2024年05月10日

最高裁令和6年5月7日・第三小法廷判決 速感

 「速感」なんて用語ないと思いますが。速い(ので粗雑な)感想という意味です。
 事件名は「法人税青色申告承認取消処分取消請求事件」ですが、いずれ誰かがキャッチーな事件名をつけてくれたら、反映します。

最高裁令和6年5月7日第三小法廷判決

判事事項:
 法人税法127条1項の規定による青色申告の承認の取消処分については、その相手方に事前に防御の機会が与えられなかったからといって、憲法31条の法意に反しない


 例によって、論点の中身には踏み込まず、「ガワ」だけをイジります。
 「憲法」については、戸松秀典先生の教科書を読んだきり時間停止してしまっています。ので、私が何かを語れるようなものはありません。

戸松秀典「憲法」(弘文堂 2015)

 本判決は、多数意見、渡辺補足意見(漢字は失礼)、宇賀反対意見で構成されているので、それぞれ順番にイジっていきます。


 まず、多数意見。

法人税法127条1項の規定による青色申告の承認の取消処分については、その処分により制限を受ける権利利益の内容、性質等に照らし、その相手方に事前に防御の機会が与えられなかったからといって、憲法31条の法意に反するものとはいえない。

 「に照らし」とあるものの、「その処分により制限を受ける権利利益の内容、性質等」の中身が一切書かれていません。し、具体的にどのような事実を考慮したのかも分かりません。
 一定の事実をもとに、「権利利益の内容、性質等」を総合較量して合憲という結論を導き出しているはずなんですが。その思考プロセスが一切開示されていないということです。

 「権利利益の内容、性質等」に照らして、とはいうものの。納税者の「青色承認された地位」というものが、実体的権利/手続的権利としてそれぞれどのような内実を有するものなのか。多数意見からは全く読み取れない。

 卑近な喩えをあげておくと、
【ビーフ・ストロガノフのレシピ】
 1 まずは、牛肉、玉ねぎ、あと何かしらを用意します。
 2 なんやかんやあって完成でーす。
 
 これくらいのノリ。「いや、材料全部と作り方をちゃんと書けや!」と突っ込みたくなりますよね。牛肉にしてもひき肉でいいのか、とか。

 多数意見がなぜこんな薄ぼんやりした書き方しかできないのか。については、渡辺補足意見を検討する中で記述します。

 なお、具体的な事情に触れていないことから、これは法令レベルで合憲といっただけで、適用レベルでの合憲性を判断していないのでは、ということも気になります。が、「法令違憲/適用違憲」という概念すら、私にはおぼつかないので、指摘のみにとどめます。


 で、渡辺補足意見。

 総合較量の中で考慮した要素として、2つのものをあげています。


 ひとつは、事後手続である「審査請求手続」が充実しているということ。

 専門性を有する第三者的機関ともいい得る国税不服審判所における充実した審査請求手続

 こんなことが書いてあって。
 一体いかなる事実をもって「充実した」などと評価しているのか。およそその根拠を示してくれることはありません。
 もし法学部の学生さんが、何らの根拠も示さずに「僕は、審査請求手続、充実していると思うんだ。」などとご意見開陳したら、学者先生から「で、根拠は?」と突っ込まれること必至。

 みずほCFC事件判決における草野補足意見もそうですけど、補足意見というフィールドでは、根拠を示さない憶測どまりのものからでも意見を述べても構わない、という通念が形成されているのでしょうか。

 一般に、我が国の税法は、世界的にも稀有といえるほどに緻密で合理的な条文の集積から成り立っており、このことが税制に対する国民の信頼や我が国企業の国際競争力の礎となってきたことは税法の研究や実務に携わる者が均しく首肯するところではないかと推察する。

みずほCFC事件判決 〜最高裁令和5年11月6日判決 (雑感)

 もちろん、結果として正しい評価になっていることもあるかもしれません。が、根拠が示されていない以上、憶測呼ばわりされても文句はいえないでしょう。

 しかしまあ、「専門性を有する第三者的機関ともいい得る」って。「第三者的」といいつつ「ともいい得る」とも重ねていて。
 審判所が正規の第三者ヅラできるほどご立派なものではないのは公知の事実だとして。「第三者的」または「第三者ともいい得る」のどちらかではなく。両方使ってことさらに第三者性を薄めようとしている。

 これも、いかなる事実をもって第三者性を有している/いないのか、その根拠を明らかにしないから、こういうぼやけた書き方をせざるをえないのでしょう。


 もうひとつの考慮要素が、行政手続法の制定とか「事情の変化」も念頭に置いた上で、それでも合憲だと判断したんだよ、と。

 これだけ言われたところで、ではなぜ最終的に合憲という結論に至ったのか、思考プロセスが開示されていない以上、結局のところ理解ができません。

 『じつは・・・隠し味に・・・みりんを入れていたんですよ〜!』とか言われても、「いや、だから材料全部と作り方を教えろって言ってんじゃん!」と突っ込みたくなりますよね。

 それはともかく。問題だと思うのが、下記の書きぶり。

 多数意見は、関係規定の制定経緯等に鑑み、こうした事情の変化も念頭に置いた上で、憲法判断の変更は要しないと判断したものである。

 「だったら、そのことを多数意見に盛り込めや!」と思いますよね。

 というか、4人の裁判官が、心の中では本当にそのように思っていたとしても。多数意見に盛り込まず、渡辺補足意見にしか書かれていない、という外形的な事実からすれば、これは単に渡辺判事1人が思っただけのこと、多数意見の見解ではない、と評価するしかないですよね。

 国税庁がイタコ的に『税務通信』に語らせようが、それはあくまで民間雑誌の一記事にすぎない、というのと同じであって。補足意見は多数意見とは違う。
 まれに補足意見が「独り歩き」する現象が見られるの。「補足意見はあくまでも補足意見。」という建前を忘れられがちだからでしょうか(それでもなお、実務家的にはガン無視できないのが悲しいところ)。


