2025年02月10日

《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その7) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編59)

 古物商等特例を正当化するにあたり、(その6)では「付加価値」型で説明をしました。

《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その6) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編58)

 これを「消費」型で説明できないか、以下試みてみます。

【事例】
 A ⇒ C1 ⇒ B ⇒ C2
  110   33   88

 ・消費者C1が、事業者Aから110で買う。
 ・古物商Bが、消費者C1から33で買う。
 ・消費者C2が、古物商Bから88で買う。
  (モノは、各自お好きなものを想定してください。)

 古物商等特例がない世界では、次の帰結となります。

【納税額】
  A 10納税(10-0)
  B 8納税(8-0)

 C1の消費110とC2の消費88をあわせた金額に対応する税負担が発生しているのであり、何ら問題はないように思えます。
 が、C1は、モノを使い切る前にBに売却しているのであって。C1の消費に10の税負担を課したままとすることは、過剰に思えます。


 この点、消費税法において、「消費者の消費に課税する」はずのところを、「事業者の譲渡に課税する」こととしている理由。

  ア 個々の消費者に納税させていられない。
  イ 実際に消費したかどうかを追跡しきれない。

というところにあります。

 本来は「消費者の消費」に直接課税すべきところ、およそ現実的ではありません。そこで、その前段階の「事業者の譲渡」に課税しているわけです。
 税制では、『みなし課税』みたいな制度が採用されることがありますが、消費税法は、制度全体が「(消費手前の)譲渡を消費とみなす」ことによって成り立っている、と表現してもよいかもしれません。


 これはこれで合理的な制度設計です。

 が、【事例】では、C1が古物商Bに売ったことにより、消費しきっていないことが明らかとなっています。にも関わらず、「譲渡=消費」として譲渡額全額に消費税を課することは、《過剰課税》となってしまいます。
 そこで、古物商等特例を導入することにより、C1が実際に消費した分のみ課税するように調整を入れることが可能となります。

 「実際に消費した分」とはいっても、客観的に測定できるものは何もないわけで。Bへの譲渡額をもって消費額を算出せざるをえないでしょう。
 古物商等特例を適用した結果、納税額は次のとおりとなります。

【納税額】
  A 10納税(10-0)
  B 5納税(8-3)

 合計15の税負担となりますが、C1が消費した分7とC2がこれから消費する分8というのが、理念上の内訳です。


 なぜ、わざわざ「理念上の」というのかといえば。消費税が理想通りに綺麗に転嫁されるとは限らないからです。
  
予定は予定 〜消費税法の理論構造(種蒔き編20)

 ここでの転嫁は、「税負担」の転嫁ではなく、「税還付」の転嫁となります。
 すなわち、本来、古物商Bは、C1に対し、C1が消費しなかった分に対応する3を、お国のかわりに還付してあげなければなりません。
 が、皆様、消費者の立場で買取業者になにか買い取ってもらった場面を想起してください。買取価格に消費税をきっちり上乗せして支払ってもらった人なんて、いないのではないでしょうか(「事業者として」すら、ないかもしれません)。

 要するに、買取業者Bは、消費者C1に還付すべき消費税をネコババしていることになるはずです(《消費税お預かり/お預け思想》による表現)。

【実際の内訳】
 C1 10負担
 C2  8負担
 B △3ネコババ!

消費税、売上から見るか?仕入から見るか?(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編53)
消費税、売上から見るか?仕入から見るか?(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編54)

 実情はそうだとしても、理屈の上では、古物商等特例は「消費者の消費に課税する」を実現するための、素晴らしい制度だということになります。


 現実はともかく、理屈の上では「消費型」によって、古物商等特例の正当性を説明することができて、めでたしめでたし。というわけにはいきません。

 これ以上なんのイチャモンをつけるのか、と思われるかもしれません。
 もちろん、「消費者の消費に課税する」こと自体は、極めて望ましい処理です。問題はこれ以外、免税事業者の規律をはじめとして、「消費者の消費」以外の場面で税負担が発生していることが、放置されている点です。

