確かに、次のような事例で、Cが土地建物を一人で相続しつつ家なき子ルートで特例をフルで使えるのは、おかしい気がしないでもない。
 申告したあと、Bを建物から追い出すなんてことをしたら、目も当てられない。

《事例》
  ・被相続人:A、相続人:子B、子C
  ・土地 A所有
  ・建物 A所有(2世帯住宅・区分所有なし)
  ・1階にA居住、2階にB居住(生計一)

 ではあるんですが、「除きます」を条文解釈から導けないにもかかわらず、勝手に付け加えることは許されるものではないでしょう。

【参照:エクストリーム趣旨解釈】
横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)

 何らかの制限を加えたいのであれば、むしろcの独立ルールをもう少し精緻にしたほうがいいのでは。
 お宅のところの通達レベルのルールなわけですし。
 なお、「精緻」といったのは、単純にcを一棟ルールに置き換えれば済む問題ではないからです。

 このあたりは、また別記事にするかもしれません。


 これまで、改正のたびに要件の書き込み・書き込みで対応してきたわけですけども、ここであらためてパーツごと(独立、一棟、生計、区分所有などなど)に解体して、適切な結論を導けるよう組み直しをしたほうがよいのではないでしょうか(オーバーホール租税法)。

 もしかしてですけど、この「除きます」の意味は、2階部分にAの適用を受けた場合は、重複して@の適用を受けることはできないという、わりと当たり前のことをいっているだけなのでしょうか。

 私の歪んだ性根のせいで、イジりやすい方向に読み取ってしまっているだけですか。

【小規模宅地の特例】
パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○
イタチ、巻き込み。 〜家なき子特例の平成30年改正
ヤバイ同居 〜続・家なき子特例の平成30年改正
関場修 山口暁弘「小規模宅地等の評価減の実務 第4版」(中央経済社2018)
「要件書き込み」は趣旨解釈を駆逐する。〜小規模宅地等の特例を素材に
オーバーホール租税法・序論 〜小規模宅地等の特例を素材に
白井一馬「小規模宅地等の特例」(中央経済社2020)
僕たちは!出戻り保護要件です!! 〜家なき子特例の趣旨探訪1
ぼくたちは出戻り保護ができない。 〜家なき子特例の趣旨探訪2
あの日見た特例の趣旨を僕達はまだ知らない。 〜家なき子特例の趣旨探訪3(完)
posted by ウロ at 12:14| Comment(0) | 相続税法

2020年10月05日

佐藤英明「スタンダード所得税法 第2版補正2版」(弘文堂2020)

 「税法学」学習の入口として、今のところの最有力。



佐藤英明「スタンダード所得税法 第2版補正2版」(弘文堂2020)

 「租税法」の教科書、分かりやすい風の教科書がいくつか出ていますが、あくまでも「風」なことがほとんど。
 二色刷り、図表豊富、ですます調であることが、必ずしも分かりやすいわけではない、という罠。

税法思考が身につく、理想の教科書を求めて 〜終わりなき旅

 版を重ねている、というのも一般書籍であれば信頼性に繋がります。
 が、大学の教科書の場合は、毎年学生に買わせているだけ、というパターンもありうる。

法学研究書考 〜部門別損益分析論


 他方で、本書は正しく分かりやすい。

 「租税法」という名前の教科書で、複数税法を散開的に勉強するよりも、まずは、所得税法なら所得税法だけを一通り勉強したほうがいいと思う。
 特に個別法の勉強が進んでいない段階で「総論」的な記述を読んでも、よく分からないでしょうし。

 構成として、1頁目から「総論」的な記述が長々と続く教科書は、それだけで不親切設計だと看做しても、おおよそ間違いではないと思う。


 本書が特に優れているところは、逐一事例をあげることで具体的に理解できることと、個々の制度の理由付けが記述されていてなぜそのような制度があるのかを理解することができること。

 図表も豊富で、本文の説明を視覚的に理解することに繋がっている。
 そんなの当たり前、と思うかもしれませんが、図表と本文が一致しない書籍もあるんですよ。

三木義一「よくわかる税法入門 第14版」(有斐閣2020)


 珍しいのが「手続法」の記述もあること。
 通則法の説明が、ちゃんと所得税法向けにカスタマイズされていて。

 通則法の側から勉強しても、所得税法に限った記述になっていないので、どうしても理解しにくいところ。
 それが所得税法に適用されるかぎりでの記述になっているので、非常にイメージしやすい。

 「所得税法を一通り勉強する」という観点からしても、実体法だけでなく手続法まで触れているのは、とてもよい。


 ただし、私が本書を読んでいてどうしてもなじめないのが、事例に出てくる人物の名前が「アユミ」「イサム」からはじまって、カタカナ五十音順で続々と登場してくるところ。
 事例がでてくるたびに、キャラクターのイメージをセットしなおさないといけない。
 