 さて、翻って多数意見が総合較量の中身を開示しない理由。

 渡辺補足意見が、1人で考慮要素を追加していることからも透けて見えるように。総合較量の中身については、4人の判事の意見が一致していなかったのではないか、というのが私の邪推。

 それでもなお「合憲」という結論を一致させることができるのが、「総合較量説」の旨味であり。ともかく最終結論を出さなければならない最高裁の崇高な使命に、適合的な判断枠組みだと評価することができます(合議の厄介なルールを回避できる)。

 外野の人間からは、こういう、どんぶり勘定・ガラガラポンタイプの判断枠組み、評判がよろしくありません。が、ナカの人からすれば、結論を出しやすくするために、どうしても手放すわけにはいかないのでしょう。


 さて、そういう内部の空気を全く読まないのが宇賀反対意見。

 「原則必要説」ともいうべき見解で。事前手続を不要とするなら相当の根拠をもってこいと。
 
 長々と反対意見を展開していますが、事前手続を必要とする積極的根拠は2(1)でさらっと触れられている程度。
 残りは、事前手続を不要とする例外的な根拠を潰すことに腐心しています。

 多数意見の「総合較量説」が、建前上は天秤をフラットな状態にしてからプラス要素とマイナス要素をそれぞれ秤に載せていっているのに対し(実際は先に結論でてるんだろ、というのはさておき)。
 宇賀反対意見の「原則必要説」では、問答無用で天秤を必要説側にぐいっと傾けておいてから。不要説側に載せるマイナス要素については、秤に載せるに値するものかどうかを厳密に検証していく、というイメージ。

 根本から多数意見とは噛み合っていないので、早い段階で合議からハブられていたのではないかと心配になる(余計なお世話)。
 他の4人がワイワイきゃっきゃ言いながら「総合較量」しているところに入れてもらえない。
 だからなのかどうか、「総合較量説」とは正面から組み合わず。高裁判決のあちらこちらの記述を例外のための根拠付けだと構成し直して、そして潰し尽くす、なんて論旨の進め方をしちゃっているのか。


 未来予想として、何年かあとには「原則必要説」に成り代わるのかもしれません。が、いきなりそこまでひとっ飛びに実現するとは思えず。
 おそらくですが、「総合較量説」の枠組みを維持したうえで、当該事案のかぎりで違法(違憲?)というような判決が積み重なっていく、というプロセスが中間に必要な気がします。

 なので、宇賀先生には本当は、「総合較量説」の枠組みにおいても「違憲」までもっていける、ということを示しておいていただきたかったところ。
 普通は、1人の判事にこの役割までもを負わせるのは酷、と思われるかもしれません。が、宇賀先生は複数人いらっしゃるという噂ですので、宇賀1号反対意見(原則必要説・違憲)と宇賀2号反対意見(総合較量説・違憲)の2本を仕上げることもできたはずですよね。

 ただ、宇賀先生の場合は、退官後に立法作業に関与して、これまでのものを含め反対意見を実現するかたちで逆襲して来そうで震える。


 以上、生煮えの感想ですので、何か思い違いをしているかもしれません。

《通達みてえな判決》 〜「判例」としての最高裁令和6年5月7日判決
規範がない。あんなの飾りです。 〜最高裁令和6年5月7日判決の法的構造
posted by ウロ at 14:29| Comment(0) | 判例イジり

2024年05月06日

消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編48)

 前回整理した課税/控除が、どのように機能して『消費に課税する』を実現しようとしているかを確認しておきます。

消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編46)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編47)

 記述の順番ですが、前回は条文の並びどおり
  1 国内取引
  2 特定仕入
  3 輸入
としました。

 が、これは自分の頭を使わず条項順に並べてみただけのものです(条項順列思考)。

【条項順列思考】
多田望ほか「国際私法 (有斐閣ストゥディア)」 (有斐閣2021)
法適用通則法5条と35条における連動と非連動 〜法律学習フローチャート各論


 今回は、乏しい自分の頭を使って検討してみた結果、
  3 輸入
  2 特定仕入
  1 国内取引
の順番で記述したいと思います。


 お約束ごとは、概ね前回と同じですが、今回の趣旨にあわせて若干変更します。

・事業者=適格請求書発行事業者とします。
・課税の対象(4条)と納税義務者(5条)は、区別せずに一体として記述します。
・今回の「事業者」は、「家事用」と書かないかぎり「事業として」を満たす者として記述します。
・特定仕入は「事業者向け電気通信利用役務の提供」を想定します。
・「保税地域からの外国貨物の引き取り」=輸入として記述します。


 まずは「輸入」から。

輸入取引.png

 なぜこれを最初にもってきたかというと。
 「国内消費」に課税したい、という消費税法の基本姿勢がよく現れているからです。

・国内に入ってきたら、問答無用で課税する。
・輸入者が消費者なら、そこで課税は終了する。
・輸入者が事業者なら、そこからさらに課税/控除が続く。

 消費税法は、本来「国内消費」に課税したいと企んでいるものの。
 消費そのものに課税するのは無理がある、ということで、その手前のどこかしらで課税しています。

 「国内取引」の場合は、それが二段階遡って、事業者の譲渡に課税することになっています。

  国内取引: 事業者A:譲渡   ⇒◯課税
       →消費者C:消費支出 ⇒税負担(予定)
        消費者C:消費行為
 
 これに対して、輸入の場合、輸入行為に課税することとしています。それゆえ、輸入者が消費者ならば、消費者に直接課税することができることになっています。ダイレクトに輸入者=消費者に課税できており。「税転嫁により消費者への税負担が予定されている」などという、淡い期待にとどまるものではありません。

