2023年02月06日

益税・損税・二重課税1 〜消費税法の理論構造(種蒔き編17)

 sin(サイン)、cos(コサイン)、tan(タンジェント)

て感じで声出ししてもらえれば幸いです。

 消費税法に関する一連の記事。都度都度考えながら作成しているので、揺れがあるような気がします。
 ということで、あらためて問題点を整理しておきます。

空想消費税法 vs 条文消費税法 〜消費税法の理論構造(種蒔き編16)


 まず、「益税」と言われているものについて。

【事例1】(インボイス前)
 A(免税事業者):
  Bに対して、本体80000に消費税名目で8000をのせて売った。
 B(課税事業者);
  消費者に対して、本体100000に消費税名目で10000をのせて売った。
 C(消費者):
  Bから110000で買った。


 Aは、免税事業者のため消費税を納付しません(以下、法人税は考慮外とします)。
 Bは、10000から8000を控除した2000を消費税として納付します。
 結果、消費者が負担したはずの消費税10000のうち8000が国に流れてこないことになります。

 この、Aが8000を納付しないことをもって、「益税」「Aは消費税を着服している」などとして批判の対象とされていたわけです。
 このかぎりでは、至極ごもっともな主張のように思えます。

 では、次のような事例ではどうでしょうか。

【事例2】(インボイス前)
 A(免税事業者):
  本来は税込88000で売りたかったが、Bがどうしても80000しか出せないというので、消費税額相当分を値引きして売った。
 B(課税事業者):
  消費者に対して、本体100000に消費税名目で10000をのせて売った。
 C(消費者):
  Bから110000で買った。


 Aは、免税事業者のため消費税を納付しません。
 Bは、10000から7272(80000×10/110)を控除した2728を消費税として納付します。
 結果、消費者が負担したはずの消費税10000のうち7272が国に流れてこないことになります。

 さて、この事例では一体誰が消費税を着服しているのでしょうか。
 【事例1】との比較でいうならば、Bが着服しているといえるのではないでしょうか。

 では、Aが「課税事業者」だったらどうなるでしょうか。
 まずは通常の事例から。

【事例3】(インボイス前)
 A(課税事業者):
  Bに対して、本体80000に消費税名目で8000をのせて売った。
 B(課税事業者):
  消費者に対して、本体100000に消費税名目で10000をのせて売った。
 C(消費者):
  Bから110000で買った。


 Aは8000を消費税として納税します。
 Bは10000から8000を控除した2000を消費税として納税します。
 結果、国には10000(8000+2000)が消費税として流れてくることになります。

 では、次の事例はどうでしょうか。 

【事例4】(インボイス前)
 A(課税事業者):
  本来は本体80000に消費税8000をのせて売りたかったが、Bがどうしても80000しか出せないというので、消費税分値引きして売った。
 B(課税事業者):
  消費者に対して、本体100000に消費税名目で10000をのせて売った。
 C(消費者):
  Bから110000で買った。


 Aは課税事業者のため、Bから消費税をもらったつもりはないのに、消費税相当額7272(80000×10/110)を納税しなければなりません。Aが消費税としてもらった(つもりか)どうかとは関わりなく、課税事業者が課税売上をあげた以上は問答無用で課税されることになります。
 Bは、10000から7272を控除した2728を消費税として納税します。

 結果、国には、消費者が負担した10000(7272+2728)が流れてくることになります。

 【事例3】と【事例4】の違いは、AとBとの利益状況が異なるという点にあります。他方で、国にとっては消費税10000を満額回収できているため、いずれでも構わないことになります。


 【事例1】と【事例2】との対比からいえることは、「益税」とはいっても当然に免税事業者だけが「益」を得ているとは限らないということです。
 消費者の負担した消費税10000が満額国に流れてこないのだとして。それを誰が着服しているかは、もっぱらABCの力関係によって変わってくるものです。

 また、【事例3】と【事例4】からすると、同じことは課税事業者同士であっても起こるということです。課税事業者間の取引だからといって、綺麗に消費税が転嫁されていくとは限りません。

 これらのことからすると、益税が不当だとして批判すべきなのは、【事例1】のAと【事例2】のBであって、【事例2】のAは何ら非難に値しないのではないでしょうか。

 さらにいえば、【事例1】のAにしても、Aの認識としては、88000が適正な本体価格であり免税事業者だから別途消費税はもらっていない、と考えていたかもしれません。消費税名目で8000をのせたというのも、Bの要請に従ってそのように表示させられただけかもしれません。