 これはアレです、ロシア文学読んでて、登場人物の名前をさっぱり覚えられない現象に近しい。



ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」(光文社2006)

 や、長編なら、読んでいくうちに名前とキャラクターのイメージが出来上がっていくのでまだましかも。
 絶望的にキャラクター描写が下手な短編集を次々読まされる感じですかね。

 所得税法でたくさん事例をあげるのであれば、登場人物を絞ってもいけるはず。

 たとえば、

  仕事:学生⇒サラリーマン⇒個人事業主⇒会社経営⇒会社売却⇒投資家
  家庭:同棲⇒結婚⇒出産⇒離婚

などといった感じで人生を展開させれば、一人でも相当な範囲をカバーできますよね。

 ちなみに、大垣尚司先生の会社法の教科書であげられている事例は、会社の立ち上げから始まって会社の発展にあわせたひと繋ぎの事例になっています。

大垣尚司「金融から学ぶ会社法入門」(勁草書房2017)

 親切にも、冒頭に「登場人物一覧表」もあげてくれていて、非常にイメージがしやすい。


 なお、本書にかぎらず、租税法・所得税法の教科書にかならず書いてあるのに、私がいまだによく理解できないもの。

 それが「包括的所得概念」。

 現行所得税法が「包括的所得概念」を採用しているかのようなことが最初に書いてあるものの、個々の規定の解説の段階では、「包括的所得概念」とはそぐわないものがそこかしこに出てくる。

 これって、そもそも「包括的所得概念」を採用していないってことなんじゃないのかと。

 これがたとえば、藤田宙靖先生の行政法の教科書のように、「法律による行政の原理」を『ものさし』としてそれとの偏差で行政法学の展開を記述する、という使い方ならまだ分かります。
 あくまでも、現行所得税法の立場を理解するための『ものさし』としてならば。




藤田宙靖 新版 行政法総論 上巻 青林書院2020
藤田宙靖 新版 行政法総論 下巻 青林書院2020

 が、「現行所得税法は包括的所得概念を採用している」とか書くから、実際の規定との折り合いをどうつけるというのか、逐一疑問が残ってしまう。
 単なる抽象概念で無益なだけならともかく、そのような先入観があるせいで、現行所得税法のあるがままの姿を理解することの妨げになるというのなら、それは有害概念でしょう。

 もしかしたら、シャウプ先生の呪いで、租税法の教科書を書く人は必ず冒頭に「包括的所得概念を採用している(キリッ)!」て書かないと爆散する、のだとしたら、外野があれこれ批判するべきでないのかもしれません。
 が、そうだとしても、(人生の、ではなく教科書の)最後にこれまでの記述をちゃんと振り返って、適合率を正確に測定するくらいはできますよね。

【本書よりさらに手前の入門書】


佐藤英明「プレップ租税法 第3版」(弘文堂2015)

【法人税法の教科書】
渡辺徹也「スタンダード法人税法 第2版」(弘文堂2019)

【コラボもの】
窪田充見「家族法 第4版」(有斐閣2019)

posted by ウロ at 09:25| Comment(0) | 租税法の教科書

2020年09月28日

伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)



伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)

 租税法に「要件事実的思考」を持ち込もうという趣旨で書かれた論文集。
 のはずなんですが、要件事実論の持ち込み具合が、各執筆者によりまちまち。


 要件事実論を論ずるにあたっては、前提として、たとえば次のような概念の違いを正確に理解しておく必要があります。

 ・解釈/評価/事実/証拠
 ・主要事実/間接事実
 ・本証/反証
 ・要件事実論/事実認定論



伊藤滋夫「要件事実の基礎 新版」(有斐閣2015)
伊藤滋夫「事実認定の基礎 改訂版」(有斐閣2020)
(ついに事実認定本も改訂版が!)

 執筆陣の中で、ガチガチの要件事実論研究者は伊藤滋夫先生だけで、それ以外の方は租税法側からのアプローチ。
 上記概念を正確に使えているのだろうかと、疑問に思わないでもない箇所がちらほら(ただの反証を抗弁と言っているのではないか、とか)。


 ところで、要件事実論の学習者が辿る一般的なプロセスは、次のような感じ(私見)。

 1 序
  民法内部で争われている解釈論を立体的に理解できることにカタルシスを感じる
 2 破
  要件事実論に配慮していない民法の教科書類をディスりだす
 3 急
  要件事実論を論じる前に実体法レベルでの議論を詰めておくことが大事だと気づく