  輸入: 消費者C:輸入   ⇒◯課税+税負担(確定)
     →消費者C:消費行為

 なお、消費者が納税義務者になるという意味では「直接税(主体)」ですが、課税対象が消費ではなく輸入という側面からすれば「間接税(客体)」ともいえます。

 他方で、「事業者」が輸入した場合は、事業者は輸入課税と輸入控除の適用により、消費者に税転嫁する道筋が拓かれることになります。
 「道筋が拓かれる」などともってまわった言い方をしているの。あくまでも、税転嫁の邪魔になるものを露払いしただけであって。積極的に税転嫁を促進するような仕組みは何もないからです。

  輸入: 事業者A:輸入   ⇒◯課税/◯控除
     →消費者C:消費支出 ⇒税負担(予定)
     →消費者C:消費行為

 問題は、事業者が「家事用」で輸入した場合。課税されるのは当然として、控除まで取れてしまうという点です(文言解釈のかぎりでは)。

  輸入  事業者B(家事):輸入   ⇒◯課税/◯控除
     →事業者B(家事):消費支出 ⇒税負担(控除と相殺)
     →事業者B(家事):消費行為

 この場合、Bは消費税負担なしに、輸入した物を消費できることになります(さすがに限定解釈が入るでしょうか)。


 上記例では、輸入課税と輸入控除で終わるパターンしか記述していませんが。
 国内流通する場合は「輸入」ルールから「国内取引」ルールに連結されることで、課税/控除が続いていくことになります。

 このように、「事業者(家事用)」の場合に変な穴があるものの。
 輸入ルールでは、国内に入ってきた段階ですべて課税しておき、消費者に行き着くまで課税/控除を続ける、という遣り口で、『消費に課税する』を実現しようとしています。


 次に「特定仕入」について。

特定仕入.png

 これを「輸入」の次にした理由。
 輸入ルールが《モノ》にしか通用されないせいで、同ルールが実現しようとした「国内に入ってきたら課税スタート」という機能が発揮されない穴を防ごうとした、という位置づけだからです。

 ただ、輸入と異なり、「消費者」が仕入れた場合は課税されないため、「問答無用の仕入課税」とはなっておりません(定義上、消費者は「特定仕入」できませんが、便宜的にそのように記述します)。
 
 特定仕入: 消費者C:特定仕入  ⇒×課税
      →消費者C:消費行為

 特定仕入は「事業者向け」のサービスではあるものの。あくまでもサービスの内容で判断されるので、消費者が購入することは絶無ではないでしょう。
 輸入と違って消費者が課税されないことを理屈づけるとしたら。そのようなサービスは事業者が付加価値をのっけてはじめて「消費」できるものであって、消費者がダイレクトに「消費」できるものではないから。というような説明になるのでしょうか(こじつけ)。

 本来であれば、買手の属性(事業者/消費者)で切り分けすべきところ。あえてサービスの属性(事業者向け/消費者向け)で切り分けているせいで、いまいちしっくりこないのは分かります。
 が、だからといって、『インボイスがあれば「事業者向け/消費者向け」を区別できる!』なんて物言いをするの。控えめに言って、「日本の」消費税法知らなすぎですよね(EU消費税法学・日本支部?)。

佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)

 事業者が特定仕入をした場合、原則ルールでは課税と控除の両方があることになっているものの。課税も控除もなかったことにする例外ルールもあります。
 また、控除する場合でもインボイスは不要です。

  特定仕入: 事業者A:特定仕入  ⇒◯課税/◯控除 or ×課税/×控除

 消費税法の仕組み上、事業者間取引では消費税負担が発生しない建前となっており。これを実現するには、「課税あり/控除あり」か「課税なし/控除なし」のどちらであっても問題ありません。
 ただし、「控除対象外消費税」が生じる場合は別、ということはすでに検討ずみです。

偽装リバースチャージとしてのインボイス制度 〜消費税法の理論構造(種蒔き編15)


 最後に「国内取引」について。

国内取引.png

 外から入ってきたモノ・サービスについては、「輸入」「特定仕入」ルールから引き続いて課税/控除がされていきます。
 また、国内で生産されたモノ・サービスについては、「国内取引」ルール始まりで課税/控除がスタートします。

 最初に書いたとおり、消費税法は、消費者の消費行為でもなく、消費者の消費のための支出でもなく、事業者の譲渡行為に課税することとしています。

  国内取引: 事業者A:譲渡   ⇒◯課税
       →消費者C:消費支出 ⇒税負担(予定)
        消費者C:消費行為

 「税負担」「予定」などという概念を使って、消費税を「間接税」と形容することには、私は違和感しかないのですが。

予定は予定 〜消費税法の理論構造(種蒔き編20)

 ・本来は「消費」に直接課税すべき
 ・しかしそれは非現実的
 ・なので、その前の段階の「譲渡」に課税する
 ・それにともなって「譲渡者」に課税する
というかぎりで「間接税」だというのであれば、よく理解できます。

 そこに、「税負担」とか「予定」といった概念を挟まれると、そんなもん制度上何ら保障されていないじゃねえか、と思ってしまうわけです。
 『消費にもれなく課税するために、譲渡段階で課税しておくから、あとはお前らの企業努力で頑張って下流に税負担を転嫁してくださいや』という、残酷な話ですよね。


 今回は「インボイス」の話をするつもりはなかったのですが。流れで少しだけ。

 かつては、事業者が「消費者」から仕入れた場合も控除がとれてしまうことが問題となっていました。

  国内取引: 消費者C:譲渡   ⇒×課税
       →事業者A:課税仕入 ⇒◯控除

 この穴を塞ぐため、適格請求書保存要件が追加されたわけです。

 ただ、問題は、実体要件としての「課税仕入」の定義を見直すのではなく。形式要件としての適格請求書を要求したせいで。売手が「課税事業者」であっても、非適格者あるいは適格者であってもインボイス不発行だと控除が取れないこととなってしまいました(損税)。