【消費じゃないのに税負担発生源】
 ・免税事業者
 ・非適格である課税事業者
 ・非課税売上対応課税仕入
 ・居住用賃貸建物
 など。

 これらが取引に介在することで、消費者の消費以外の場面で税負担が発生することになっています(この税負担を、実際に誰が負担しているかはさておき)。

 にも関わらず、古物商等だけが「消費者の消費」のみに課税されるような特例が設けられていて。しかも現実には、どうやら古物商等は、「税還付」を消費者に転嫁してないっぽいわけですよね。

 古物商等だけが、消費税法の理念どおりにしか課税されないことを根拠付ける理由、何もないはずです。
 とすると、古物商等特例は、結局のところ《特定業種優遇税制》であることに変わりはない、と評価せざるをえません。
posted by ウロ at 10:47| Comment(0) | 消費税法

2025年02月03日

《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その6) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編58)

 前回の記事では、売手が「消費者」である場合を念頭において、古物商等特例の制度趣旨は「二重課税の排除」にあるのでは、という畢竟独自の見解を展開しました。

《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その5) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編57)

 が、古物商等特例が適用されるのは、売手:消費者の場合だけに限られず。「適格請求書発行事業者」以外の全ての者に適用があります。

 そこで、売手:消費者以外の場合にも特例を正当化できるのか、検討をしてみます。


 前回同様、以下の事例を想定しながら記述をします。

 A ⇒ B ⇒ C
  33   110

 ・古物商Bが消費者Aから33で買う。
 ・古物商Bが消費者Cへ110で売る。

古物・売手.png

1 A:適格・課税事業者・事業として
 ⇒適格者なので、特例の適用はありません。

 原則通り、インボイスを発行することで控除できることになります。

5 A:非適格・課税事業者・家事として
  A:非適格・免税事業者・家事として
  A:非適格・消費者・家事として
 ⇒非適格者なので、特例の適用があります。

 これらの場合は、Aのもとですでに消費課税ずみということで、「二重課税の排除」の趣旨がそのままあてはまるパターンです。なので、特例適用ありで問題ありません。

4 A:適格・課税事業者・家事として
 ⇒適格者なので、特例の適用はありません。

 「家事として」なので、インボイス発行できませんし、買手Bが仕入明細書を発行することもできません。

 この場合も一度Aのもとで消費課税ずみなので、二重課税を排除すべき場面のはずです。が、文言上は特例の適用なしと解さざるをえません。
 輸入控除で「事業として」がすっぽ抜けているのと同様で、条文作成者の勘違いなのでしょうか。

消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編46)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編47)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編48)

 なお、『週刊税務通信』及びそれに倣った(とあえて言う)運営の『FAQ』によれば、運営側は特例適用「あり」でいくようです。

「反制定法的解釈について」 〜問d(フリマアプリ等により商品を仕入れた場合の仕入税額控除)

 その帰結にもっていきたい場合、「適格請求書発行事業者」の中に「事業として」を組み込むという読み方をしなければなりません。が、そのような読み方で、他の箇所ででてくる「適格請求書発行事業者」との整合性は保てるのか、きちんと検証ずみなのでしょうか。

3 A:非適格・免税事業者・事業として
 ⇒非適格者なので、特例の適用があります。

 Aは課税事業者として課税されないし、消費課税もされていないので、この場合に特例を適用するのは不当なように思えます。
 が、免税事業者は、「事業として」であっても、「課税もされないが控除もできない」消費者と同じポジションに置かれています。この点からすれば、消費者と同じ扱いをしたとしても、必ずしも不当ということにはならないでしょう。

 主体を「事業者/消費者」で二分すると、免税事業者は事業者側にカテゴライズされると思ってしまうかもしれません。が、法的効果の側からみると、免税事業者は消費者と同じ帰結となっています。

              控除 課税 買手控除
  適格・課税事業者・事業 ◯  ◯  ◯
 非適格・課税事業者・事業 ◯  ◯  ×
 非適格・免税事業者・事業 ×  ×  ×
 非適格・消費者  ・家事 ×  ×  ×