 こんなイメージを持っています。

【三部構成】
安田拓人ほか「ひとりで学ぶ刑法」(有斐閣2015)

 要件事実的思考を租税法に導入するとかいうので、1のカタルシスが得られればいいな、と思って読んでみたのですが、残念ながら。

 たとえば、「推計課税」とか租税法内部では錯綜した議論が展開されています。
 ここに要件事実的思考を導入することで、租税法内部の議論が立体的に理解できるようになるかなあとか思ったんですが、そういうこともなく。

 もちろん、私の感度があまりにも低レベルすぎるってだけの可能性もありますが。


 租税法の中では重要論点である「借用概念」とかも論じられています。
 が、借用概念を要件事実論の観点から論ずべきことなんて「何もない」というのが私の見立て。

 というのも、借用概念論は、税法上の概念を民法からお借りして解釈するかという問題です。
 つまり、裁判所が当該概念をどのように「解釈」すべきか、ということ。

 他方で、要件事実論は、あくまでも当事者が主張立証すべき「事実」が何かを論ずるものです。
 借用概念なのか固有概念なのかが決まった後に、ようやく登場してくる。

 ので、両者が交わることはない。

 あえて交わらせようとするなら、「原則は借用概念として解釈されるから、固有概念であることを主張したい側がそのことを証明すべき。」みたいなことを言うか。
 が、これはむりやり要件事実風に仕立て上げているだけで、そこに要件事実論の知見が生かされることは、まあないでしょう(傀儡感・脱殻感強い)。


 あるいは、たとえば『住所認定に租税回避の意思を含めるべきではない』という言明について、少なくとも当該意思が住所の「主要事実」とならないことを含意していることは分かるとして、さらに「間接事実」としても用いてはいけないといっているのかどうかを分析するとか。

 主要事実を認定するための一要素としてなら考慮していいのか、あるいは、それすら許されない(法定証拠法則)ということなのか、みたいな。

 まあこれは「事実認定論」に片足突っ込んでいる気がしますけども。


 完全に私の邪推ですけど、編集段階で『要件事実論の観点から論ずべき租税法の論点』についての洗い出し・絞り込み、というのをやっていないように思います。
 論ずべき内容を、各執筆者にお任せした感じの。

 だからといって、ガチガチに執筆方針を固めてしまうと不具合が生じることもあるでしょう。

【悲劇のパンデクテン】
「新 実務家のための税務相談(民法編) 」(有斐閣2017)
アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民まとめ)

 が、要件事実論を租税法に導入する、なんて慣れないことをさせるのならば、事前に伊藤滋夫先生が要件事実マインドを各執筆者に叩き込んでおいたほうがよかったんじゃないですかね。

 また、ちらっと上述したとおり、要件事実論のみならず事実認定論も交えたほうがいいような気もします。
 私法側では分離して論じられていますけども、租税法で展開する際には一体として論じたほうがよさそう。


 租税法に要件事実論を導入することに否定的な立場の人もいるらしく。

 本書は「租税法でも要件事実論大事だよ」側からの論文しかないので、否定論者の具体的な論拠はわかりません。
 が、おそらくこういうことを問題視しているんだろうな、と思われる記述が本書の中にあったので、検討してみます。


P.467
「取消訴訟の請求原因として、上記@の賦課期日における事務所等の存否に係る誤認が争点とされている場合には、被告地方団体は、抗弁として、納税義務者たる法人等が賦課期日において当該地方団体の区域内において事務所等の登記登録がなされていたという具体的事実(ここでは、台帳や登記簿等の形式的な登記登録事実が要件事実となる)を主張・立証しなければならない。これに対して、原告法人等の側で、賦課期日において事務所等を廃止し又は売却して、転出していたにもかかわらず、天変地異や事故等のやむを得ない事情により、登記登録抹消の手続きをすることができなかったことや建物等の所有権移転登記をすることができなかったような事実があるとするならば、再抗弁として、当該具体的事実を障害事実として主張・立証する必要がある。」


 これは、法人住民税均等割についての、立証責任の分配に関する記述。
(地方税法で「事務所等」が使われているものはいくつかありますが、ここでは「法人住民税均等割」で代表させます)

 この記述では、均等割が課税される「事務所等」の主張立証責任を

  (抗弁)地方団体:
    形式的な登記登録事実があること
     を主張立証すべき
  (再抗弁)納税者:
    実質的な事務所実態がないこと、および
    やむを得ず登記登録の移転・抹消ができなかったこと
     を主張立証すべき

と分配することが書かれています(以下、主張立証責任は単に「立証責任」といいます)。
 ※抗弁から始まるのは、債務不存在確認訴訟と同じく更正処分取消訴訟の構造上の都合です。

