2024年01月22日

みんな大好き!倒産防(その2) 〜令和6年度税制改正大綱

 みんな大好き!!倒産防。ですが、ちょっと嫌いになる人が増えるかも、というお話。
 
みんな大好き!倒産防(その1) 〜措置法解釈手習い

 令和6年度税制改正において、「解約したら2年は再加入できないよ。」という規定が入ることになるようで。
 正しくは「加入するのは勝手だが、損金算入させねえよ。」ですが、現実世界においては、哀しいかな同義でしょう。

5 その他の租税特別措置等
(国 税)
〔廃止・縮減等〕
(13)特定の基金に対する負担金等の損金算入の特例における独立行政法人中小企業基盤整備機構が行う中小企業倒産防止共済事業に係る措置について、中小企業倒産防止共済法の共済契約の解除があった後同法の共済契約を締結した場合には、その解除の日から同日以後2年を経過する日までの間に支出する当該共済契約に係る掛金については、本特例の適用ができないこととする(所得税についても同様とする。)。
(注)上記の改正は、令和6年10月1日以後の共済契約の解除について適用する。


 単なる繰り延べだし、個々の金額も可愛いものだし、わざわざ改正するほどのものかと感じるところ。機構の側からしても余計なことしやがって、ということでしょうし。

 改正いれるぐらいだから、相当な金額が実施されていたのでしょうか。改正されたとして、機構への金員流入がごっそり減るのか、それとも解約のほうが減ることになるのか。

 お国の方針としては、抜けて入ってで益金調整に使うのは認めないんだと。そうだとして、同期中に限らず、2年も制限されるのはよく分かりませんが。
 解約したけど事情が変わって翌期には再加入したい、という場合もあるだろうに(最初に述べた通り、再加入自体が禁止されるわけではないでしょうが)。

経営セーフティ共済(独立行政法人中小企業基盤整備機構)


 なお、大綱の読み方ですが、「本特例の適用ができない」と書いてあることから、『前納が損金算入できないだけで毎月分は損金算入できるはず』みたいな読み方をされる方がいるかもしれません。

 が、倒産防の掛金の損金算入ルールは、

 A 法人税法:(全額は?)できない。
 B 措置法:できる。
 C 措置法通達:前納1年まで

という構成になっています。
 「前納1年」というのは、措置法本体ではなく通達が勝手にそう言っているだけで。損金算入できること自体が「特例」にあたるので、これが適用されないのであれば、掛金は損金算入できない、ということになります(「全額は?」と書いたのは、疑問を留保している点があるからです)。

 もちろん、今後できあがる実際の条文がどうなるか次第ではあります。が、大綱の記載に従うかぎりは、前納だろうが毎月分だろうが2年間は損金算入できないという意味になるはずです。


 ここまでは、そのへんの《税務お役立ち記事》と同じ、単なる大綱のご紹介です。
 当ブログにおける関心事は、「法令/通達の規律範囲」の問題です。

 上述したとおり、前納による損金算入の範囲が「1年」であることについては、法律ではなく通達に記載されています。
 この通達が、法を「拡張」しているのか「制限」しているのか、いずれの読み方も可能ということを、上記記事では示しました。

 で、今回の改正にあたって、通達に外出しされていた「1年前納ルール」を法律に取り込むのかどうか、ということが、私の個人的な関心事となります。

 法令/通達の規律範囲の変更に関しては、以前、《インボイスいらない特例》でも検討したところです。通達に規定されっぱなしだった《いらない》場合を、政令・省令に取り込む改正が行われたと。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編38)

 余談ですが、税務においては、通達が相当幅を効かせているというのに。法令/通達の規律範囲について、それ自体を題材とした研究というのが見受けられない(私が知らないだけですか)。

【労務における法令/通達】
吉田利宏「実務家のための労働法令読みこなし術」(労務行政2013)

 それはさておき。このような規律範囲の見直しが、倒産防に対しても行われるのかどうか。

 私の見立てでは、おそらく何も触れられず、単に「2年不算入ルール」だけが法律に付け加わるのだと思います。「1年前納ルール」を法律に取り込もうとすると、では、なぜ今まで通達で勝手に1年に限定していたのか、ということの問題が可視化されてしまうからです。
 もちろん、通達を《拡張ルール》と読むことで問題は回避できます。が、そういう議論が巻き起こること自体を回避しようとするのが、運営側の生態(と私が邪推している)。