  国内取引: 事業者B:譲渡   ⇒◯課税
       →事業者C:課税仕入 ⇒×控除 (インボイス無)

 なぜ、「誰から買っても課税仕入」というガバガバな定義を見直さず。インボイスを要求するという過剰な形式要件を要求することとしたのでしょうか。
posted by ウロ at 10:06| Comment(0) | 消費税法

2024年04月29日

消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編47)

 消費税法に関するそこいらの解説書では、「事業」「事業者」概念につき、通達を貼り付ける程度で終わってしまい。実際にどのように機能して、最終的に消費者課税を実現しているかが説明されることは、およそない。

消費税法基本通達 5−1−1(事業としての意義)
 法第2条第1項第8号《資産の譲渡等の意義》に規定する「事業として」とは、対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供が反復、継続、独立して行われることをいう。
1 個人事業者が生活の用に供している資産を譲渡する場合の当該譲渡は、「事業として」には該当しない。
2 法人が行う資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供は、その全てが、「事業として」に該当する。


 そしてまた、課税の対象、納税義務者、仕入税額控除がそれぞれの箇所で別々に説明されるだけで。それらが一体としてどのように機能しているかが説明されることもないです。

 ということで、以下、自力で整理を試みます。

消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編46)


 場合分けが拡散するのを防ぐため、次の通り、場面設定を限定します。

・事業者=適格請求書発行事業者とします。
・課税の対象(4条)と納税義務者(5条)は、区別せずに一体として記述します。
・「事業者」「事業として」が結論にどのような影響を及ぼすかを中心にみていきます。「国内において」「対価を得て行われる資産の譲渡」などといった他の要件は、当然に満たすものとします。
・特定仕入は「事業者向け電気通信利用役務の提供」を想定します。
・「保税地域からの外国貨物の引き取り」=輸入として記述します。


 まず「国内取引」について。

国内取引.png

1 課税

・売手:事業者(家事用)でも「事業者が」には該当します。ですが「事業として」ではないので「資産の譲渡等」に該当せず、課税されません。
・適格請求書を発行しようがしまいが、売手:事業者が資産の譲渡等をした以上は課税されます(問答無用の譲渡課税)。

2 控除

・買手:事業者(家事用)でも「事業者が」に該当します。ですが「事業として」ではないので「課税仕入れ」に該当せず、控除できません。
・買手:事業者(事業用)であれば、誰から購入しても「課税仕入」に該当します。が、インボイスがなければ控除できません。
 売上側はインボイスの有無にかかわらず課税されるのに、仕入側はインボイスがなければ控除できない、ということで「損税」の発生源となっています。


 次に「特定仕入れ」について。

特定仕入.png

1 課税

・売手には、インボイスを発行する権利も義務もありません。
・課税対象となるのは「仕入」であり、納税義務者となるのは「買手」です。
・「事業者向け」はサービスの内容で判定するので、買手が「消費者」の場合もありえます。
・売手/買手ともに「事業者」「事業として」でなければ「特定課税仕入」に該当しません。

2 控除

・買手:事業者(家事用)でも「事業者が」に該当します。ですが「事業として」ではないので「特定課税仕入」に該当せず、控除できません。
・国内取引と異なり、インボイス保存が要求されないの。そもそもインボイスが発行されないという形式論とあわせて、買手が、同一取引につき課税されるが控除されない(損税)などというのが、どう考えても不合理だからでしょう。


 次に「輸入」について。

輸入取引.png

1 課税

・保税地域からの引き取りである以上、「輸入許可書」は当然に発行されているもののはずです。
・主体の属性・目的にかかわらず、輸入したら当然に課税されます(問答無用の輸入課税)。
・「取引」であることは要求されていません。ので、主体は「売手」ではなく「輸入者」です。

2 控除

・「外国貨物の引き取り」の定義の中に「事業として」が含まれていません。そのため、事業者(家事用)が輸入した場合は税額控除が取れてしまう、というのが《文言解釈》の帰結です(最終的な結論は保留)。
・「取引」であることは要求されていません。ので、主体は「買手」ではなく「輸入者」となります。
・輸入者が納税して輸入者が控除する、ということで、元祖リバースチャージみたいなものです。


 これらの「課税/控除」の組み合わせにより、

 売手  買手
・事業者‐事業者
・消費者‐消費者
・消費者‐事業者
は《課税=控除》とし、

 売手  買手
・事業者‐消費者
のときだけ《課税あり/控除なし》となっていてくれれば、「消費に課税する」ための道筋が実現できるわけです。

 が、上述したところだけでも、インボイスが保存されなかった場合の「損税」、事業者が家事用に輸入した場合の「益税」が発生しています。
 さらに、各種サブシステムまで含めると、あちらこちらで益税・損税が発生しており。『インボイス導入したので益税撲滅できました、めでたしめでたし。』で終われません。


 そこいらの解説書の代表として、「税大講本」をあげておきます。

消費税法(令和6年度版)

P13 
3 事業者が事業として行う取引
 消費税は、国内において事業者が事業として行う取引を課税の対象としているから、事業者以外の者が行う取引は課税の対象にならない。
「事業者」とは、事業を行う個人(「個人事業者」という。)及び法人をいい、その個人事業者又は法人が居住者であるか非居住者であるかを問わない(消法2@三、四)。 なお、国・地方公共団体及び人格のない社団等も「事業者」に含まれる(消法3、60 @)。
「事業として」とは、対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供が反復、継続、独立して行われることをいい、事業に使用していた資産の売却など事業活動に付随して行われる取引もこれに含まれる(消法2@八、消令2B)。
(注)法人が行う取引は、その全てが「事業として」に該当するが、個人事業者は、事業者の立場と消費者の立場を兼ね備えており、そのうち「事業者として」の取引のみが課税の対象となる。
したがって、家庭で使用している冷蔵庫、テレビ等の生活用資産の売却などは、「事業として」行う取引に該当しない(不課税取引)。