 仮にこれらの場面を規制したいのだとしても、
 ・免税事業者が消費税名目で請求する(あるいは請求させる)ことを禁止する
 ・免税事業者が消費税名目で請求したら(させたら)課税する(加算税的なものとして)
というルールを導入しておけば十分なはずです。

 ところが、実際には「インボイス制度」を導入するという遣り口によって、益税を滅することとなりました。


 ということで、インボイス後の帰結について、まずは通常の事例から。

【事例5】(インボイス後)
 A(非適格・免税事業者):
  Bに88000で売った。
 B(適格・課税事業者):
  Aから88000で仕入れて消費者に110000で売った。
 C(消費者):
  Bから110000で買った。


 Aは、免税事業者のため消費税を納付しません。
 Bは、消費者からもらった10000を消費税として納税します。Aが非適格なので控除はできません。
 結果、消費者の負担した消費税10000が、正しく国に流れてくることとなります。

 インボイス前はAが着服していた8000について、インボイス後はBに控除させないというかたちで国に流れてくることとしたわけです。
 国に10000流れてくることそれ自体はいいとして。その手段として、Aに8000を吐き出させるのではなく、Bの控除を否定するというかたちで実現するのが正当なのかどうか。

 なお、以下の事例も含めて、事例の中にBが「適格事業者」であることを記載していますが、B自身が「適格事業者」であることは全く何の影響もありません。

 次は値引き事例です。

【事例6】(インボイス後)
 A(非適格・免税事業者):
  本来は88000で売りたかったが、Bから値引きを要請されて80000で売ることになった。
 B(適格・課税事業者):
  Aから80000で仕入れて消費者に110000で売った。
 C(消費者):
  Bから110000で買った。


 Aは、免税事業者のため消費税を納付しません。
 Bは、消費者からもらった10000を消費税として納税します。Aが非適格なので控除はできません。
 結果、消費者の負担した消費税10000が、正しく国に流れてくることとなります。

 Bとしては自社の利益を確保しなければならないため、Aに消費税相当額の値下げを要求することになります。
 お国のほうでは「当事者でよく話し合って決めてね」などと言っていますが、現実的には【事例6】のように値下げとなるのがほとんどではないでしょうか。


 【事例5】と【事例6】とを比べると、いずれも消費者の負担した消費税10000を、国が満額回収できていることになっています。このかぎりではいかにも正当な制度のように思えます。

 が、国が税収を確保したことのしわ寄せとして、ABが完全なゼロサムゲームに突入させられることになっています。国が負担しなくなった部分につき、AとBとのいずれが負担するかの争いが始まったということです。
 さらにいえば、消費者をも巻き込んだ三つ巴ということになるでしょう。

 長くなったので、次回「損税」の話から続けます。
posted by ウロ at 10:10| Comment(0) | 消費税法

2023年01月30日

空想消費税法 vs 条文消費税法 〜消費税法の理論構造(種蒔き編16)

 現実の消費税法をどこまでガン無視すれば、『インボイスさえあれば「消費者向け/事業者向け」を区別できる』(以下《向けテーゼ》といいます。)ようになるか、少し考えてみます。

偽装リバースチャージとしてのインボイス制度 〜消費税法の理論構造(種蒔き編15)

 念のため。あくまでも、どうすれば《向けテーゼ》をインボイス制度に組み込むことができるか、というただの思考実験にすぎません。立法論として本気で提唱しているわけではありません。


 インボイス制度を《事業取引参加許可証》のようなものとして設計してみたらどうでしょうか。
 単に、売上側がインボイスを発行できるようにするためだけの、ショボい制度ではなく。

 この制度のもとにおける消費税法の基本構造は、次の通りとなります。

A 売上側は、あいかわらず「問答無用の譲渡課税」のまま。
B 「非適格者」からの仕入は仕入税額控除できない。
C 仕入側が「非適格者」の場合も仕入税額控除できない。

 というように、仕入側が適格事業者であることも、仕入税額控除の要件として要求することとします(ここでいう「非適格者」というのは、インボイス非登録の事業者と消費者を含む造語です)。