 が、これ率直にいって「要件事実ロンダリング」
 すなわち、正面から租税法律主義を潜脱することはできないので、立証責任の分配経由で条文を書き換える仕草(もちろん私の造語)。

【参照:趣旨ロンダリング】
横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)

 以下、ロンダリングっぷりを敷衍します。
 (登記登録の移転抹消は「登記抹消」で代表させます。また地方団体は「課税庁」といいかえます。)


 上記立証責任の分配によれば、納税者が立証に失敗した場合には、登記だけで均等割を課税できることになります。

 確かに、「固定資産税」はそんな感じにみえる構造になっています。

地方税法 第三百四十三条(固定資産税の納税義務者等)
1 固定資産税は、固定資産の所有者に課する。
2 前項の所有者とは、土地又は家屋については、登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録されている者をいう。この場合において、所有者として登記又は登録されている個人が賦課期日前に死亡しているとき、若しくは所有者として登記又は登録されている法人が同日前に消滅しているとき、又は所有者として登記されている第三百四十八条第一項の者が同日前に所有者でなくなつているときは、同日において当該土地又は家屋を現に所有している者をいうものとする。


 第2項第一文で「台帳課税主義」をとりつつ、同項第二文で「じゃない場合」を認めると。

 もちろん条文構造からだけで直ちに、第二文の立証責任を納税者側に負わせていいとはなりません。
 「本文+但書」形式にもなっていませんし。

 が、台帳課税主義という原則の例外、ということで、納税者に例外事由の立証責任を負わせることは不当ではない、という結論もありうるかと思います。
 他方で、納税者に本証レベルの負担までは要求すべきではない、とか、反証レベルの負担は納税者に負わせるべき、などといった見解もありえて。

【租税実体法】
 登記あり+第二文の事由なし ⇒課税する
 登記あり+第二文の事由あり ⇒課税しない

 実体法レベルでは、第二文の事由が存否不明の場合に課税できるのかどうかは分かりません。
 これを明らかにするのが要件事実論のお仕事。

【要件事実論の展開】
 A説:
  課税庁 登記あり(本証)
  納税者 第二文の事由があること(本証)

 ⇒納税者が「あること」の立証責任を負う。

 B説:
  課税庁 登記あり+第二文の事由がないこと(本証)

 ⇒課税庁ははじめから「ないこと」の主張立証をしなければならない。

 C説:
  課税庁 登記あり(本証)
   納税者 第二文の事由がある可能性があること(反証)
  課税庁 第二文の事由がないこと(本証)

 ⇒課税庁はさしあたり「登記あり」のみ主張立証すればよい。
 納税者が「あることの可能性」を主張立証してきたら、「ないこと」を主張立証すべきことになると。

 といった感じの議論をするのが「租税訴訟における要件事実論の展開」なんでしょう。
 で、「台帳課税主義」というものをどれくらい重く見るのか、なぜ第二文の場合に登記名義人に課税しないのか、といった法の趣旨から結論を導き出すと。

 とはいえ、第二文の事由は極めて限定されているので、その存否で争いになるとは考えにくい。
 あくまで要件事実論手習いとして記述してみたまでです。


 翻って均等割。

地方税法 第二十四条(道府県民税の納税義務者等)
1 道府県民税は、第三号に掲げる者に対しては均等割額及び法人税割額の合算額によつて課する。
 三 道府県内に事務所又は事業所を有する法人


 条文構造は立証責任を課税庁・納税者に分配するような形にはなっていません。

 また、下記の通知をみても、形式があればとりあえず課税、などとは考えられていません。

地方税法の施行に関する取扱いについて(道府県税関係)第1章 一般的事項
6事務所又は事業所
 (1) 事務所又は事業所(以下6において「事務所等」という。)とは、それが自己の所有に属するものであるか否かにかかわらず、事業の必要から設けられた人的及び物的設備であって、そこで継続して事業が行われる場所をいうものであること。この場合において事務所等において行われる事業は、当該個人又は法人の本来の事業の取引に関するものであることを必要とせず、本来の事業に直接、間接に関連して行われる附随的事業であっても社会通念上そこで事業が行われていると考えられるものについては、事務所等として取り扱って差し支えないものであるが、宿泊所、従業員詰所、番小屋、監視所等で番人、小使等のほかに別に事務員を配置せず、専ら従業員の宿泊、監視等の内部的、便宜的目的のみに供されるものは、事務所等の範囲に含まれないものであること。
 (2) 事務所等と認められるためには、その場所において行われる事業がある程度の継続性をもったものであることを要するから、たまたま2、3か月程度の一時的な事業の用に供する目的で設けられる現場事務所、仮小屋等は事務所等の範囲に入らないものであること。