 『「事業として」とは』という書き出しのところですが。
 「事業として」の定義を記述するのであれば、「対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供が〜」はいらないですよね。「事業として」の定義の中にこれを含めてしまうと、たとえば「資産の譲渡等」は次のように理解しなければならなくなります。

消費税法 2条1項
八 資産の譲渡等 事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(略)をいう。

 対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供が反復、継続、独立して行われる対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(略)をいう。


 とんでもなくキモい中身になってしまいます。

 まあ、特に何も考えず、通達コピペしただけなのかもしれません。
 が、上記のとおり、事業者が家事用で輸入した場合も輸入控除が取れてしまう、という過誤が生じているの、「事業者」という用語の中に「事業として」という要素が含まれていると勘違いしたがゆえ、ぽいですよね。
 こういう勘違いをなくすためには、各用語のどこにどの要素が含まれているか、ということは正確に理解しておくべきです。

 このような観点からすれば、「事業として」に含まれる要素は、
  反復、継続、独立して
の部分だけになります。


 なお、(注)にある『そのうち「事業者として」の取引のみが課税の対象となる。』というところも不正確。正確には「事業者として」ではなく、「事業として」でしょう。
 消費税法上、個人事業者であるかぎり、常に「事業者として」しか取引を行うことはできませんので。


 他の解説モノも似たりよったりで。
「条文読め」とか言っている下記書籍でも、同様の通達コピペから始まっていますし(P.28)。

熊王征秀「消費税法講義録 第4版」(中央経済社2023)

 というか、「事業者」と「事業として」の使い分けなんか、まるで意識せずになんとなくシームレスで記述されて終わってしまうものばかり。ですし、これら概念が課税と控除のそれぞれの場面でどのように機能しているかを記述してくれることなんて、ありません。

 頭の良い学者先生を初めとして、「課税要件事実論」なんてものに手を出す前に、実体法レベルの、地に足のついた議論を展開してくれることを望みます。

伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)
伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)


 「事業」の中身が課税対象の箇所でしか解説されないせいで。初学者の人からすると「事業を広く解釈すると税負担が重くなってしまう!」などと勘違いしてしまいがちです。

 が、消費税法の基本コンセプトは、「事業の世界からはみ出したところで税負担を発生させる」というものになっています。そのコンセプトに従い、課税と控除両方に事業概念を仕込んでいるので、課税側の事業が広がれば、控除側の事業も同じだけ広がります。

 ので、事業概念を広く解しても、そのまま税負担が重くなる、などということにはなりません。むしろ、事業の世界が広がればその分消費の世界が狭まるので、事業概念が広いほうが望ましいかもしれない。
 もちろん、事業概念以外の要件のせいで控除ができなくなることはあります。が、それは当該要件の問題であって。事業概念が広いことが直接の原因ではない。

 法律上の各要件がどのように機能しているかをちゃんと記述しないから、学習者は、どこまでいっても表面的・断片的な理解しかできないままにおわってしまうのでしょう。

 といった感じのことを、最近出版された田村善之先生の教科書の、各要件の「機能」面を重視した丁寧な解説を読みながら、ふと思いました。

田村善之,清水紀子「特許法講義」(弘文堂2024) Amazon

消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編47)
posted by ウロ at 09:54| Comment(0) | 消費税法

2024年04月22日

消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編46)

 前回、「法律文章の書き方本」のご紹介だというのに、流れで、消費税法における「事業者」概念について触れることになりました。

白石忠志「法律文章読本」(弘文堂2024)

 今回は、この「事業者」概念まわりを主題として、交通整理をします。


 本ブログの『消費税法の理論構造』というサブタイトルをつけた、一連の記事。免税事業者、非課税売上、用途区分、インボイス及びその特例などのせいで、「消費者が消費税を負担する」という理想が歪められている、という消費税法の構造上の問題を検討するものとなっています。

 それらの記事では、そういったサブシステムのせいで「益税」やら「損税」があちらこちらに発生している、ということの指摘までで。メインシステムについては、きちんと触れずにいました。

 ということで、今回は、メインシステムの構造について、軽く整理するものとなります。


 消費税法が採用している《課税/控除》のメインシステムの構造は、次のとおりとなっています。

【課税】
 1 事業者+国内+課税資産の譲渡
 2 事業者+国内+特定課税仕入
 3 保税地域+課税貨物の引き取り

【控除】
 4 事業者+国内+課税仕入 (+インボイス+帳簿)
 5 事業者+国内+特定課税仕入 (+帳簿)
 6 事業者+保税地域+課税貨物の引き取り (+輸入インボイス+帳簿)
  (※「輸入インボイス」というのは造語です)


 このような座組みを採用することで、消費税法が理想の姿として描いているの、

   売手  買手  課税 控除
  ・事業者 事業者 あり あり
  ・消費者 消費者 なし なし
  ・消費者 事業者 なし なし
  ・事業者 消費者 あり なし

という帰結になることです。

 課税/控除のあり・なしがこのとおりに正しく作動することで、最終的に消費者が消費税を負担することが「予定」されています。消費者が事業者から購入するときだけ課税と控除がずれることとし、それ以外の場面では《課税=控除》とすることで、その目的を達せられるはずでした。

 ところが、免税事業者、非課税売上、用途区分、インボイス及びその特例などにより、その理想がことごとく歪められています。
 その点については、他の記事を読んでいただくとして。では、このメインシステム自体には問題がないのかというと。