 「消費者向け/事業者向け」はどこにいったのかというと、「仕入側が適格事業者かどうかで仕入税額控除の適否が決まる」というところです。

 ・仕入側が適格者(事業者向け) →仕入税額控除できる
 ・仕入側が非適格者(消費者向け) →仕入税額控除できない
 
 サービスの性質で区別するのではなく、仕入側が適格事業者かどうかで区別するんだと。こういう扱いにしてはじめて、《向けテーゼ》が機能することになるはずです。

 現実の制度では、売上側がインボイス登録しないと仕入側が損する、という《他罰的》な制度となっています。に対して、本制度では仕入側が登録しなければ仕入側自身が損する制度として機能させることにできます。

 リバースチャージについては、『課税したいが国外事業者から徴収するのしんどい。』という、執行実務上のご都合から出てくるものだと思うので、一旦脇におきます。
 

 結果、仕入税額控除ができるのは、「適格者→適格者」のパターンのみとなります。

   売上側  仕入側
 ア 適格者 →適格者  ○
 イ 適格者 →非適格者 ×
 ウ 非適格者→適格者  ×
 エ 非適格者→非適格者 ×

 現実の制度と大きくズレるのはイかと思います。売上側がインボイスを発行しても仕入側が非適格者なら仕入税額控除できないことになるので。
 非適格者は事業取引に参加する資格がない者として扱われるので、仕入税額控除の適用を受けることはできないとすることになります。

 なお「免税事業者」については、上記ルールのもとでは、仕入側が非適格者であれば仕入税額控除が全面否定となります。そのため、売上側の問答無用課税を9条で免除しておくだけで足り、仕入側は30条に免税事業者用の除外規定を設ける必要はないこととなります。
 仕入税額控除の上記ルール(適→適のみ控除可)を普通に適用すれば、免税事業者は勝手に排除されるということです。


 「リバースチャージ」については、
  ・売上側が適格者なら自分で納税させよう。
  ・仕入側が非適格者なのに納税義務を転換するのはかわいそう。
ということで、「ウ 非適格者→適格者」の場合に採用の余地があります。

 現実の制度では、サービスの性質から「消費者向け/事業者向け」を区別した上で、消費者向けは「登録者/非登録者」で扱いを変える、事業者向けはリバースチャージを適用する、と二段階で判断することになっています。に対して、ここでは、「適格者/非適格者」の組み合わせのみから判断することとしています。

 上記ルールでは、ウは仕入税額控除ができないこととしましたが、リバースチャージを採用するならば仕入税額控除もできることとしなければならないでしょう。現実の制度でも、「特定課税仕入」はインボイスの有無にかかわらず控除できることとなっているところですし。
 要するに、インボイスがあろうがなかろうが、徴収するなら控除もさせるべきということです。「控除なき課税」(損税)を積極的に産み出していくインボイスとは、コンセプトが全く異なります。


 以上、妄想を全面展開してみました。

 もちろんこんなもの、現実の消費税法の規律からはどうしようもなくかけ離れているわけです。が、インボイスを「消費者向け/事業者向け」を区別するものとして機能させるためには、これくらいぶっ飛ばないと無理なはずです。
 実際に、例の教科書が、ここまでのド妄想を抱きながら《向けテーゼ》を主張をされたとは思えません。が、その真意は、野良税理士にはとても想像の及ばない領域です。

 妄想とはいいつつも、今回のインボイス制度より先の、課税当局側の将来構想の中には、これほどまでに課税ベースが肥大化した姿があってもおかしくない、とは思っています。
 売上側で納税する消費税を仕入側が控除できなくても構わない、という制度を許容してしまった時点で、売上側は課税対象を広げつつ仕入側は控除対象を狭める、という方向に進めることに対する歯止めはなくなりました。
 インボイス前の制度は、あくまでも小規模事業者を保護するかぎりでの不一致(益税)を許容していたに過ぎません。ところが、インボイス後は、根拠不明の損税が正面から導入されてしまいました。

【なぜなのか?】
 ・仕入控除ルールの中の売上側と仕入側
  →一致していなければならない(控除できるのは納税したものだけ)
 ・売上課税ルールと仕入控除ルール
  →不一致でも構わない(控除できなくても課税してよい)
 

 ここは意地でも、それぞれのルールはいずれも一致していなければならない、という原則は維持しておくべきでした。
 こういった原理論的な主張は、本来学者先生の役割なはずなんですけど。例の教科書をはじめとして、そのあたりに対して、あまりに無頓着ではないかというのが私の所感。