 一般通念からすれば、全くの別物と思われる消費者と(免税)事業者ですが。消費税法を通してみれば同じ法的地位にあるということです。
 それゆえ、免税事業者のもとでは、消費していないのに消費課税が生じていることになり。これとの二重課税を排除するためには、特例を適用すべきだということになります。

2 A:非適格・課税事業者・事業として
 ⇒非適格者なので、特例の適用があります。

 Aのもとではまだ消費課税されていないので、「二重課税の排除」という趣旨があてはまりません。
 が、Aは「課税事業者」として、Bからお預かりした消費税を納税することになります。ゆえに、結果として《課税=控除》が実現できることになります。

 狙ってそうしたのかがよく分かりませんが、結果としては妥当だということです。
 そもそも、売手が「課税事業者」なのに、インボイスがないというだけで控除ができない《原則ルール》のほうが不合理、ということがよく分かります。

 が、問題は、特例を適用するのに、なぜBにとっての「棚卸資産」であることが要求されるのか、ということです。
 Aが消費者の場合には、ごもっともな限定だったわけですが。Aが課税事業者の場合には、Bにとって「棚卸資産」かどうかにかかわらず、Aが納税しなければならないことに変わらないわけで。

 この点は、「適格者/非適格者」で区別したせいで、たまたま適用範囲に入りこんじゃっただけにすぎず。「非適格の課税事業者」なんて徒花(あだばな)を正面から保護するつもりはなかった、ということでしょうか。
 本当は5(と3)だけを保護しようとしたけど、2を外すための書き分けが面倒だったから、そのままにしておいたと。


 これらをまとめると、

1 適用なし:原則どおり
5 適用あり:消費課税ずみなので
4 適用なし:条文作成ミスか? 
3 適用あり:消費者に準ずるので
2 適用あり:ついで?(棚卸資産だけ)

となります。

 「二重課税の排除」という趣旨がそのままあてはまるのは5(と3)だけですが、4はどうやら条文ミスっぽい、2は行きがかり上適用範囲に入っちゃっただけ。ということで、「二重課税の排除」を制度趣旨として掲げておいても支障はなさそうです。
 『業界デマゴーグ誌&運営FAQ』によれば、4も適用範囲に含めることとするようですし。

 ではありますが、やはり「適格者/それ以外」で切り分けをするの、うまく噛み合っていないとは思います。


 以上、まだまだ生煮えのところもありますが。あとは各業界の関係者各位において、より洗練された形に仕上げていっていただければと思います。

《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その7) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編59)
posted by ウロ at 11:15| Comment(0) | 消費税法

2025年01月27日

《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その5) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編57)

 《古物商等特例》なんて、ただの益税ネコババ野郎(byインボイス推進派)としか思えないのに。インボイス推進派の方々がガン無視決め込んでいる態度に対して、散々批判をしてきました。

《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編33)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編34)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編35)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その4) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編56)

 批判といっても、古物商等が益税を貪り尽くしていることに対してではなく。インボイス推進派の方々が、「滅せよ免税事業者!」と唱えているのと同じ熱量を、なぜ古物商等にも向けないのか、という点に対しての批判でした。