 ということで、自販機特例における氏名省略と同様、法令には取り込まないままにするのではないでしょうか(というか、そういう意思決定すらせずガン無視を決め込む)。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その9) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編44)


 もう一つ検討したい論点があるのですが(「全額は?」と書いたところ)、余裕があれば次回以降で。

みんな大好き!倒産防(その3)。 〜令和6年度税制改正大綱
posted by ウロ at 11:46| Comment(0) | 法人税法

2024年01月15日

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その9) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編44)

 前回の記事で、自販機特例につき「住所」省略は改正事項とするのに「氏名」省略は『差し支えありません』で済まそうとするの、気持ち悪いと評しました。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その8) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編43)

 なぜ、「氏名」も改正事項としないのかについては、おおよそアタリは付いていて。
 その理由は『古物商等を異常に優遇しているから』だと思われます。

 突飛すぎてよく分からないかもしれませんので、以下説明を加えます(入場券特例については記述を省略)。


 氏名省略規定の条文構造については、以下の記事で分析をしたところです。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編37)
条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編38)

 長くなりますが、政令と告示を貼り付けてみると次のとおり。

令第四十九条(課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の記載事項等)
1 法第三十条第七項に規定する政令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
 一 課税仕入れが次に掲げる課税仕入れに該当する場合(法第三十条第七項に規定する帳簿に次に掲げる課税仕入れのいずれかに該当する旨及び当該課税仕入れの相手方の住所又は所在地(国税庁長官が指定する者に係るものを除く。)を記載している場合に限る。)
  イ 他の者から受けた第七十条の九第二項第一号に掲げる課税資産の譲渡等に係る課税仕入れ
  ロ 入場券その他の課税仕入れに係る書類のうち法第五十七条の四第二項各号(第二号を除く。)に掲げる事項が記載されているものが、当該課税仕入れに係る課税資産の譲渡等を受けた際に当該課税資産の譲渡等を行う適格請求書発行事業者により回収された課税仕入れ(イに掲げる課税仕入れを除く。)
ハ 課税仕入れに係る資産が次に掲げる資産のいずれかに該当する場合における当該課税仕入れ(当該資産が棚卸資産(消耗品を除く。)に該当する場合に限る。)
   (1) 古物営業法第二条第二項(定義)に規定する古物営業を営む同条第三項に規定する古物商である事業者が、他の者(適格請求書発行事業者を除く。ハにおいて同じ。)から買い受けた同条第一項に規定する古物(これに準ずるものとして財務省令で定めるものを含む。)
   (2) 質屋営業法第一条第一項(定義)に規定する質屋営業を営む同条第二項に規定する質屋である事業者が、同法第十八条第一項(流質物の取得及び処分)の規定により他の者から所有権を取得した質物
   (3) 宅地建物取引業法第二条第二号(用語の定義)に規定する宅地建物取引業を営む同条第三号に規定する宅地建物取引業者である事業者が、他の者から買い受けた同条第二号に規定する建物
   (4) 再生資源卸売業その他不特定かつ多数の者から再生資源等(資源の有効な利用の促進に関する法律第二条第四項(定義)に規定する再生資源及び同条第五項に規定する再生部品をいう。)に係る課税仕入れを行う事業を営む事業者が、他の者から買い受けた当該再生資源等
  ニ イからハまでに掲げるもののほか、請求書等(法第三十条第七項に規定する請求書等をいう。)の交付又は提供を受けることが困難な課税仕入れとして財務省令で定めるもの

2 前項第一号に規定する国税庁長官が指定する者から受ける課税資産の譲渡等に係る課税仕入れ(同号に掲げる場合に該当するものに限る。)のうち、不特定かつ多数の者から課税仕入れを行う事業に係る課税仕入れについては、法第三十条第八項第一号の規定により同条第七項の帳簿に記載することとされている事項のうち同号イに掲げる事項は、同号の規定にかかわらず、その記載を省略することができる。