 「益税滅ぶべし」「諸外国に倣うべし」というプロパガンダに惑わされて、大事なものを失ってしまったように思えて仕方がない。

益税・損税・二重課税1 〜消費税法の理論構造(種蒔き編17)
posted by ウロ at 10:09| Comment(0) | 消費税法

2023年01月23日

必要経費 vs 家事費・家事関連費

 消費税法の連作記事、もう少し続くのですが、こちらは時期もの(風物詩)なので先出ししておきます。

 巷に溢れる「生活費を必要経費に突っ込もう」的な話。非税理士によるお役立ち記事にしばしば見られるのですが、なかなか危ういことまで書いてあったりします。

 本ブログでは、家事費・家事関連費の規律について、例によって条文の確認だけしておきます。


 まず、所得税法から。

法第四十五条(家事関連費等の必要経費不算入等)
1 居住者が支出し又は納付する次に掲げるものの額は、その者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入しない。
一 家事上の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるもの


 法レベルでは、次のものが必要経費不算入とされています。

【必要経費にできないもの】
 ○家事上の経費(家事費)
 ○これに関連する経費で政令で定めるもの(家事関連費)

 次に、法にいう「政令で定めるもの」の中身。

令第九十六条(家事関連費)
 法第四十五条第一項第一号(必要経費とされない家事関連費)に規定する政令で定める経費は、次に掲げる経費以外の経費とする。
一 家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費
二 前号に掲げるもののほか、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者に係る家事上の経費に関連する経費のうち、取引の記録等に基づいて、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であつたことが明らかにされる部分の金額に相当する経費


 「不算入となる経費は○○以外の経費」という否定語重ねがけがしんどいですが、その内容は次の通りとなります。

【必要経費にならないとされないもの】
 1号
  @主たる部分が業務の遂行上必要で、
  A必要である部分を明らかに区分できる場合の必要部分
 2号(青色申告)
  @業務の遂行上直接必要で、
  A必要であったことが明らかにされる部分の必要部分

 「ならないとされないもの」などという、もってまわった表現をしたのは、法45条→令96条のラインは、(必要経費ではない)家事関連費に当たるかどうかしか書かれていないからです。
 家事関連費に当たらないからといって、当然に必要経費にあたるのではなく。別途、法37条によって判断する必要があります。

  家事関連費である=必要経費でない
  家事関連費でない≠必要経費である

法第三十七条(必要経費)
1 その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに雑所得の金額のうち第三十五条第三項(公的年金等の定義)に規定する公的年金等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。



 話を戻して令96条の規律。

 2号が青色申告専用の緩和規定なので、1号は事実上白色申告のみに適用されるということになります。

 1号と2号の大きな違いは、1号で要求されている「主たる部分」というものが、2号では要求されていないことです。
 その他にも、1号では「区分」が要求されている、2号では「直接」が要求されている、といった違いがあるのですが、このあたりについてはきちんと解説されているものを見かけたことがありません(私個人の観測範囲)。
 以下で触れる通達の規律も含めて「青色/白色で結局同じようなもの」と大雑把にまとめられてしまうことがほとんど。わざわざ1号2号で異なった表現をしている以上、違った意味を持たされていると思うのですが、どうなんでしょうか。

 このような疑問はあるものの、さしあたり「主たる部分」以外は同じ意味だとすると、令96条の規律は、

ア 白色の場合は「主たる部分」が必要でなければ、明らかに区分できる場合でもだめ。
イ 白色/青色いずれでも、単に業務の遂行上必要なだけではだめで、明らかに区分できる/明らかにされることが要求されている。

ということになります。

 イは、まあそうだよねという感じですが、アの「主たるルール」の根拠が不明ですよね。
 1ヶ月のうち1週間だけ電話を仕事に使ったことが明らか、という場合でも「主たる部分」が業務用でないから全額家事関連費扱い、というのはやり過ぎでしょう。


 ということで、通達の出番となります。

通45−1(主たる部分等の判定等)
 令第96条第1号《家事関連費》に規定する「主たる部分」又は同条第2号に規定する「業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分」は、業務の内容、経費の内容、家族及び使用人の構成、店舗併用の家屋その他の資産の利用状況等を総合勘案して判定する。