 ではあるのですが、消費税法のメインシステムについて検討する中で、益税ネコババという謂れのない濡れ衣を払拭できそうな筋道が思いついたので、整理をしてみます。

 以下では、「古物商」が「消費者」から買い取りをした場合を念頭に置きながら記述します。


 とりあえず条文をあげておきます。が、今回は《制度趣旨》の探求がメインなので、条文イジりはやりません。

令 第四十九条(課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の記載事項等)
 法第三十条第七項に規定する政令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
一 課税仕入れが次に掲げる課税仕入れに該当する場合(法第三十条第七項に規定する帳簿に次に掲げる課税仕入れのいずれかに該当する旨及び当該課税仕入れの相手方の住所又は所在地(国税庁長官が指定する者に係るものを除く。)を記載している場合に限る。)
イ 他の者から受けた第七十条の九第二項第一号に掲げる課税資産の譲渡等に係る課税仕入れ
ロ 入場券その他の課税仕入れに係る書類のうち法第五十七条の四第二項各号(第二号を除く。)に掲げる事項が記載されているものが、当該課税仕入れに係る課税資産の譲渡等を受けた際に当該課税資産の譲渡等を行う適格請求書発行事業者により回収された課税仕入れ(イに掲げる課税仕入れを除く。)
ハ 課税仕入れに係る資産が次に掲げる資産のいずれかに該当する場合における当該課税仕入れ(当該資産が棚卸資産(消耗品を除く。)に該当する場合に限る。)
(1) 古物営業法(昭和二十四年法律第百八号)第二条第二項(定義)に規定する古物営業を営む同条第三項に規定する古物商である事業者が、他の者(適格請求書発行事業者を除く。ハにおいて同じ。)から買い受けた同条第一項に規定する古物(これに準ずるものとして財務省令で定めるものを含む。)
(2) 質屋営業法(昭和二十五年法律第百五十八号)第一条第一項(定義)に規定する質屋営業を営む同条第二項に規定する質屋である事業者が、同法第十八条第一項(流質物の取得及び処分)の規定により他の者から所有権を取得した質物
(3) 宅地建物取引業法(昭和二十七年法律第百七十六号)第二条第二号(用語の定義)に規定する宅地建物取引業を営む同条第三号に規定する宅地建物取引業者である事業者が、他の者から買い受けた同条第二号に規定する建物
(4) 再生資源卸売業その他不特定かつ多数の者から再生資源等(資源の有効な利用の促進に関する法律(平成三年法律第四十八号)第二条第四項(定義)に規定する再生資源及び同条第五項に規定する再生部品をいう。)に係る課税仕入れを行う事業を営む事業者が、他の者から買い受けた当該再生資源等


【メインシステム(国内取引)】
  売手  買手  課税 控除
1 事業者‐事業者 ◯  ◯
2 消費者‐消費者 ×  ×
3 消費者‐事業者 ×  ×
4 事業者‐消費者 ◯  ×

 消費税法は、1〜3を「課税=控除」としつつ、4のみ「課税>控除」とすることで、消費支出分の税負担が生じるように仕組んでいます。事業の世界から消費の世界に飛び出したタイミングで、税負担が生じることが確定することになっています。

 今回問題となっているのが3で、

  原則:消費者×‐事業者×
  特例:消費者×‐事業者◯ (益税!)

と、消費者が課税されないのに、事業者が控除できることの根拠は何か、ということです。


 これを正当化する根拠として思いついたのが、「二重課税を排除するため」ではないかと。

 すなわち、すでに一度消費者のもとで消費されたモノにつき、再度そのまま課税すると《過剰課税》となってしまう、そこで一旦消費されたという事実を反映すべきだと。

 具体的にいうと、

 A ⇒ B ⇒ C
  33   110

 ・古物商Bが消費者Aから33で買う。
 ・古物商Bが消費者Cへ110で売る。

 この場合に、原則どおり110に課税するだけだとすると(税額10)、Aのもとですでに消費課税ずみという事実が抜け落ちてしまい、課税しすぎになるのではないか、ということです。

 では、一度消費課税ずみだとして、いくら控除すれば二重課税を排除できるでしょうか。

 この点、Bが33で買い取りしている以上、Aのもとで全て消費しつくされたわけではないでしょう。ので、Aが買ったときに発生した課税額を、そのまま控除するのはやりすぎです。かといって、減価償却的な計算をやらせるのは、現実的ではないでしょう。

 そこで、Bが、《消費の世界から事業の世界へ戻し、再度消費の世界へ移したこと》を評価して課税することが考えられます。そのままでは33の価値しかないものを、Bが付加価値を付与して110で売ったということで、差額の77が、Bが新たに生み出した価値だと評価すると。