○国税庁告示第26号
2 令第四十九条第一項第一号に規定する国税庁長官が指定する者は、次に掲げる者とする。
四 令第四十九条第一項第一号ハ(1)から(4)までに掲げる資産に係る課税仕入れ(同号ハ(1)から(3)までに掲げる資産に係る課税仕入れについては、古物営業法、質屋営業法又は宅地建物取引業法により、これらの業務に関する帳簿等へ相手方の氏名及び住所を記載することとされているもの以外のものに限り、同号ハ(4)に掲げる資産に係る課税仕入れについては、事業者以外の者から受けるものに限る。)を行った場合の当該課税仕入れの相手方


 令49条2項によれば、氏名省略できるのは、告示に列挙されているもののうち「不特定かつ多数の者から課税仕入れを行う事業に係る」ものとされています。
 決して、特定業種に限定しているわけではなく。中立的な装いの書きぶりとなっています。が、(その2)(その3)で検討したとおり、結果的には「古物商等」だけに限定されることになります。

 これ、改正前は政令自体に業種が書き込まれていたところであり。インボイス後は政令だけ読んでも特定業種を優遇していることが見えにくくなっています。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編36)

 『結果的に古物商等だけが氏名省略できることになっているだけで、政令レベルでは決して特定業種のみを優遇する意図があったわけではない』という言い訳も可能っちゃ可能。もちろんヤラセでしょうが(以下、同項を「すっとぼけ条項」と呼びます)。


 さて、このような「すっとぼけ条項」に自販機を追加するには、どのような条文とすべきでしょうか。

 正面から「自販機」とは書かずに、「不特定かつ多数の者から」のような、すっとぼけた書きぶりで限定しなければならないとしたら、どのように記述すればよいのか。うまい遣り口が思いつきません。
 そうだとすると、令49条2項を修正して、正面から「古物商等」「自販機」と謳うことにせざるをえないでしょうか。あるいは、委任先が省令/告示と別れていることをこれ幸いとばかりに、別々の書きぶりで共存させることにするかどうか。

 といったように、自販機を氏名省略できるようにするためには、単に49条2項に自販機を追加すれば済むのではなく。「古物商等」の書きぶりについても再検討しなければならなくなります。


 運営側の往生際の悪さについて、「8割控除」を題材に指摘したことがありますが。
 
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 決定版

 なぜだかよく分かりませんが、一度アウトプットしたものを修正することに対しては、異常な抵抗があるように見受けられます。ここでも、令49条2項に追加するだけなら許せても、現行の規定を修正するのは避けたいという態度が透けて見えます。

 といった検討の結果として、住所の扱いとの不整合を受け入れてでも、氏名については『差し支え有りません』で乗り切ることにしよう、としたのではないでしょうか。


 以上、前回も書いたとおり『自販機特例、住所書かなくてよくなったってよ!』と言えばすむところを、あらぬ方向に話を広げるだけの虚無な記事です。
 が、私個人としては、条文イジりのトレーニングとなるので、全く無益ではないはず(と自分に言い聞かせる)。
posted by ウロ at 11:44| Comment(0) | 消費税法

2024年01月08日

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その8) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編43)

 以下、マトモな実務家ならば『自販機特例、住所書かなくてよくなったってよ!』の一言で終わることを、あれこれ難癖つけるだけのやつです。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その7) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編42)


 令和6年度税制改正大綱にて、自販機特例を使う場合に「住所」を記載しなくてよいとの改正案が示された、ということを以下の記事で書きました。

自販機特例の改正(笑) 〜令和6年度税制改正大綱

 要綱に「令和5年10月1日からも書かなくて構わんよ。」と謳われているせいで、Q&Aが爆速で公表されました。

令和6年度税制改正の大綱について(インボイス関連) 令和5年12月22日

 「定額減税」あたりと違って、こんな改正案、誰も反対しないでしょうから、これがそのまま本体の『インボイスQ&A』に組み込まれることになるのでしょう。

 そんな程度のものですら、引っかかりを覚えてしまうのが、ひねくれ者の哀しい性(サガ)。


 下記(その2)に記載したとおり、「住所」がいらない場合が列挙されているのは、「国税庁告示」(R5第26号)です。
 インボイス前は基本通達内に編成されていたものが、改正に伴って単独の告示として括りだされました。

 なので、「住所」を省略するというのであれば、国会審議を待つまでもなく国税庁告示をいじくれば済むだけの話です(もちろん「委任立法」の問題はありますが)。とすると、その他の改正事項よりも先行して改正が反映されることになるのでしょうか。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編37)