 課税庁側でも、実態のあることが課税要件だと捉えられています。

 意外なことは、ここに登記登録といった事情が一切含まれていないこと。
 便宜に流れがちな課税実務としては、前記のC説的な判断をするなり、そこまでいかないにしても判断要素の一つくらいにしていてもおかしくない。
 のに、そのような内容になっていない。

【租税実体法】
  実態あり ⇒課税する
  実態なし ⇒課税しない


 にもかかわらず、上記記述では、通知にすらない登記のみによって事務所あり認定してもいいんだと。
 てっきりなにか別の税目のことを論じているのかと思ったんですが、間違いなく法人住民税均等割の箇所に書いてあります。


 上記記述のさらなる鬼っぷりは、納税者が実態がなくなったことの立証に成功したとしても、登記抹消できなかったことに「やむをえない事情」があったことの立証に失敗したら課税されてしまうということ。
 「および」を太字にしたのは、その点を強調するためです。

(抗弁)地方団体:
    形式的な登記登録事実があること
     を主張立証すべき
  (再抗弁)納税者:
    実質的な事務所実態がないこと、および
    やむを得ず登記登録の移転・抹消ができなかったこと
     を主張立証すべき

 考慮要素ですらない登記で課税するにしても、実態がなければ課税なしとするのであればまだましと言えなくもない。
 ところが、実態がなくても登記抹消できなかったことにやむを得ない事情がなければ(あることが証明できなければ)課税するんだと。

 これ、完全に地方税法を拡大解釈してますよね。

【要件事実ロンダリング】
  (課税庁)登記あり ⇒課税する
   +(納税者)実態なし ⇒課税する
    +(納税者)登記抹消してないことのやむを得ない事情あり ⇒課税しない


 租税実体法レベルでは実態が要件だったはずなところ、いつのまにかそれが登記にすり替わり、実態のほうは、それが無いことが再抗弁事実(のうちの一つ)に左遷されると。


 租税実体法を正しく理解した上で、その実体法を踏まえて立証責任の分配を行う、という手順を守るならば、以下のような流れになるはずです。

・まずは実体法上の「要件」を確認。

【租税実体法】
  実態あり ⇒課税する
  実態なし ⇒課税しない


 が、実体法レベルでは、実態が存否不明の場合に課税できるかどうかが不明。

・そこで「要件事実論」を導入。

【要件事実論の展開】
  実態あることを課税庁が立証 ⇒課税する
   課税庁が立証失敗(実態なしor実態不明) ⇒課税しない


 要件事実論により決定できるのは、実体法の要件である実態をどちらが主張立証すべきか、ということであって、そこで要件事実論のお仕事は終了。
 要件事実論の領分は、あくまでも実体法の要件を主張立証用に翻訳することであって、実体法に存在しない要件を創設することではないはずです。


 「形式があれば課税」なんて立論、どれほど課税庁寄りな論者であっても、そこまで極端なこという人いないんじゃないですかね。

 ところが、要件事実的思考を導入することで、そんな極論も臆面なく言えてしまうと。
 要件事実論、魔法のクスリですか(カタカタで書く感じの)。

 まあ、論者自身も「主観的」にはそんなつもりはなかったんだと思います。
 要件事実論を絡めないで、単純に「事務所等ってどうやって判定するの?」と質問されたら、「実態で判断するよ」て答えると思うんです。

 が、要件事実論を通すことでこんな暴論が出てきてしまうと。

 あるいは、「10秒以内に立証責任を分配しないと人質に危害を加えるぞ!」とでも脅されたとか。
 「分配」と言われてしまったので、どうにか課税庁・納税者に分けなければ、ということで反射的に形式と実態に分離させてしまったんだと。
 ひでえ妄想書きやがるな、と思うかもしれませんが、これくらいの妄想事変がなければ優秀な学者先生がこのような記述を書いたことの説明ができなくないですか。


 導入否定論者が危惧するところは、こういうところにあるんじゃないですかね。
 生半可な知識で要件事実論を導入してしまうと、こんな事態に陥ってしまうと。

 「生兵法は大怪我のもと」の教科書事例。
 編者の伊藤滋夫先生くらいガチガチの要件事実論研究者ならともかく、租税法学者が軽い気持ちで手を出すものではないと。
 少なくとも、前記「3 急」段階まで進んでからはじめて、『さて、租税要件事実論の話をしよう』とやってくれと。


 そんな中で、宮崎裕子先生の『国際租税法における要件事実論−租税条約における立証責任の転換という手法の採用について−』という論文が別格。

 ざっくり内容をいうと、PPT条項により支払者(源泉徴収義務者)に条約目的適合性の立証責任を負担させるのまずくないか、という問題意識で書かれたもの。
 非居住者である受領者側の事情を支払者に証明させるとか悪魔かよ、と(もちろん、そんな表現はされていない)。