 「付加価値」という観点から説明していますが、これは結果として、仕入税額控除を肯定することと同じ結果となります。


 この説明、何ら隙のない完璧な理論というほどのものではなく。いくつか疑問が残ります。


 そもそも現行の消費税法は、「付加価値」型では設計されていません。

 「Bが付与した付加価値に課税」というのは、古物商等特例を正当化するのに説明しやすいからそのように表現している、というに留まり。「問答無用の譲渡課税」と「インボイスあるときだけ税額控除」という、売上課税ルールと仕入控除ルールが分断された現行法に寄せた表現になるよう、もう少し工夫が必要な気がします。

 とはいえ、たとえば現行の消費税法を理解しやすくするために、「利益+人件費等=付加価値に課税している」と表現しても、近からず遠からずといった具合で。何が何でも排斥しなければならないほど、おかしな説明でもないのであって。
 暫定的な説明としては、それなりにいい線いっているのではないかと思っています。

 なお、免税事業者を益税ネコババ野郎呼ばわりするときに好んで用いられる「消費税をお預かりしている(売上)・お預けしている(仕入))」という物言いからは、およそ古物商等特例を正当化することは不可能でしょう。
 Aにお預けしていないことが明らかである以上、控除できる根拠は何一つありませんので。


 なぜ「棚卸資産」に限られているのか。

 この点は、Bが自社で使ってしまうと、Aからの買い取りとCへの販売の差額をもって「付加価値」を測定する、という前提が崩れてしまうからではないかと。
 もちろん、自社で使うことで、別のかたちで付加価値を生み出すことにはなるでしょう。が、そこで生み出された付加価値は、「110-33=77」のような明確な紐づけが想定できるものではありません。

 ゆえに、「買う⇒売る」という紐づけが要求されている、と説明することが可能です。


 公共交通機関特例などと異なり、「金額上限無し」となっているのはなぜか。

 そこいらのインボイス解説書では、「インボイスいらない特例」として横並びで記述されているだけで。各特例ごとの制度趣旨を説明してくれることなんて、まあない。
 ので、各特例ごとに要件が異なる根拠については、自力で考えなければなりません。

 「交通機関特例」については、いちいちインボイスもらってらんねえという「必要性」と、どうせ登録してるに決まっているだろという「許容性」に基づいているものと思われます。が、高額なものまで全て不要とするのはインボイス制度を骨抜きにしてしまう。ので、金額上限を定めたと考えられます。

 他方で、「古物商等特例」は、付加価値のないところに課税すべきでない、という実体レベルでの根拠に基づいていると思われます。単なる事務処理の煩雑さからの要請ではなく。
 ゆえに、《過剰課税》を生み出さないためには金額上限を設けてはいけない、ということになるでしょう。


 なぜ、業法上の「許可」を受けた者だけが、特例の適用を受けられるのでしょうか。

 上記のとおり、業法上の許可を受けていようがいまいが、Bの付与した「付加価値」に違いはないはずです。また、税法学ではおなじみの「違法所得」まわりで議論されていることからしても、たとえ業法上違法な取引であっても、付加価値という「実体」に即して課税(控除肯定)すべきはずです。

 が、このあたり「違法なプラスは『事実』をもって肯定するが、違法なマイナスは『法秩序』をもって否定する」という、アンバランスな解釈態度が支配的な税法学からすれば、なんの問題もないのでしょう。

 また、件の教科書における「仕入税額控除は計算要素ではなく請求権だ!」とかいう物言いからすれば、無許可でも控除肯定すべきとなりそうなんですが。
 残念ながら、「請求権だ!」という性質決定は、どうやら課税を拡大する方向にしか働かせる気がないっぽいんですよね。「法的権利である以上、それを主張するに相応しい資格を有していなければならない!」とか言いそう。

佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)


 以上、売手が「消費者」である場合を念頭において、古物商等特例の正当化根拠をどうにか捻り出してみました。

 が、古物商等特例は、売手:消費者の場合だけに適用されるものではありません。では、売手:消費者以外の場合にも正当化できるものなのかどうか、次回検討してみたいと思います。

※注意書き
「反制定法的解釈について」 〜問d(フリマアプリ等により商品を仕入れた場合の仕入税額控除)

《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その6) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編58)
posted by ウロ at 11:22| Comment(0) | 消費税法