 一点だけ気になる箇所があります。


 以下の事例で検討してみます。

【事例1】
 個人事業主Aは、個人Bに対し、自宅お片付けコンサルサービスを提供し、コンサル料110万円を受け取った(国内売上)。
 ご機嫌となったAは、高級家具店で自宅用のおしゃれ家具99万円を購入し、自宅に搬入した(国内仕入)。

 Aはいくら消費税を納税すべきでしょうか。

 まず、サービス提供により対価を受けたことは、上記課税1に該当し、Aは10万円を納税しなければなりません。
 他方で、おしゃれ家具の購入は自宅用のため、控除4に該当せず、9万円を控除することは出来ません。
 よって、AはBからお預かりした10万円をそのまま消費税として納税しなければなりません。

 では、次の事例はどうでしょうか。

【事例2】
 個人事業主Cは、個人Dに対し、自宅お片付けコンサルサービスを提供し、コンサル料110万円を受け取った(国内売上)。
 ご機嫌となったCは、海外の高級家具店から自宅用におしゃれ家具90万円を購入し、自宅に搬入した(輸入仕入)。

 サービス提供が課税1に該当して10万円課税されることは、【事例1】と同じです。
 また、おしゃれ家具を輸入したことは課税3に該当し、Aは輸入消費税9万円を納付します(関税等は無視)。
 では、控除6により、輸入消費税につき税額控除を受けることは可能でしょうか。

 「自宅用」なんだからできるわけないわボケ!と思われるかもしれません。が、《文言解釈》によるかぎり、これは可能と読むことができます。

 というのも、課税3と控除6には「事業として」という要件がどこにもでてきません。
 課税1・2、控除4・5にも書いてないと思われるかもしれません。が、こちらはそれぞれ「課税資産の譲渡」「特定課税仕入」「課税仕入」の定義の中に、「事業として」がビルトインされています。

 それぞれの定義規定から「事業として」を抽出すると。

   売手          買手
 1 事業者・事業として  4 事業者・事業として
 2 事業者・事業として  5 事業者・事業として
 3            6 事業者

 課税3・控除6からは「事業として」が出てこないことになります。


 その結果、課税3、控除6は次のとおり解釈されます。

 まず課税3については、誰がどういうつもりであろうが、国内に持ち込んだら課税する。それゆえ、消費者が輸入する場合も、事業者がプライベートで輸入する場合も、等しく輸入消費税を納付しなければならないことになります。しかも、取引の存在すら前提とされていません。

 こちらは、「国内消費」に課税しようとする消費税法の建前(仕向地主義)からすれば当然の帰結で。国内に入り込んだら課税転嫁がスタートする、いきなり消費されたらそこで転嫁が終了する、というだけの話です(問答無用の輸入課税)。

 問題は控除6です。
 「事業者が」で主体を限定するところまではよいのですが。「事業として」という要件が「課税貨物」「引き取る」の中に含まれていません。それゆえ、何かしら事業をやっていさえすれば、事業用だろうがプライベート用だろうが、輸入消費税を納付した以上は、それを控除できてしまうことになります。

 これが、「事業者」の定義の中に「事業として」が含まれていると勘違いしたがゆえの立法の過誤なのか。よく分かりませんが、今のところ放置されたままとなっています。
 【事例2】でも、Cは個人事業を営んでいる以上「事業者」に該当する、そしてプライベート目的での輸入でも「課税貨物の引き取り」に該当する、ゆえに税額控除可能、ということになります。

 本当にこんなことでいいのか疑問ではあります。が、条文上はそうなっているということです。
 だからといって、これを悪用しようとしても、例によって裁判所が《過小課税尻拭い判決》を出すこともありうるわけで。「自家消費」(課税側のルール)あたりの制度趣旨を《アクロバティック拡張解釈》して、税額控除を制限するかもしれない。

 ということで、私自身が何かを推奨するつもりは全くありません。


 消費税法においては、「消費者に税負担をさせる」という目的を達するために、「事業」「事業者」という概念を利用して、事業の世界と消費の世界の切り分けをしています。厳密には、「消費」を正面から切り出すことなく、「事業」とそれ以外という区分となっていますが。
 事業の世界からはみ出した時点で転嫁を終了させ、そこで税負担が生じるように仕組んでいるわけです。

 それゆえ、所得税法をはじめ、他の法律が同じ「事業」「事業者」という用語を使っているからといって、同一に解釈する必然性はなく。消費税法の目的にそった解釈をすべきでしょう。
 他法の概念理解を混入させてしまうと、「消費者に消費税を負担させる」という目的が阻害されかねないわけで。
 当ブログが「借用概念論」を胡散臭い扱いしているのは、主としてそういう視角からです。


 今回指摘したことは、「事業」「事業者」の中身の問題ではなく。
 消費税法が「事業者」につき絶対的主体概念を採用しているにもかかわらず。あたかもそれを忘れたかのような要件設定をしたせいで、輸入消費税の税額控除の可否をうまく制御できていないのではないか、ということでした。

 ・「問答無用の輸入課税」を実現するために、課税ルール(3)ではゆるゆるな用語設定をした。
 ・控除ルール(6)にもその用語をそのまま流用した。
 ・「事業者が」と主体を限定しておけば「自宅用」を除外できると勘違いした。
という図式になるでしょうか。

 個人の場合は、同一主体が消費者でもあり事業者でもあり、ということがあり。その切り分けの設計が難しいであろうことはよく分かります(所得税法における資産損失まわりとかもそうです)。
 が、輸入消費税に関しては、どうして「事業として」という限定を外したままとしているのか、謎です。