 ちなみに、令和5年10月1日より前は住所書かなきゃいけないのか、というと、こちらは旧法時代の「3万円特例」でカバーされています。

 「住所」の記載は、請求書等の保存とのバーターで要求されているものです。その上で、通達・告示に列挙されることによってその要求が解除される、という構造となっています。
 ところが、「3万円特例」だけは、はじめから「住所」の記載が要求されていないという、他の特例とは毛並みが異なるものとなっていました。

 ワナビー達の解説だと、単に「住所いらない」だけで括られがちなところ。ですが、条文構造上は全く異なっていたということです。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編36)


 改正対象である「住所」は、実はどうでもよくって。今回のQ&Aで私が「気持ち悪い」と感じたのが以下のもの。

問.自動販売機で飲料を購入した場合、帳簿に記載する「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」及び「特例の対象となる旨」はどのように記帳すればよいでしょうか。

 帳簿に記載する「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」及び「特例の対象となる旨」は、「自販機」との記載で差し支えありません。
 この記載方法に関する取扱いは、今回の見直し前後で変更はありません。


 先日の記事でも(ゴリゴリの建前を語っています)と仄めかしておいたところであって、結論自体は全く問題ないです。

 ですが、「住所」は改正を入れるというのに、「氏名」はなぜ『差し支えありません』で済まそうとするのか。
 「住所」は、政令で請求書等とのバーターで要求されているものにすぎません。他方で、「氏名」は法律レベルで要求されていることであって。「氏名」を省略するというならば、氏名省略規定である令49条2項も改正するのが筋なんじゃないんですか。

 この、住所と氏名に対するアンバランス感が、どうにも気持ち悪いわけです。

 なお、国税庁が『前からそういう扱いでしたけど?』みたいな言い回しをするの。そういう運用していたことを表立って明言していなかったときに言いがちなセリフな気がします。氏名を省略しても『差し支えありません』と明言しているの、私は今回初めて見ました。
 

 また、氏名記載については運用レベルで無視するくせに、「◯コインランドリー/×コインパーキング」みたいな区別は厳密に運用しようとしているのも気持ち悪いです。

(自動販売機及び自動サービス機の範囲)
1−8−14 規則第26条の6第1号《適格請求書等の交付が著しく困難な課税資産の譲渡等》に規定する「自動販売機又は自動サービス機」とは、課税資産の譲渡等及び代金の収受が自動で行われる機械装置であって、当該機械装置のみにより課税資産の譲渡等が完結するものをいい、例えば、飲食料品の自動販売機のほか、コインロッカーやコインランドリー等がこれに該当する。
(注) 小売店内に設置されたセルフレジなどのように単に代金の精算のみを行うものは、これに該当しないことに留意する。


 確かに、「自動販売機又は自動サービス機」という文言からすれば、「機械のみで資産の譲渡が完結するもの」と理解するのが素直に思えます。
 が、「氏名」ルールをガン無視するという前科をおかしておきながら、なぜ「完結」ルールだけは忠実に文言に従おうとするのか。

 そもそもの話、コインランドリーとコインパーキングとで、インボイス発行の「困難さ」にどのような有意差があるというのでしょうか。コインランドリーが困難だというならば、コインパーキングだって困難でしょうよ。

 また、たとえばですけど、コインランドリーで洗濯・乾燥するのに、利用者が洗濯機から乾燥機に洗濯物を移さなければならない場合は「完結」ルールを満たさないということになりはしないでしょうか。利用者の行為は資産の譲渡に組み込まれないというならば、コインパーキングにおける駐車行為も組み込まれないことになるのでは。
 あるいは、コインパーキングも、ゲートを上げるための料金だけをもらっているということにすれば、「完結」ルールを満たすということでいいんですか(これらはもちろん難癖です)。

 この区別を支えているのは、唯一文言のみですよね。実質的な根拠は何もない。
 もし何かしら区別をするのだとしたら「売手がその場にいない(のでインボイス出せない)」くらいじゃないですかね。

 いずれにしても、「氏名」ルールをガン無視できる度胸を、「完結」ルールでも発揮してくれればいいじゃないですか。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その9) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編44)
posted by ウロ at 10:25| Comment(0) | 消費税法

2024年01月01日

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その7) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編42)

 インボイスの前後に渡って、《請求書いらない特例》の条文イジりをしたことには、それなりの意図がありまして。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その6) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編41)