2025年01月20日

《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その4) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編56)

 インボイスなんて、もはや関心の彼方かとは思いますが。
 そもそも消費税法の条文イジりなんて、世間一般の需要からは全く無価値の所作であって。お構いなしに、引き続き無価値な文章を作成していきます。


 《古物商等特例》に関して、いくつか記事を書いてきました。

《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編33)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編34)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編35)
交付特例と保存特例の一体的理解(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編50)
交付特例と保存特例の一体的理解(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編51)


 そこでは、主として「古物商」を念頭において記述をしてきました。
 が、「再生資源」については、国税庁告示の書きぶりが微妙に異なります。のに、面倒くさがって記述を省略してきました。

 ので、今回、その違いを確認しておきます。


R6国税庁告示第10号 2項2号 (住所いらない特例)
ア 古物営業、質屋営業、宅地建物取引業
 これらの業務に関する帳簿等へ相手方の氏名及び住所を記載することとされているもの以外のものに限り
イ 再生資源卸売業
 事業者以外の者から受けるものに限る


消費税法施行令第49条第1項第1号に規定する国税庁長官が指定する者を定める件の一部を改正する件(いい加減、溶け込ませたらどうなのか。)

 古物等は「業務帳簿」に記載が必要かという、それぞれの業法の規律に従っています。他方で、再生資源は「事業者」かどうかという売手の属性によっています。

 このことを「保存特例」とあわせて整理すると以下の通りとなります。
 なお「氏名特例」は、古物等においては「住所特例」と抱き合わせになっているので、区別せずに「住所・氏名特例」として扱います。

 まずは古物等から。

古物.png

× インボイスの保存が必要で、帳簿に氏名の記載が必要(原則)
◯ インボイスの保存は不要で、帳簿に住所・氏名の記載も不要
△ インボイスの保存は不要だが、帳簿に住所・氏名の記載は必要

 「個人」と「個人事業主」とで分けたのは、保存特例では、売手が「適格者」であるかぎり「消費者として」売却した場合でも適用不可とされているからです。個人の「適格者」からの課税仕入は、家事用資産だろうが事業用資産だろうが、特例は適用できません。
 ので、「消費者として」と「事業者として」を区別する必要はないのですが、いずれであっても適用不可ということをあえて表すため、分けておきました。

 他方で、個人事業主以外の個人は「消費者」としての属性しか有していないことになるため、適格者にはなりえず「‐」としました。

 「保存特例」が適用できないとしても、事業用資産ならインボイスを交付してもらえば税額控除を受けられます(買手の支払明細書でも可)。これが家事用資産だとインボイスの交付が受けられず、税額控除はできません。

 全体として、なんとも不思議な規律になっています。
 が、家事用資産なのに税額控除できるほうがイカれてるのであって。益税の範囲をどうにかして狭めようとした結果、消費者としての個人事業主だけは特例の適用を除外しておいた、ということなのかもしれません。


 住所・氏名については、完全に各業法に丸投げ。
 業務帳簿に書く義務あるならいるけど、義務ないならいらないよと。消費税法側で追加で必要なのは、会計帳簿に「特例受けるよ」と追記するだけ。

 で、告示レベルでは「業務帳簿に書くなら会計帳簿にも書いてね」とあるのに。運用上はさらに後退して、「業務帳簿の記載をもって会計帳簿の記載に代えてもいいよ」と、めちゃくちゃ弱腰。


 では、再生資源はどうかというと。

再生資源.png

× インボイスの保存が必要で、帳簿に氏名の記載が必要(原則)
◯ インボイスの保存は不要で、帳簿に住所・氏名の記載も不要
△ インボイスの保存は不要だが、帳簿に住所・氏名の記載は必要

 こちらも、保存特例については「適格者/非適格者」で区別する点は同じです。
 違いは、住所・氏名特例のほうです。

 表で「?」としたところ。告示にいう「事業者以外の者」はどのように読めばいいかが問題となります。

 個人事業主が「消費者として」家事用資産を売却した場合であれば、住所・氏名を省略できるのか。それとも、令49条1項1号ハでいう「他の者(適格請求書発行事業者を除く。)」と同様の読み方で、個人事業をやっている以上、家事用資産を売却しても「事業者」に該当してしまい、特例の適用不可となるのかどうか。