 要件事実論を「導入」するかしないかなんて入口の議論は秒で通り過ぎて、本書籍のタイトルどおり、きちんと要件事実論が「展開」されています。

 単純に、私が宮崎節に心酔している、というだけかもしれませんが。

解釈の解釈の介錯 〜最高裁令和2年3月24日判決

 この論文を読めただけでも成果はあったといえるでしょう。
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2020年09月21日

関場修 山口暁弘「小規模宅地等の評価減の実務 第4版」(中央経済社2018)

 小規模宅地等の特例もの。



関場修 山口暁弘「フローチャートで分かりやすい 小規模宅地等の評価減の実務 第4版」(中央経済社2018)

 以前も同特例の記事を書きましたが、最近また振り返り。

【小規模宅地の特例】
パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○
イタチ、巻き込み。 〜家なき子特例の平成30年改正
ヤバイ同居 〜続・家なき子特例の平成30年改正

 とりあえず条文リンク貼っておきますね(ずれたらすまん)。

租税特別措置法69条の4
租税特別措置法施行令40条の2


 小規模宅地の特例、題材が題材なので、一般向けから専門家向けまで、結構な数がでています。
 法律の条数でいうとたった1か条なのに、それだけでまるまる一冊使って。

 本書はどちらかといえば専門家寄り。

 平成30年改正まで対応ですが、平成31年改正はマイナーアップデートなので、自分で補っても読めるでしょう。
 平成30年改正未対応だったりすると、さすがに使い物になりませんが。

 ただし、「配偶者居住権」との絡みは要注意。
 共有の亜種と考えればよさそうですが、有利/不利判定はなかなかに複雑化。

 二次相続まで視野に入れると、併用するのが節税効きそうに一見みえます。
 が、それは何事もなくすんなり配偶者居住権が消滅してくれた場合。

 相続税の節税対策、やればやるほど自分と家族の未来の選択肢を狭めることになるので、ギリギリを攻める気にはなれない。


 話は戻って。

 なんか「フローチャート」を売りにしていますが、私としては条文に即した説明をしているのがよいと思いました。

 あまりにも条件分岐が細かいので、事例を沢山挙げられても、なぜその事例が適用/不適用なのか、結論を自分で導くことができなかったりします。
 載っていない事例に応用を利かせることができない。

 ちなみに、最近別ジャンルで、やたらと分厚いのに条文引用がほぼない税務本を読んでいました。
 が、やはり記憶に定着しない。
 とにかく沢山書いてあるものの、なぜそうなるのかの根拠条文が書かれていない。
 ので、何度も何度も再読しないといけない。

 以前の同特例の記事も、そのものずばりの事例は見かけない、隙間を扱ったものでした(コネ入寮とか)。
 こういう事例を検討するには、条文に遡る必要があるでしょう。
 自分が読んでいる本に書いていないだけなのか、それとも条文から直接結論を導けないものなのか、条文を見ないとわからないわけで。

 なお、私の観測するかぎりではありますが、税務本の傾向として、「公式」(国税庁発表のもろもろ)に書かれていることはしっかり書く(というか写す)が、法解釈が必要となる箇所になると途端に沈黙しだす、というものがしばしば。
 公式では分からないことがあるからわざわざ書籍を買っているのに、公式情報を編集しただけ、みたいなのを掴まされると、がっかり(ゲームソフト販売直後の「公式ガイドブック」みたいなやつ)。

 そういう意味で、この本は条文のどこをどう読めばいいかが書かれているのがよいと思いました。


 念のため、あらゆる制度においてわざわざ条文に遡って、などとやるわけではないです。
 アンチョコ本で済ませられるならそれに越したことはない。

 「税理士は法解釈が不得手」とかディスり、その逆張りでやたらと条文を重視したり通達を見下したりする傾向もまま見受けられます。
 が、「日常系税務」においていつもそんなことやっているのは、ただの遠回り。

 いいから早く回答くれよ、と言われるのがオチ。
 タックスアンサーで完結できるなら、それに越したことはない。

 公式ではどうしても解決できない問題がでてきたときに、自然と法解釈ができる状態にアイドリングしておく、というのが望ましい。
 いつでもゴリゴリ、法解釈フルスロットル・フルスイングでいる必要は、ない。