 一般的には、「請求書等」として要求されるものが、区分記載請求書から適格請求書に変更されたことにより、仕入税額控除が認められる範囲が限定されたと理解されています。し、当ブログにおいてもそのように表現をしている箇所があります。

 が、仕入税額控除厳格化の本体は、表向きの《原則ルール》にあるのではなく。《例外ルール》である「やむを得ない理由」が「困難な場合」に変更されたことにある、というのが私の見立てです。

 インボイス制度に対する評価として、「単に登録番号と税額を追加するだけなのに、騒ぎすぎ!ウケる〜!」みたいな意見を聞くこともあります。
 それは《原則ルール》のかぎりではそのとおりです。「区分記載請求書方式」が、インボイス移行ツールとして優れていたと評価することができるでしょうか。


 ですが、《例外ルール》まで視野に入れると、そんなお気楽なものではないことが分かります。

 というか、今まで我々実務家は、あまりにも「やむを得ない理由」に依存しきっていたのかもしれません。せっかく運営が「区分記載請求書方式」を挟んでくれたというのに、「やむを得ない理由」に甘えることで請求書の保存を真面目に実施していなかったと。

 レベル0 請求書いらない(超ゆるい)
 レベル1 請求書(ゆるい)     orやむを得ない理由(ゆるい)
 レベル2 区分記載請求書(きつい) orやむを得ない理由(ゆるい)
 レベル10 適格請求書(かなりきつい)or困難な場合(超きつい)


 だらけきった実務家により生み出されていた益税を、困難な場合の限定列挙化により撲滅できてめでたしめでたし(皮肉)。原則ルールのほうは「区分記載請求書」という移行ツールを挟んでくれたのに、例外ルールについては移行ツールを挟まずにいきなり厳格化したせいで、ついていけなくなっているだけの話だと。


 税法学者からしても、通達に規定されっぱなしの「やむを得ない理由」を、政令・省令で「困難な場合」として明確化したことは『租税法律主義』『課税法規の明確性』『法的安定性』の観点から正しい、とか言い出しそうですし。
 特に件の教科書の著者あたりが、「仕入税額控除が『請求権』として明確化された!」とか言いそう(冷笑)。

 もちろん、税法ルールを明確化すること、それ自体は望ましいことです。が、消費税法における仕入税額控除制度を厳格化することには、他の制度とは異なる特有の問題があります。

 それは、本ブログでも再三指摘してきた「損税」発生問題。

 件の教科書をはじめとして、現実の消費税法の仕組みを無視した論者がよくいうのが『消費税は税額転嫁と仕入税額控除の両輪により駆動する仕組みの税』などという妄言。
 
 免税事業者Requiem(第3曲) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編29)

 しかしながら、現実には売上側は問答無用の譲渡課税、他方で仕入側は厳格化したインボイス控除と、まったく異なる原理で作動しています。

  売上課税:問答無用の譲渡課税    (超広い)
  仕入控除:帳簿+請求書 or困難な場合(超狭い)


 課税側は譲渡があれば問答無用で課税されるくせに、仕入側は限定的にしか控除されません。
 相互の連動ということでいうと、

  ◯ 課税されないなら控除されない(=控除するなら必ず課税されるべき)

と、控除が課税よりもはみ出さない方向でのみ連動し、

  × 控除されないなら課税されない(=課税するなら必ず控除されるべき)

と、課税が控除よりもはみ出さない方向では連動しません。
 控除縮小(課税拡大)の方向でのみ、一方通行で連動することになっています。その結果、インボイス制度のもとではひたすら「損税」が生じることとなります。

 これがインボイス前であれば、

  売上課税:問答無用の譲渡課税       (超広い)
  仕入控除:帳簿+請求書 orやむを得ない理由(わりと緩い)


と、売上側と仕入側とがほどよくバランスが取れていました。インボイス前の制度は、損税が大量発生するくらいなら一部益税の発生を受け入れるものだったと評価することができます。

 これに対してインボイス後は、「売手:免税事業者」の益税を撲滅できるならば、それ以外の場面でどれだけ損税が発生してもお構いなし、という制度に仕上がっています。
 ここで、益税をわざわざ「売手:免税事業者の場合の」と限定するのは、《インボイスいらない特例》によって、特定業種の益税は積極的に容認しているからです。現行制度は、同じ益税の中でも、許せない益税と許せる益税とがあるという価値判断を前提に組み立てられてしまっています。インボイス推進派の方々がノセられてしまっている「益税絶許!!」というプロパガンダとは、まるで様相が異なる。