 この点、消費税法2条1項列挙の定義規定を組み合わせて解釈するかぎり、後者の結論になるものと思われます。
 すなわち、「事業として」という限定は「事業者」というヒトの定義の中にはビルトインされておらず。「課税資産の譲渡等」というコトの定義のほうに含まれています。ので、事業をやっている個人は、いかなる場面でも消費税法上は「事業者」でしかありえない、ということになります。

 個人事業主が
  家事用資産を売却 ⇒事業者が、プライベートで資産を売却した。
  事業用資産を売却 ⇒事業者が、事業として資産を売却した。

消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編46)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編47)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編48)


 このあたりの読み方、消費税法は売手側のルールと買手側のルールをそれぞれ分断して規定している、ということが頭に入っていないと理解しにくいところです。
 買手側からみて「課税仕入れ」に該当する場合であっても、売手である事業者が家事用資産を売却したのであれば「課税資産の譲渡等」には該当しないというように、「課税資産の譲渡等」と「課税仕入れ」は裏表の関係にありません。
 「課税資産の譲渡」該当性は売手からみて判断、「課税仕入れ」該当性は買手からみて判断、とそれぞれ別々に判定する必要があります。

 もちろん、このズレを利用して消費者のところで税負担が生じるように仕向けているわけで。ズレていることそれ自体に、消費税法の妙味があります。

 『両輪駆動』とかなんとか宣って、売上課税ルールと仕入控除ルールとを整理しないまま頭に突っ込んでいると、消費税法の正確な理解から遠ざかるという一例。
 一旦、それぞれのルールを正確に理解した上で、それらをあわせたときに、消費者にきちんと負担させているか、消費者以外のところで負担が生じていないかなどを検証する、というのが消費税法の正しい学習方法だと、私は思っています。

 のに、件の教科書をはじめとして、スローガンでは『両輪駆動』云々を謳っておきながら、実際の制度説明は分断させたままの記述で終わっている、という残念な仕上がりのものばかり。

【参考:連動と非連動】
法適用通則法5条と35条における連動と非連動 〜法律学習フローチャート各論


 ちなみに、本ブログにおいては、《通達の文言解釈》なんて間抜けな所作を開陳した高裁判決を、散々馬鹿にしてきました。

解釈の解釈を解釈する(free rider) 〜東京高裁平成30年7月19日判決
解釈の解釈の介錯 〜最高裁令和2年3月24日判決

 「お前も告示を文言解釈してんじゃん!人を呪わば穴二つ!」と思われる方がいるかもしれません。
 が、本告示は省令様から正式に委任を受けたものです。ので、法令の一部を形成しているのであって。法令解釈のお作法どおりの解釈が可能なものとなっています。

 そのへんの野良告示とは血統が違う。


 話は戻って。

 非事業者と事業者とで、いずれも「プライベート」で売却したものなのに、事業者だけは住所・氏名が要求されるという根拠はどこにあるのでしょうか。
 形式論としては、「事業として」という限定がビルトインされていない「事業者」という用語を裸のまま使ってしまったから、ではありますが。では、実質的な根拠はどこにあるのか、よくわかりません。

 まあ、保存特例は「非適格者」であるかぎり適用されるのだから、せめて住所・氏名くらいは記載しておきなさいよ、とは思いますが。


 以上、◯△×とか表を使って、保存特例と住所・氏名特例を整理してみたわけですが。

 これだけ見れば「ふーんそうなんだ」ぐらいの感想かもしれません。が、「適格者×、非適格者◯△」となっている時点で、《益税撲滅システム》としてのインボイス制度が破綻しているのであって。特例としてはファンキーが過ぎる。