通45−2(業務の遂行上必要な部分)
 令第96条第1号に規定する「主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要」であるかどうかは、その支出する金額のうち当該業務の遂行上必要な部分が50%を超えるかどうかにより判定するものとする。ただし、当該必要な部分の金額が50%以下であっても、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には、当該必要である部分に相当する金額を必要経費に算入して差し支えない。


 通45-1は判定要素を列挙しているだけだからまあいいとして。
 問題は通45-2。1号を次の通り読み替えています。

 A 必要な部分が50%超なら、「主たる部分」だと扱ってしまおう。
 B 必要な部分が50%以下でも、その部分を明らかに区分できるなら必要経費に算入してもいい。

 Aのほうは、通45-1のように種々の要素を総合勘案するのはしんどいから数値で割り切ってしまおう、ということで、これはいかにも通達らしい合理的な遣り口かと思います。

 に対してB。

 1号に該当して家事関連費にあたらないからといって、当然に必要経費になるわけではない、ということは前述したとおりです。なので、1号の読み替えだけすませて必要経費算入OKという結論までいくのは、厳密には正しくない。
 が、業務の遂行上必要かを判断する中で、家事関連費でないことと同時に必要経費であることも判断しているはずです。ので、この点はそこまで問題にはならないかと(逆に言うと、必要経費と切り分けて家事費・家事関連費などという概念を設ける意味があるのか、ということでもあります)。

 より問題なのは、令が要求している「@主たる部分」という要件を不要なものにしてしまっているところです。
 もちろん、結論的には通達の読み替えのほうが妥当だと思います。だからといって、通達レベルで無邪気に「反制定令解釈」をカマしてもいいわけではない。

 まあ、実務上は「ちゃんと区分できているんだから、必要部分が主たる部分じゃなくても文句を言われる筋合いはない」と主張することになるでしょうが。


 「A区分要件」のほうは通達によってもそのまま維持されています。

 とすると、たとえば業務割合が少なくとも70%はあるというところまで分かっていたとしても、家事部分と「明らかに区分」できなければ1号の要件は満たせない、というのが素直な文言解釈ということになります。もしかしたら75%かもしれないし80%かもしれない、では「明らかに区分」できていないと。
 私には、こちらも「主要な部分」を要求するのと同様に妥当でないと感じるのですが。

 1号では文言解釈上無理だとして。
 2号のほうは「区分」が要求されていないということで、70%までは明らかになっているから2号の要件は満たせる、と解釈することはできるでしょうか。1号と2号の言い回しの違いはここに生きてくるんだと。

「少なくとも70%は必要である」
 →1号 不要な部分と区分できていない
 →2号 70%必要であることは明らか

 そもそもですが、「明らか」とか「区分」などというのは立証レベルに位置づけるべきものであって(間接事実?)、実体要件(主要事実)として要求すべきものではないように思えます。
 実体要件としては、必要経費の要件として「業務の遂行上必要」だけ要求しておけばよいのではないでしょうか(37条に解釈いれてます)。区分できていないというのは、業務の遂行上必要といえないことの一判断要素なんだと。

 このあたり、本当は「立証責任の分配」に気をつけて記述する必要があるところです。が、そもそもの条文の組み立てが、
 ・必要経費の規定とは別に、必要経費とされない家事費、家事関連費の規定も設けている。
 ・家事関連費を否定語の重ねがけで記述する。
と、あまり上手くない規律の仕方になっています。

 この手の、表/裏、肯定/否定などがちゃんと整理されていない条文に出くわすと、要件事実論、バグを起こしがち。そのため、ここの条文をベースにして立証責任の分配について何事かを語るのが難しい。ので、この点については脇においておきます。

 もし、必要経費について《要件事実論的思考》を展開したいのならば、単純に37条と45条(+令96条)を並べるだけでは足りず。その構造を正確に理解した上で組み換えをする必要があるのだと思います。

「生活に通常必要な動産」で「生活に通常必要でない動産」
サラリーマンマイカー訴訟 〜生活に通常必要でも必要でなくもない資産
伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)


 いずれしても、「A区分要件」は条文上正面から要求されているところであり、通達も捻じ曲げてくれていないので、実体要件として扱わざるをえません。そして、2号(青色)の場合も区分しなきゃいけないみたいな言い方をされるのが一般的です。