 ちなみに、上記4の「課税仕入れ」について。

 こちらは定義上、「誰から仕入れるか」の限定が外されています。そのため、消費者から買っても、事業用であるかぎり「課税仕入れ」に該当することになります。

 では、税額控除ができるのかというと。税額控除するには「要インボイス」とされているため、ガバガバな定義規定の穴はしっかり塞がれています。

 他方で、古物商等特例で「インボイス保存いらない」とされた途端、ガバガバな定義が復活します。そのため、『非適格者からの課税仕入れなら税額控除できる』などという倒錯した帰結を導くことができることになります。

《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編33)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編34)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編35)

 インボイスが導入されたにもかかわらず、「課税仕入れ」の定義がガバガバなままなの。これら「インボイスいらない特例」をメインシステムに接合しやすくするため、ではないかと穿った見方をしてしまいます。

消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編47)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編48)
posted by ウロ at 10:29| Comment(0) | 消費税法

2024年04月15日

白石忠志「法律文章読本」(弘文堂2024)

 法律文章の「書き方」本。
 書き方本の中でも特に、「表現」特化型といえるでしょうか。

白石忠志「法律文章読本」(弘文堂2024) Amazon

 白石忠志先生は競争法の専門家なのですが。
 「競争法」に興味のない私ですら、白石先生の著書だけは、どうしても読みたくなってしまいます。

白石忠志「技術と競争の法的構造」(有斐閣1994)
デビッド・ガーバー「競争法ガイド」(東京大学出版会2021)
※教科書・体系書を記事化できていないのは、単なる能力不足。上記記事にしても、正面から向き合ってないですし。

 今回も、あまたの積読本を押しのけて、さっそく読んでしまう羽目に。

 ちなみに、同一タイミング・同一出版社で購入⇒積読された本。
菅野和夫,山川隆一「労働法 第13版」(弘文堂2024) Amazon
田村善之,清水紀子「特許法講義」(弘文堂2024) Amazon

 「法律文章を書く人は全員必読ですよ。」とだけ紹介してもしょうもないので、以下感想を。


 いきなりイチャモンの類から。


 タイトルの『読本』は、一見まぎらわしい。

 もちろん、「入門書」という意味からすれば、間違った言葉を使っているわけではないです。が、「読み/書き」でいうところの「書き方」がメインの本なのに『読本』とはこれいかに、と一瞬脳内にノイズが走ってしまいました。

 まあ、私が『文章読本』という言葉に馴染みがないだけの話でしょうけども。教養レベルが低いだけの問題。


 例によって、「帯」をみてみると(イチャモン基本所作としての「帯イジり」)。

【帯イジり例】
後藤巻則「契約法講義 第4版」(弘文堂2017)

 『言葉の基本から始める法学入門』と書いてありました。
 が、本書は「書き方」のお作法がひたすら丁寧に解説されたものであって。これをもって『法学入門』というのは、違う気がします(本ブログのカテゴリも、本当はおかしい)。

団藤重光「法学の基礎」(有斐閣2007)

 もし「これから法学を学んでみようかな」というガチの初学者勢が「送り仮名の付け方」みたいなものを読まされたら、速攻、入口から引き返してしまうのではないでしょうか。
 扱われている素材も、独禁法など「大人の」法分野が結構あって。初学者には意味が取りにくいであろうところが、しばしば。

 本書が効いてくるのは、ある程度法律文章を読んだことのある人が、自分でも「書いてみむとてする」などと思いたったタイミングだと思います。
 単なるお作法の羅列にすぎないと思っていた本書の記述が、これから書こうとする全ての法律文章に活きてくるのが実感できるはずです。

 『◯◯警察』という言い回しがありますが。
 「法学入門」という用語に対しても、それに相応しい内容となっているか、取り締まる方がいらっしゃってもよろしいのではないでしょうか(他人任せ)。


 目次で、括弧数字の下位レベルの項目が省かれているのは、読後のふりかえりに不便。この出版社だけかどうか分かりませんが、この手の目次、しばしば見られる。


 イチャモンはこれくらいにして。あとは本書を読みながら思ったことなど。

 法律文章を書くにあたってのお作法として、追加したほうがよいと私が思ったもの。

 『卑近な喩えをむやみに使わない。』

というものです。

 どういうことかというと、下記の記事。

吉田利宏「実務家のための労働法令読みこなし術」(労務行政2013)

 そこでは、「章名・節名をもって見出しに代えさせていただきます」系の見出しがない条文を、「ラーメンのスープ(大)」と「チャーハンについてくるスープ(小)」で喩えてはいるが意味分からんよ、というツッコミをしました。

 別の記事だとこれも。

多田望ほか「国際私法 (有斐閣ストゥディア)」 (有斐閣2021)

 法人を「ロボット」になぞらえるとか、事例を人間ではなく「猫ちゃん」に置き換えてしまうとかに対しても、イチャモンをつけました。

 卑近な喩えなんてあげないで、それ自体の具体例をあげていけば理解してもらえるもののはずです。
 面白い(と本人が思うところの)喩えが思いついちゃったら、どうしても披露したくなるのは、とてもよく分かります。畢竟独自の見解を唱えるときなどは、説得力を少しでも水増しするために、喩えを持ち出すこともあるでしょう。

 が、既存の概念を正確に理解する場面においては、ひたすら具体例をあげていけばいいのであって。わざわざ卑近な喩えで人心を惑すべきではないでしょう。

 もちろんこんなお作法、流派というか美意識の類でしょうから。本書のような「基本インフラ整備の書」に盛り込むようなものではないです。
 ちなみに、本書をこのことを意識しながら読んでみましたが。具体例が豊富なのに対し、卑近な喩えは見当たりませんでした。さすが(偉そう)。


 「条文見出し」ついでに。

 本書では、(公式見出し)と【非公式見出し】があること、【非公式見出し】を解釈に用いてはならない、とされています。
 これ自体はそのとおりなのですが。では、(公式見出し)は解釈に用いてもよいのでしょうか。

 本書では明言されていません。が、「用いてもよい説」が多数派でしょうか?