 現行制度は、特定場面の益税だけを撲滅しただけであり、かつ新たな損税を生み出しているわけで。真面目に《課税=控除》を実現するつもりがあるとは、とても思えません。


 こういった制度全体の構造理解というもの、税法分野では正面切って展開されていません。憲法論から始まる抽象概念論と、裁判で問題となった個別論点に関心が集中しがちで。その真ん中が手薄すぎる。

 そのせいで、『課税と控除は一致させるべき』という抽象的なお題目から、一気に仕入税額控除を厳格化するという個別制度の実現へと到達してしまう有様なのでしょう。
 仕入側だけを厳格化するだけで《課税=控除》を実現できたつもりになってしまい、売上側との規律に不整合が生じないかといったことを検討しないで済ませてしまっています。

 このような検討作業、件の教科書のような消費税法全体を記述した書籍などでこそ展開すべきものだと思うのですが。残念ながら『消費税は税額転嫁と仕入税額控除の両輪により駆動する仕組みの税』などという妄言をのたまうだけで、現実に両輪駆動が機能しているかを検証することもありません。

 現実には、一方のタイヤはスポンジ製、他方のタイヤは鉄製でできていて、およそ真っ直ぐ進まない出来上がりですよ。


 なお、《例外ルール》のほうを本体とみることに対しては、違和感のある方もいるかもしれません。が、法学における《原則/例外モデル》の欺瞞っぷりについては、すでに何度か指摘してきたとおりです。

【原則/例外モデル批判】
からくりサーカス租税法 〜文言解釈VS趣旨解釈、そして借用概念論へ
さよなら「権利確定主義」(その1) 〜事業所得と給与所得
未払決算賞与の損金算入時期と、なんちゃって私法準拠の弊害

 「例外は文字通り例外的に考慮するだけですよ。」と言いながら、バックグラウンドでは常に例外ルールを走らせている例の所作のことです。

 実務への現実的な影響のデカさという観点からすると、表向きの「区分記載請求書→適格請求書」の変更は単なる目眩ましで。実体(実態)は《請求書いらない特例》を厳格化・特権化することに主眼があったのではないか、と思わざるをえません。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その8) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編43)
posted by ウロ at 10:37| Comment(0) | 消費税法

2023年12月25日

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その6) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編41)

 あいだを開けてしまいましたが。
 前回は、「特定課税仕入」についての《インボイスいらない特例》の条文構造を検討しました。通常の課税仕入とは違って、条文構造上は特に問題はないと。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その5) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編40)

 今回は、ではなぜ「特定課税仕入」の場合にインボイスがいらないとされているか、について検討します。

【電気通信利用役務の提供とインボイス】
電気通信利用役務の提供の構造1 〜消費税法の理論構造(種蒔き編13)
電気通信利用役務の提供の構造2 〜消費税法の理論構造(種蒔き編14)
偽装リバースチャージとしてのインボイス制度 〜消費税法の理論構造(種蒔き編15)


 前回述べたとおり、そもそも「特定資産の譲渡」を行っても、売手にはインボイスを発行する権利も義務もありません。
 仮に、売手が「消費者向け」も提供しているということでたまたま「適格者」になっていたとしても、です。「事業者向け」を提供する際には、インボイスを発行する義務がないどころか、親切心でインボイスみたいな何かを発行することもできません。
 買手に対して「テメエで納付しろや!」と通知する義務があるだけ。

 ゆえに、インボイスを発行する/しないという選択肢がそもそも存在しません。
 「形式論」としてはここでお終いなのですが、以下、もう少し実質に踏み込んで検討してみましょう。


 国内仕入に関する厳格形式主義に鑑みれば、特定課税仕入についても、インボイスの代わりに何かしらの「控除証明書」を発行する義務を売手に課す、ということも考えられます。

 が、買手にとって、売手の代わりに「課税」させられるのに、売手から証明書をもらえないせいで「控除」のほうはできないとしたら、さすがに理不尽だとバレてしまいます。

 【悪魔合体(リバースチャージ+インボイス制度)】
   売上:国外事業者の代わりにお前が納付しろよ
   仕入:インボイスをもらえなければ控除はさせないよ

 なので、「特定課税仕入」については何らの書類を要せずに控除できることとしたのでしょう。インボイスがなくても、控除する買手自身が課税されているのであって、《課税=控除》は確保されていることになります。