 ということで、実務家としてのアドバイスは、「ちゃんと区分しておきましょう」という、かなり後退したみっともないものにとどまります。
posted by ウロ at 10:27| Comment(0) | 所得税法

2023年01月16日

偽装リバースチャージとしてのインボイス制度 〜消費税法の理論構造(種蒔き編15)

 インボイス施行前後の「電気通信利用役務の提供」の条文構造について、整理をしておきます。

電気通信利用役務の提供の構造1 〜消費税法の理論構造(種蒔き編13)
電気通信利用役務の提供の構造2 〜消費税法の理論構造(種蒔き編14)

《インボイス前》
 ・消費者向け
  売上側 課税標準 課税資産の譲渡等(消費税額相当額除く) ×7.8
  仕入側 税額控除 課税仕入(消費税額相当額含む) ×7.8/110
  仕入側 経過措置 控除なし。ただし登録国外事業者からの仕入なら控除あり。

 ・事業者向け
  仕入側 課税標準 特定課税仕入(消費税なし) ×7.8
  仕入側 税額控除 特定課税仕入(消費税なし) ×7.8/100
  仕入側 経過措置 課税売上割合95%以上なら特定課税仕入なし

《インボイス後》
 ・消費者向け
  売上側 課税標準 課税資産の譲渡等(消費税額相当額除く) ×7.8
  仕入側 税額控除 インボイス記載の消費税額

 ・事業者向け
  仕入側 課税標準 特定課税仕入(消費税なし) ×7.8
  仕入側 税額控除 特定課税仕入(消費税なし) ×7.8/100
  仕入側 経過措置 課税売上割合95%以上なら特定課税仕入なし

 便宜上、同じ形で並べてあります。が、「消費者向け」は売上側に適用されるルールと仕入側に適用されるルールがあるのに対し、「事業者向け」は全て仕入側に適用されるルールとなっています。

 インボイス施行前後で変わったところはというと、消費者向けの登録国外事業者制度がインボイス制度に吸収されたというだけで、実質は何も変わっていません。
 ガワだけをみて「吸収」と表現していますが、消費者向けの登録制度が先行スタートしていて、それに一般の国内課税仕入も追いついた、というほうが正確かもしれません。


 なぜ、事業者向けはインボイス制度に吸収せず、リバースチャージ方式を残したのでしょうか。

 リバースチャージ方式による場合に税収が増えるとしたら、「控除対象外消費税」が生じることによるおこぼれを狙うくらいしかない。
 に対して、《偽装リバースチャージ》としてのインボイス制度を適用してしまえば、「控除対象外消費税」によるおこぼれだけでなく、「インボイス漏れ」によるおこぼれも拾えたはずです。
 加えて、幸運にも国外事業者が素直に納付でもしてくれれば、さらなる税収アップも見込めるわけですし。

 リバースチャージ:
  どうせ国外事業者が納税しないなら、仕入側に(控除と同時に)納税させよう。
 インボイス:
  どうせ国外事業者が納税しないなら、仕入側の控除を否定しよう。

 事業者向けもインボイス制度に統合してしまえば、仕入に課税しつつ仕入税額を控除するなんて制度もなくなるし、輸入仕入も含めてインボイス記載の消費税額を控除する制度に一元化できるわけです。
 結果、売上側の譲渡課税と仕入側のインボイス控除とで、きれいに分断ができることになります(二元的消費税法の完成)。「電気通信利用役務の提供」に関する規律としては、「内外判定」の特別ルールが残るだけとなります。


 現状の「登録国外事業者登録制度」の登録状況から鑑みるに、真面目に登録する国外事業者なんてほとんどいないのではないでしょうか。そのような状況で「事業者向け」にもインボイスを導入してしまえば、「控除なき課税(損税)」が増えるじゃんラッキー、と思いきや。

 モノとは違って税関を通るわけではないので、現実的にみて、国外事業者に対する徴収可能性は極めて低いのでしょう。ので、国外事業者からの納税などは期待せずに、国内の仕入側に手間を負わせるにとどめたのかもしれません。

 他方で、消費者向けについては、さすがに消費者に手間を掛けさせるわけにはいかないからということで、頑張って国外事業者から徴収していくことにしたと(サービスの属性による区別なので、必ずしも「消費者」とはかぎりませんが)。