 公式ですぐに解決できるものか、それとも法解釈を展開する必要があるか、その見極めをすぐにできることが重要なんでしょう。


 本書は「平成30年改正」まで対応とはなっていますが、同改正に関わる箇所で間違っているのではないかと思われる箇所が。

 複数設例に渡っているのですが、論点的にはひとつ。
 以前の記事でも触れた、家なき子の「原則要件」と「除外要件」に関わります。

【家なき子の取得者要件】
(原則要件)
 1   被相続人に配偶者・同居法定相続人がいない
 2−1 相続前の3年間に
    ・自分と自分の配偶者
    ・三親等内の親族
    ・特別の関係がある法人
    の持ち家に住んでいない
 2−2 相続開始時に住んでいる家を過去所有したことがない
 3   相続から申告期限まで継続保有

(除外要件)
 2−1 「相続開始直前に被相続人の居住の用に供されていた家屋」は除く

ヤバイ同居 〜続・家なき子特例の平成30年改正

 論点共通なので、設例を単純化して論じます。

 《事例》
  ・被相続人:A、相続人:子B
  ・土地 A所有
  ・建物 A所有(2世帯住宅・区分所有あり)
  ・1階にA居住、2階にB居住(生計別)

 ⇒Bが土地建物を相続した場合の適用の可否は?

 2階は、区分所有ありだし生計別だしで適用なし。

 1階は、被相続人居住部分なので適用範囲には含まれます。
 そこで、取得者要件を検討すると。

 区分所有ありなので「なんちゃって同居」(一棟の建物)ルートは潰れます。
 ということで「家なき子」ルートを検討すると。

 1は、区分所有ありなので同居人無しでOKと。

 問題は2−1。

 本書では、Bは「持ち家無し」だから適用あり、と書いてあります。
 が、「三親等内の親族」にはAも入るので、この記述は間違いだと思います。
 Bは「三親等内の親族」であるA所有の2階に住んでいるわけで。

 ただ、もし仮に「除外要件」を満たすならば、理由はともかく結論は間違いではなくなります。
 けども、Aは2階部分には住んでいないので、除外要件の判定が「一棟ルール」(なんちゃって同居)なのか「独立ルール」(ガチ同居)なのかが正面から問題となります。

 この問題を主題にしたのが以前の記事。
 が、本書では原則要件を満たすと書いてしまっているので、除外要件の検討まで進まずに終わってしまっています。


 本書では、原則要件のことに触れてはいるわけで、改正内容を見逃したわけではありません。
 ではなく、あてはめがおかしい。

 表紙には編者の二名しかお名前が書かれていませんが、例によって多数執筆者が寄り合う系。

【寄り合う系】
「新 実務家のための税務相談(民法編) 」(有斐閣2017)

 とはいえ、記述が似かよっているので、たぶん同一執筆者なんでしょう。
 執筆分担が書かれていないので、犯人探しはできませんが。

 名の通った税理士法人だし版を重ねている、にもかかわらずこういう間違いがある、というのはなかなか不安にさせられる。

 今回の論点に関しては、以前の記事を書く際に自分で条文イジりをしていたおかげで気づけました。
 けども、「これから勉強させていただきます」な領域だったら、気づかないままへえそうなんだ、と思ってしまっていたかも。
 まあ、今回の場合は「親族」概念を知っていれば、そこの記述だけからでもおかしいと気づけたかもしれませんが。

 何にしても、やはり自分で条文に遡る、というのは大事なんだなあと。
 そして、あまりにヒドイと「アクティブ・ラーニング系」入りすると。

【アクティブ・ラーニング系】
後藤巻則「契約法講義 第4版」(弘文堂2017)
「新 実務家のための税務相談(民法編) 」(有斐閣2017)
三木義一「よくわかる税法入門 第14版」(有斐閣2020)


 なお、この記事を書く過程で、タックスアンサーを再確認してみました。

No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

 いつのまにか、平成30年改正にあわせて表現が修正されていたのですが、ちょっと怪しげな箇所があったので、そのうち記事にします。

タックスアンサーの中の譲歩と抵抗 〜小規模宅地等の特例を素材に
「要件書き込み」は趣旨解釈を駆逐する。〜小規模宅地等の特例を素材に
オーバーホール租税法・序論 〜小規模宅地等の特例を素材に
白井一馬「小規模宅地等の特例」(中央経済社2020)
僕たちは!出戻り保護要件です!! 〜家なき子特例の趣旨探訪1
ぼくたちは出戻り保護ができない。 〜家なき子特例の趣旨探訪2
あの日見た特例の趣旨を僕達はまだ知らない。 〜家なき子特例の趣旨探訪3(完)
posted by ウロ at 09:14| Comment(0) | 相続税法

2020年09月14日

アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民まとめ)

 前回までの、ツッコミ入れながらの雑感をまとめます。

「新 実務家のための税務相談(民法編) 第2版」(有斐閣2020)
アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民1)
アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民2)
アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民3)
アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民4)
アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民5)
アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民6)