 【真正(神聖)リバースチャージ】
   売上:問答無用の仕入課税
   仕入:問答無用の仕入控除
  
 課税と控除が一致する、美しい世界線が実現されています。
 

 このことが正当化できるというならば、国内仕入において「非適格者である課税事業者」(以下、「非適格者(課税)」といいます)からの仕入が税額控除できないのは、なぜなのでしょうか(「適格者」がインボイスを発行してくれないとか間違ったインボイスを発行する場合も同じです)。

 【売手:非適格者(課税)×買手:課税事業者(本則)】
   売上:問答無用の譲渡課税
   仕入:インボイスがないから控除不可

 この場面でも、売手:非適格者(課税)は譲渡課税されています。のに、買手側は税額控除できません。課税/控除の主体が分属されているだけで、控除できないと「損税」が発生してしまう、という損益状況は「特定課税仕入」の場合と全く一緒です。

 損益状況が全く同じなのに、主体が別人になった途端、《許せる損税》になってしまうという不可思議現象。

  免税事業者の益税      ←絶許!!!!
  特定課税仕入による損税   ←よくないよね。
  非適格者(課税)による損税 ←(無言)・・。


 リバースチャージにおいては、譲渡にかかる税額も仕入にかかる税額も、「買手」側で計算することになっています。

 インボイス推進派の方々の中には、インボイス制度を説明するにあたって『売手だけが正しい税額を計算することができる、インボイスは「控除証明書」である、なので買手が勝手に書き換えることは許されない。』というような感じのことを宣わっている方もいます。
 が、リバースチャージでは「買手」が税額計算をすることになっているわけで、そのような前提は存在しません。

 そもそも、売手がインボイスの税率や税額を間違えて記載していた場合には、買手が税務処理の修正を余儀なくされます。買手は、売手作成のインボイスを鵜呑みにして自社の処理をすることが許されていません。

  法令 = 売手のインボイス = 買手の税務処理  ←控除できる

の場合だけ、めでたく税額控除ができ、

  法令 ≠ 売手のインボイス = 買手の税務処理  ←控除できない

と、売手の間違ったインボイスを鵜呑みにして買手が処理した場合には、控除ができないことになっています。売手作成のインボイス記載事項は、買手にとって単なる参考事項にすぎず、その内容が正しいかどうかは自分で判断しなければなりません。

 民法でいうところの《公信力》や行政法でいうところの《公定力》みたいなものは、インボイスには備わっていないということです。
 買手はインボイスの記載を信じて処理してよい、間違いがあった場合は売手と課税庁との問題として処理する、というような制度にはなっていないのであって。とてもじゃないが「控除証明書」なんてご立派なものではない。

 「課税と控除が両輪駆動する」とか「重低音がバクチクする」みたいな、現代なら「※イメージです。実際の商品とは異なります。」と注意書きが挿入される感じの宣伝文句。


 という具合で、「リバースチャージ」だけが、現行消費税法の中で純粋に《課税=控除》を実現できる唯一絶対の領域だ、と思ったのですが。

 残念ながら「用途区分」という貧乏神(from桃鉄)の存在により、リバースチャージですら、控除額が削られることになっています。

  【悪魔合体(リバースチャージ+用途区分)】
   仕入:国外事業者の代わりにお前が納付しろよ
   仕入:非課税対応なら控除させないよ

 上記でリバースチャージに「真正(神聖)」という修飾を加えたのは、「用途区分」に侵食されない綺麗な状態に限り、という限定を加える趣旨からです。

 もはや、現行消費税法の中に、混じり気のない《課税=控除》が実現できる理想郷は存在しないのかもしれません。
 「輸入消費税」は無事か?、とも一瞬考えたのですが、これも「用途区分」の支配下にありました。輸入消費税として直接お国にお納めしているにもかかわらず、非課税対応分は控除できないことになっています。

  【悪魔合体(輸入消費税+用途区分)】
   仕入:問答無用の輸入課税
   仕入:非課税対応なら控除させないよ

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その7) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編42)
posted by ウロ at 11:29| Comment(0) | 消費税法