 消費者向けがインボイスに統合されたことで、国外事業者の登録が進むでしょうか。国外事業者にとっては何も状況は変わっていないわけで、とても進むとは思えません。

 非登録の「国内」事業者は、インボイスによって事業取引から追放されようとしているのに対して、非登録の「国外」事業者は、相変わらず安全地帯から取引が可能、ということにならないでしょうか。
 インボイス推進派の皆さんは、インボイス導入によって国内事業者を分断させておきながら、国外事業者に対する課税強化が図られない現状をどう思うのでしょうか。

 消費税法に「電気通信利用役務の提供」に関する規律を持ち込んだのは、内外の競争条件の平等化を図るためだったはずです。今般、内外ともインボイスで統一することにより、形式的にはルールは同じに揃いました。
 が、ルールを共通化することによって、内外の執行可能性とか捕捉率の違いというものが、正面から問題となってきます。内外でルールを揃えたことでかえって、消費税に関しては国内事業者が国外事業者と対等に争うことはできなくなります。

【インボイス前】
    ルール 運用
 国内:ゆるい 強い
 国外:厳しい 弱い

【インボイス後】
    ルール 運用
 国内:厳しい 強い
 国外:厳しい 弱い

 インボイス推進派の皆さんは、国内事業者間の分断を煽っている場合ではなく。国外事業者と戦うための条件整備を求めるべきだったのではないでしょうか。


 と、単に条文をコピペ陳列しただけで、ここまでの整理ができました。

 とすると、なおさら『インボイスさえあれば「消費者向け/事業者向け」が区別できる!』などいう、奇妙な主張が出てきた理由が理解不能です。

 インボイスが関わってくるのは、「消費者向け/事業者向け」の性質決定がされた後の、消費者向けのほうの仕入控除の段階ではじめて出てくるものです。
 インボイス施行前にしても、《先取りインボイス制度》としての登録国外事業者登録制度があったわけで、これをインボイスに置き換えれば容易に想像できたはずのものです。

 そこで、次回、どれだけ現実の消費税法をガン無視して妄想度を高めていけば、インボイスが「消費者向け/事業者向け」の区別に機能する制度を構想できるか、少し考えてみます。
posted by ウロ at 10:54| Comment(0) | 消費税法

2023年01月09日

電気通信利用役務の提供の構造2 〜消費税法の理論構造(種蒔き編14)

 インボイス施行により、電気通信利用役務の提供の規律がどのように変容するか。

電気通信利用役務の提供の構造1 〜消費税法の理論構造(種蒔き編13)

 以下、引用する条文がぐっと減ります。


 変わったのは、仕入税額控除のところだけです。

第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
1 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が、国内において行う課税仕入れ(特定課税仕入れに該当するものを除く。以下この条及び第三十二条から第三十六条までにおいて同じ。)若しくは特定課税仕入れ又は保税地域から引き取る課税貨物については、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める日の属する課税期間の第四十五条第一項第二号に掲げる消費税額(以下この章において「課税標準額に対する消費税額」という。)から、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れに係る消費税額(当該課税仕入れに係る適格請求書(第五十七条の四第一項に規定する適格請求書をいう。第九項において同じ。)又は適格簡易請求書(第五十七条の四第二項に規定する適格簡易請求書をいう。第九項において同じ。)の記載事項を基礎として計算した金額その他の政令で定めるところにより計算した金額をいう。以下この章において同じ。)、当該課税期間中に国内において行つた特定課税仕入れに係る消費税額(当該特定課税仕入れに係る支払対価の額に百分の七・八を乗じて算出した金額をいう。以下この章において同じ。)及び当該課税期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物(他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。以下この章において同じ。)につき課された又は課されるべき消費税額(附帯税の額に相当する額を除く。次項において同じ。)の合計額を控除する。

6 第一項に規定する特定課税仕入れに係る支払対価の額とは、特定課税仕入れの対価の額(対価として支払い、又は支払うべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額をいう。)をいい


 まず、「事業者向け」については、何の影響も受けていません。
 課税される仕入(4条・5条)も控除される仕入(30条)も、インボイスの有無とは無関係に算出されることに変わりはありません。

 課税ベース拡大という下心からすれば、
  課税される仕入:問答無用で課税
  控除される仕入:インボイスがなければ控除不可
という規律もありえたはずです。
 課税は広く・控除は狭くのインボイス制度の元でならば、それぐらいのことをしてきてもおかしくない。4条・5条はそのままで30条だけ書き換えれば済む話ですし。