 ツッコミ入れながら思ったことは、多数執筆者が参加しているにもかかわらず、ツッコミ要素が似たものばかりという点です。

 このことから邪推できることは、個々の執筆者の問題というよりも、編集方針の問題なのではないか、ということ。

 本書の特徴は、最初に書いたとおり、次のようなものでした。

 ・むやみに多数の項目が取り上げられていて、
 ・やたらと多数の執筆者が参加していて、
 ・一項目がどれもこれも3,4頁程度と短く、
 ・当該項目にかかわる法規定と通達・裁決・判決をパラパラと並べた、
感じの記述が延々と続く。

 多数の項目を扱っているなら内容豊富でいいじゃん、と思うかもしれません。
 が、その項目というのが、民法の編成に従って機械的に細分化されてしまっています。

(以下、この状態を「パンデクテン」と形容します。こう呼ぶとパンデクテンに対する風評被害ともなりかねないところですが、他に呼びようがないので)。

 このパンデクテン、民法内部の制度を整理するためのお道具箱としては優れているのかもしれません。
 が、それ以外の用途には有害無益でしかない。

 内輪のノリを外でやるなよと。


 たとえば、税法の側からみて「無効・取消」と「契約の解除」を分断して論じることに、何の意味があるというのか。
 税法の立場からすれば、いずれも「当初の状態が事後的に変動した場合」として共通しています。

 もちろん、変動事由によって税法上の対応も異なってきます。にしても、それを比較対照しながら論ずることに意義があります。
 のに、別々の執筆者がそれぞれ思うままに記述してしまっているせいで、「比較」という視点が全く抜け落ちてしまっている。


 設例(Question)に正面から答えない、というのも、多数項目に共通する要素でした。

 これも、回答者側が答えをパンデクテンで区切られてしまっていることが要因のひとつではないかと。

 本当は、回答者自身も質問者の望んでいる答えを言いたいのに、当該項目以外の回答をしようとすると声が出なくなる呪いにかけられている、みたいな。

 なんなの、その縛りプレイ。


 また、消費税や印紙税などの論点が埋草的に使われているのは、重要度にかかわらず分量が均一なせいではないかと思われます。

 隙間があれば書くけどなければ書かないと。論ずるべきだから書く、ではなく。


 以上、「民法×税法」モノを作る場合において、本書の編集方針は失敗というのが私の見立て。
 パンデクテン縛りで書かせるだけ書かせておいて、統一性を持たせないという。
 ので、個々の執筆者に対しては、あまり責める気にはなれない。

 私のように、「アクティブ・ラーニング」として用いるのはひとつの利用方法。
 しっかり読み込んだ上でのものではなく、かなりの流し読みでもこれだけのツッコミどころがあったわけです。
 ので、掘ればまだまだ発掘できるかもしれませんし。

【アクティブ・ラーニングもの】
後藤巻則「契約法講義 第4版」(弘文堂2017)
三木義一「よくわかる税法入門 第14版」(有斐閣2020)


 ということで、「民法×税法」モノとしてのありうる方向性はふたつ。

1 ひとつは、前著のように論点を絞って深く論ずること。
2 もうひとつは、当該項目に関連する税制を完全網羅したインデックスに徹すること。

 「新」で前著を換骨奪胎したわけだから、「新々」でもリビルド可能でしょ。


 なお、「会社法編」については、パラッと見た感じ中小企業向けの記述と大企業向けの記述が混在していて、かつ、どちらかというと大企業向けの記述のほうが多そうだったので、読むのやめておきます。

 なんか第2版が出るようですけども。

 

「新 実務家のための税務相談(会社法編) 第2版」(有斐閣2020)

 全くの余談ですけども、会社法「実務」について書かれた本にもかかわらず、大企業向け/中小企業向けの記述が区別されていないものは読まないほうがいい、というのが私の持論。

 「実務」という側面からみた場合、どう考えても別世界でしょう。
 ので、読み手の側で区別をしながら読み進めないといけないわけです。
 だったら、はじめから区別してくれている本を読んだほうが、余計な仕分け作業をしないで済む。

 単一法で収められているからといって、実務本までその編別に倣う必要はまったくない。
 「民法×税法」をパンデクテンで解説するのとおなじくらいの愚挙、と私は思う。

 この点、大垣先生の会社法の教科書では、会社の発展に即した記述がなされていて、非常に理解しやすい。
 こういう配慮がされた本を積極的に読んでいくべきでしょう。
 
大垣尚司「金融から学ぶ会社法入門」(勁草書房2017)
posted by ウロ at 09:36| Comment(0) | アクティブ・ラーニング