 氏名・住所が省略できるとかできないとか、もはや真面目に分析するだけ空虚すぎる。
 愚直に条文解釈したところで、「Q&A」によって灰燼に帰してしまうだけですし。

「反制定法的解釈について」 〜問d(フリマアプリ等により商品を仕入れた場合の仕入税額控除)

《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その5) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編57)
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2025年01月13日

みんな大好き!倒産防(その11) 〜益金ルール不存在

 倒産防について、損金ルールはあるのに益金ルールが明記されていない、ということを、以前指摘しました。

 みんな大好き!倒産防(その4) 〜令和6年度税制改正大綱

 掛金:損金算入 ⇒解約手当金:益金算入
 掛金:損金不算入 ⇒解約手当金:益金不算入


という素朴な《オセロ思考》が、法人税法22条の解釈論から導くことができるのだろうかと。

※《オセロ思考》とは
 「表が白なら裏は黒に決まっている」という、省エネ・節約系の思考方法のことをいう


 そこで今回は、パターン分けをして、問題の所在を整理するところまで手をつけてみます。

 なお、実務家としては、上記の《オセロ思考》で処理しておけばさしあたり問題はないのでしょう。以下はただの《お戯れ》です。


 掛金の処理として考えられるパターンは、以下の通りになるかと思います。

倒産防 益金.png


 表の説明をくわえると。

・掛金、実体要件
 条文上は、掛金を納付したら「損金とする」となっており、「損金算入できる」ではありません。
 ので、条文の書きぶりに忠実にしたがって《文言解釈》するならば、掛金を納付した以上、問答無用で損金算入するのであり。納税者が自由に選択できるものではないはずです。

 なお、納付しなければ損金算入するものがないので、こちらははじめからパターンには組み込んでいません。

・会計
 「費用」が損金経理をした場合、「資産」が損金経理をしなかった場合です。

・申告調整
 「費用」としておきながらあえて加算する、とか、資産としたうえで申告調整しない、というパターンも組み込んでおきました。
 なぜ、わざわざ課税所得を増やすようなことをするのか、といえば、繰越欠損金の問題とか税額控除の上限の問題とか、まあ、そういう事情があるわけです(当然、行為計算否認規定の発動はありうる)。

・明細添付、手続要件
 明細書を添付しなければ、損金算入できません。
 かつて、とある特例の手続要件が省令だけに規定されていたことが違法とされた判決がありましたが、ここでは、きちんと法律レベルで実体要件と並べて記述されています。

・課税所得
 マイナスというのが損金算入した場合、0がしなかった場合です。


 さて、このような掛金処理パターンがあるなかで、《オセロ思考》によれば、解約手当金の処理は次の帰結となります。

 ・1、5の場合   ⇒益金算入する  
 ・それ以外の場合 ⇒益金算入しない

 1,5の場合に益金算入するのは、さしあたりよいということにして。それ以外の場合の全てが益金算入しないということでよいのかどうか。

 どういう問題意識があるのかというと。

 上述のとおり、掛金を納付した以上は損金算入するものであり、納税者が任意に損金算入を選択できるものではないはずです。にもかかわらず、

・あえて明細添付せずに損金算入しない(2,4,6,8)
・費用処理しておきながら、わざわざ加算する(3,4)
・資産処理をした上で、きちんと減算していない(7,8)

といったやり口で損金算入しなかった場合、解約手当金を益金算入しなくてもよいのか、という疑問があるわけです。

 そもそもの話、解約手当金の性質は、掛金につきどの処理を行おうが変わるわけでもないのであって。益金性が左右される根拠は、どこにもないわけです。


 最初に述べたとおり、これは単なる《お戯れ》であって。実務家の方が深入りするようなものではないです(が、研究者はきちんと理論づけをしておいてください)。

 なお、パターンが複雑になるので省略しましたが、ここに「2年ルール」が絡んでくると、さらに面倒なことになります(あえて2年以内に納付したので保護しなくてよい、と評価するのか、損金算入できないのは本人のせいじゃない、と評価するのか)。

 やはり、実務家的には《オセロ思考》で済ませてしまうのが、楽になれてよいのでしょう。
posted by ウロ at 10:40| Comment(0) | 法人税法