 それをしなかったのは、やはり、(事業者向けサービスを)国外事業者から仕入れた事業者が、同じ仕入につき納税はしなければならないのに控除はできない、などという事態を招くのはさすがに誤魔化しきれない、と思ったからなんでしょうか。

 売上:国外事業者の代わりにお前が納付しろよ
 仕入:インボイスをもらえなければ控除はさせないよ

 これが別主体になった途端、受け入れてしまうのが、インボイス推進派の皆さん。


 「消費者向け」のほうは、平成27年改正附則38条が無くなっていました(同42条のほうは存続)。

(消滅)附則第三十八条(国外事業者から受けた電気通信利用役務の提供に係る税額控除に関する経過措置)
1 事業者が、新消費税法適用日以後に国内において行った課税仕入れのうち国外事業者(新消費税法第二条第一項第四号の二に規定する国外事業者をいう。以下附則第四十条までにおいて同じ。)から受けた電気通信利用役務の提供(同項第八号の三に規定する電気通信利用役務の提供をいい、同項第八号の四に規定する事業者向け電気通信利用役務の提供に該当するものを除く。以下この条及び次条において同じ。)に係るものについては、当分の間、新消費税法第三十条から第三十六条までの規定は、適用しない。ただし、当該国外事業者のうち登録国外事業者(次条第一項の規定により登録を受けた事業者をいう。以下附則第四十条までにおいて同じ。)に該当する者から受けた電気通信利用役務の提供については、この限りでない。

(存続)附則第四十二条(特定課税仕入れに関する経過措置)
 国内において特定課税仕入れを行う事業者の新消費税法適用日を含む課税期間以後の各課税期間(新消費税法第三十七条第一項の規定の適用を受ける課税期間を除く。)において、当該課税期間における課税売上割合(新消費税法第三十条第二項に規定する課税売上割合をいう。)が百分の九十五以上である場合には、当分の間、当該課税期間中に国内において行った特定課税仕入れはなかったものとして、新消費税法の規定を適用する。


 「国内課税仕入」が旧附則38条と同じ規律になったため、そこに吸収されたかたちになります(施行前取引に関する経過措置はあります)。
 消費者向けの規律が消滅した、と思いきや、消費者向けはあくまでも「国内課税仕入」の一味なので、特別の規定がないかぎりは国内課税仕入の規律に従うことに戻ります。

 結果、消費者向けについては「内外判定」だけが特別の規律として残されたということになります。
 しかしまあ、同じ「当分の間」でありながら、一方は数年でお役目御免、他方はいつまで続くかわからない、と大きく分かれる結果に。


 「消費者向け」がインボイスに吸収されたことで気づく点がひとつ。

 確かに、国外事業者が納税義務者になる場合であれば、取りっ逸れのないように登録制度を設けようというのは理解できなくはないです。他方で、国内事業者に対してもわざわざ登録制度を設ける必要があったのかどうか。

 ・売上側から回収できるか分からないから、仕入側の控除を限定しておこう。
 ・売上側が納税してくれたら過大課税になってしまうけど、税収増えるからいいよね。

と、お国の側が皮算用するのは当然といえば当然です。が、それを専門家たちすら推進しようとする動機が理解不能です。

 非登録の国内事業者(課税事業者)は、同じく非登録の国外事業者と同じように、納税してくれるかどうか分からんアウトローとして位置づけられているということですよね。

 非登録の国外事業者(事業者向け):仕入側に納付させる(リバースチャージ)
 非登録の国外事業者(消費者向け):インボイスがないから控除できない
 非登録の国内事業者:インボイスがないから控除できない


 「登録国外事業者名簿」をみれば分かる通り、登録がたいして進んでいるようにも思えないのに、インボイスに吸収されたからといって、今後国外事業者の登録が進んでいくとも思えませんが。

国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税関係について(国税庁)
登録国外事業者名簿

 今後は「消費者向け」についても、仕入側が課税事業者であるかぎり「リバースチャージ」を適用する、とかなっていくんでしょうかね。
 まあ、登録しなけりゃ控除できないという規律自体が、《擬態リバースチャージ》として機能しているようにも思えますが。
posted by ウロ at 08:00| Comment(0) | 消費税法