 私自身は、(公式見出し)であっても解釈に用いるべきではないと思っていて。そのことを強く意識させられたのが、「8割控除」にまつわるお話し。

【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版補遺
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版余滴
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 決定版

 8割控除の適用範囲として、税制改正大綱⇒条文見出し⇒旧Q&Aのラインでは「適格請求書発行事業者以外からの課税仕入」とされていました。が、この書きぶり、条文本体の規律の仕方とは全く異なるものです。

 条文見出しを使って、どうにか条文本体と異なる帰結をゴリ押ししようとしたけども。最終的には、さすがに内容かけ離れすぎ、ということで、あきらめざるをえなくなった、というのが一連の経緯といえるでしょうか。

 このような、条文見出しで条文本体を上塗りしようとする一群の輩を見るにつけ。「条文見出しを解釈に使うのは禁止!本体のみで勝負しろ!」とルール設定としておいたほうが、立案技術の健全な発展が見込まれるのではないかと思います。

 もし、なにかの間違えで、裁判所に持ち込まれるようなことがあったとしたら。裁判所、条文見出しを使って《立案ミス尻拭い系の限定解釈》を繰り出してきやがりそうですし。

【過小課税尻拭い判決】
横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)
【過大課税尻拭い判決】
みずほCFC事件判決 〜最高裁令和5年11月6日判決 (雑感)


 本書でぜひスタンダードとして整備しておいて欲しかったのが、「借用元/借用先」のような「元/先」の使い分け。

非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その11)

 毎回どっちがどっちか分からなくなるので、用法を決め打ちしておいていただけると助かります。


 本書では、「普通の人が異なるイメージを持つ例」として、フリーランスが企業Aとの関係では「特定受託事業者」にあたるが、消費者Cらとの関係では「特定受託事業者」に該当しない、というものを挙げられています。普通の人は、場面ごとに人の属性が変わるのは馴染みがないだろうと(そうですかね?)。

 フリーランス法に明るくないので、このような事業者該当性の判定の仕方が正しいのかどうか、分かりませんが。僕らの「消費税法」では、これとは明らかに異なる規律の仕方をしています。

消費税法 第二条(定義)
1 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
三 個人事業者 事業を行う個人をいう。
四 事業者 個人事業者及び法人をいう。
八 資産の譲渡等 事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)をいう。
第四条(課税の対象)
1 国内において事業者が行つた資産の譲渡等(特定資産の譲渡等に該当するものを除く。第三項において同じ。)及び特定仕入れ(事業として他の者から受けた特定資産の譲渡等をいう。以下この章において同じ。)には、この法律により、消費税を課する。


 たとえば、個人事業をやっている人が、「自宅」を売却したらどうなるかというと。
 ・事業をやっている人なので「事業者」に該当する。
 ・「事業として」ではないので「資産の譲渡等」に該当しない。
 ・よって、消費税は課税されない。
となります。

 これを「自宅の売却場面では「事業者」にあたらない」としてしまうと、資産の譲渡等の定義の中に「事業として」が組み込まれていることの説明ができなくなってしまいます。
 自宅の売却だから「事業者」にはあたらない、のではなく。事業をやっている以上「事業者」であることからは逃れられない、が、「資産の譲渡等」にあたらないから課税されずにすむ、という建付けになっているということです。

 課税されないという結論が変わらないんだったら、どっちでもいいじゃん、と思うかもしれません。が、消費税法の中には、「事業者」である、それだけの事実で規律が決定される条項があります。
 自宅を売却しようが事務所を売却しようが、「事業者」である以上どちらでも同じ扱いになるとか(そのうち記事化します)。

 なので、フリーランス法における「特定受託事業者」と同じノリで、消費税法における「事業者」も理解してしまうと、事故る可能性があります(前者を「相対的主体概念」、後者を「絶対的主体概念」とネーミングしておきます)。

 これはどちらが主体概念として正しいか、ということではなく。
 フリーランス法はあくまでも個別の業務委託ごとにフリーランスを保護すれば足りる、ということで相対的主体概念を採用した、他方で、消費税法は、事業をやっている、それだけで規律を及ぼしたいものがある、ということで、主体概念には余計な飾りを盛り込まなかった、ということなのでしょう。

 フリーランス法における「特定受託事業者」についても、もし今後、個別の業務委託に結び付けずに「特定受託事業者」であること自体で規律を及ぼしたいとか、対消費者との関係でも規律を及ぼしたい、といった事情が生じた場合には、主体概念の調整が必要になるのでしょう。

 フリーランス法における「特定受託事業者」が、相対的主体概念なのだとすると。厳密にいえば、委託者A社との関係で該当する「特定受託事業者」(対A)と、委託者Bとの関係で該当する「特定受託事業者」(対B)とは、別モノだということになるのでしょうか。
 もちろん、今こんなこと考えてても何の実益もないと思います。が、消費税法におけるような事故を未然に防ぐためには、平素から正確な理解を心がけておくべきでしょう。


 以上、余計なことをあれこれ書きましたが。

 最初に書いたとおり、法律文章を書く人は全員必読だと思います(俺は全て分かっている、という人は除く)。
 各人が『ぼくのかんがえたさいきょうのお作法』を開陳するにしても、本書をベースラインとすれば生産的な議論ができるはずです。

 法令について書いた文章を読んでいて、「これ、法曹が書いた文章でないな」とバレるの、これらお作法を踏まえて書いていないからというのが、要因のひとつだったりします。
 ので、税理士にかぎらず「それらしい」法律文章を書きたい方は、ぜひ本書記載のお作法を身に着けていただくのがよろしいかと思います。
posted by ウロ at 09:04| Comment(0) | 法学入門書探訪